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特集 2025年7月24日

環境科学領域総括に聞く―人と地球の健康を守る―

理研の強みである総合力を生かし、戦略性をより重視した効果的な運営を行うため、理研が2025年度から導入した五つの「研究領域」の仕組み。それぞれの研究領域には、国際的に卓越し、学問的にも研究運営においても極めて高い見識を有する科学者を「領域総括」として据え、高度な専門知にもとづく分野横断的な協働をうながし、「新たな知の創出」を加速します。領域総括とともに研究の推進を支えるのは推進部長たちです。

研究者と事務部門、双方の視点で、「環境科学領域」が目指すものを聞きました。

環境科学領域
グローバル・コモンズの維持および人と地球の健康の両立に向けて、生物資源と生産・物質循環・共生と環境に関する研究開発により持続可能な社会の構築を目指す。
齊藤 和季の写真

齊藤 和季(サイトウ・カズキ)

領域総括

地球温暖化などの気候変動、生物多様性の喪失、新規化学物質、農業などの産業による環境負荷――。人類の活動規模があまりにも大きくなった今、地球は「プラネタリー・バウンダリー」と呼ばれる指標のいくつかで限界点を超えつつあります。プラネタリー・バウンダリーは、人類が地球上で持続的に生存するために超えてはならない限界点のこと。このままでは地球、そしてそこに住む私たち人類の健康や生存の維持は困難です。

私たち環境科学領域は、科学技術の力でグローバル・コモンズ(地球システムという人類の共有財産)を維持し、人と地球の健康を両立させることを使命としています。

ゴールは持続性の維持

環境科学領域の特徴は、名称が学術分野を指すだけでなく、「持続性の維持」という明確なゴールも示している点にあります。多様な専門性を持つ研究者たちが共通の目的に向かって意識を統一し、一体となって研究を推進できるという大きな強みを持っています。

本領域は、環境資源科学研究センター(CSRS)の全てと、バイオリソース研究センター(BRC)のうち植物や微生物を扱う一部のグループからなります。30人超のPI(研究室主宰者)がそれぞれのチームを率い、極めて水準の高い研究を展開しています。

植物科学と触媒化学、ケミカルバイオロジーを軸に、持続可能な未来を目指した研究を進めています。植物や微生物の生産性や機能の向上は、食料供給の安定化や、化石資源に依存しない社会の実現において重要な役割を果たします。また、高機能な触媒や革新的な高分子材料の創製は、資源消費や廃棄物を削減した「資源循環型」社会の構築に貢献します。さらに、植物と微生物の共生関係を解明することで、環境負荷の少ない農作物や物質の生産にも取り組んでいます。

例えば、気候変動によって変化した環境に耐性のある植物の開発は重要な研究テーマです。エタノール処理で乾燥耐性を強化する技術は、コムギやイネ、キャッサバ、トマト、レタスなどの主要作物にも効果があり、生産現場への応用が期待されます。

このほか、CSRSはメタボローム解析やマルチオミクス解析、多様性ゲノム解析、化合物ライブラリーといった世界トップレベルの研究基盤を有しています。BRCは生物多様性の保全と研究の信頼性確保に不可欠な植物や微生物などの多様なバイオリソースを提供しており、領域の強みとして機能しています。

私は領域総括として、研究者たちが自身の知的好奇心に基づいた研究に存分に取り組める環境を整備し、その成果が社会に貢献できるようコーディネートする役割を担っています。

研究に費やす時間や資金といったリソースの確保はもちろんのこと、新しい発想を生むために海外機関を含めた他分野の研究者との活発な意見交換を促すことも重視しています。

研究者にとって、自身の興味から始まった研究が認められることは大きな喜びですが、それが実際に人々の役に立つ社会実装へとつながったときには、喜びは何倍にも膨らむと考えています。

プラネタリー・ヘルスの実現を目指して

国連がSDGsの達成目標とした2030年が迫っています。環境科学領域は、迅速な対応が求められる短期的な課題と、10年、20年先を見据えた長期的な視点での研究開発のバランスを巧みに取りながら、責任ある研究を推進していきます。

私たちの最終的な目標は「人と地球の健康の両立(プラネタリー・ヘルス)を実現する」ことです。これにより、人と地球の健康を守り、科学の力でより安全で公正な社会を築き、持続可能な未来への道を切り開くことに貢献します。

丸山 亮介の写真

丸山 亮介(マルヤマ・リョウスケ)

環境科学研究推進部 部長

環境科学領域では、社会課題解決につなげるための社会実装が特に重要です。このため、人文・社会科学や経済分野などの研究機関とのコーディネーションにも力を入れたいと考えています。

(取材・構成:根本 毅/撮影:竹内 紀臣)

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