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かくれたものを見る

鉄やコンクリートの中を見る?!

みなさんは、大きな岩や建物の太い柱を見て、「この中はどうなっているんだろう?」と想像したことはありませんか? 石やコンクリートの中身を透視できたら、きっと面白いし、便利なこともあるでしょう。私はこれまで、「中性子をビームにする」技術を使って、ものの中身を見る研究をしてきました。

中性子は、この世界のすべてのものをつくっている「原子」という粒の中に必ずある、とてもありふれたものです。しかし、身近な場所で、安全にとり出して使う技術がなかったために、これまでの利用は限られていました。

上の写真に写っているのは私たちが開発した装置です。この装置でつくった中性子ビームは、コンクリートや鉄など、社会で使われている厚みのあるものに入り込むことができます。たとえば、40cmの深さにできたすきまやたまった水などを見つけたり、数cmの深さにふくまれる物質を分析したりするのに使われます。

中性子ビームを使って何をするか、私が最初に考えたのは、世の中の役に立つために、大きなものの中を見ることでした。日々の生活で使われている道路や建物は、外見はきれいでも中は割れてさびていたり、こわれていたりすることがあります。コンクリートの中を見て、さまざまな事故を防ぎたい、と考えました。

装置は初め、全長15mの大きさのものでしたが、最近ではトラックにのせて運べる3mぐらいの装置の開発も進んでいます。今ではくらしの中のさまざまなものの点検を頼まれることが多くなり、私たちはその期待に応えようと、毎日研究を進めています。

博士からみんなへ「考えてみよう」

外から見た印象と中身がちがうものって何かな?

キャラクター画像「キウイ!外は茶色で毛だらけ、中は緑でジューシーなくだものだよ」「ぬいぐるみ!クマだってイルカだって中はふわふわのわただもん!」

どんなものが見える?

中性子ビーム 透視の術

私たちのくらす街には、コンクリートや鉄でできたものがたくさんある!
その中は目では見えないけれど、中性子ビームで見ることができるよ。

鉄やコンクリートを透視した画像 画像提供:*1 "Journal of Applied Crystallography"(2020).53,444-454/*2 PIXTA
キャラクター画像「中性子ビームで見るといつもみているかたいものがちがって見えるね!」

透視の術を使えばできる!
建物の健康診断

道路や橋の中を中性子ビームで見ると、どんな状態なのかが見えて、異変に気づくことができる。事故が起きる前に防ぐことにつながるよ。

中性子ビームでの診断イメージ図
トラックに乗せられる装置のイメージ図
さまざまな場所に装置を運んでいって健康診断するためには、装置を小さくすることが重要なんだ。

中性子って何?

水や石のような物体から、動物や植物などの生きものまで、この世界のあらゆるものをつくっている小さな粒を「原子」といいます。「中性子」は、その原子の中心にある原子核をつくっているさらに小さな粒の一種です。

原子の図。キャラクター画像「鉛筆や消しゴムも原子でできていて、原子核の中に中性子があるよ!」

中性子ビームって何?

中性子だけをとり出して、たくさん集めてとばすのが中性子ビームです。ものを通りぬける性質がありますが、ビームの強さと速さをコントロールすることで、厚みのある鉄やコンクリートの中では、ある深さで止めることができます。また水にぶつかると止まるという性質ももっています。

中性子ビームで見るステップ

  • 原子から中性子をとり出す。
  • 中性子を集めてビームにし、見たいものにあてる。
  • ものを通りぬけた中性子を計測器で受けて、中のようすを見る。
中性子ビームで見るステップ図 上の図の緑の矢印のように、中性子がぶつかったときに出てきたガンマ線を測ると成分を調べることもできる。
成分はグラフになって見える。 画像提供:JAXA

中性子ビームの他にもある!
"かくれたものを見る"あれこれ

私たちヒトの目で見えるものには限界があるよね。でもなんとかしてその限界を超えたい!と願って、今までたくさんの博士たちが、さまざまな方法を研究し、技術を実現してきたよ。
中性子ビームで見る技術もそのひとつ。またその他にも、X線、紫外線、赤外線などの"目に見えない光" を使って見る方法も開発されてきた。目に見えないビームや光を使うことで、ヒトの目の限界を超えたものの姿が見えてくるんだ。

手のレントゲン写真

X線:からだの中を見る

レントゲンは皮膚を通して骨を見ることができる。
普通のカメラと紫外線カメラで撮影した菜の花の写真

紫外線:虫が見るもようを見る

菜の花。左は普通のカメラで撮影、右は紫外線カメラで撮影。紫外線をとらえることができる虫の目には、花びらの蜜の近くなどにヒトには見えないもようが見えていることがわかる。画像提供:福岡教育大学 教育学部 福原達人
普通のカメラと赤外線カメラで撮影したりんごの写真

赤外線:果物の中を見る

左は普通のカメラで撮影、右は赤外線カメラで撮影。成分によって光のはね返りかたがちがうから、外側はきれいに見えても中に傷んでいるところがあるかわかる。画像提供:浜松ホトニクス
普通のカメラと赤外線カメラで撮影したマウスの写真

赤外線:動物の体温を見る

左は普通のカメラで撮影、右は赤外線カメラで撮影。熱を見ることができるので、動物の体温が見えて活動のようすがわかる。左が活動中のマウスで右が冬眠のような状態で活動を止めているマウス。
普通のカメラと赤外線カメラで撮影した干しえびの写真

テラヘルツ波:透け透けにして見る

左は普通のカメラで撮影、右はテラヘルツ光で撮影。干しえびの中が透けて見える。テラヘルツ波は、生物の体 だけでなく紙やプラスチックも透視できる。
大竹先生の写真

見えているものって、限られていると思いませんか?たとえば、音楽は目に見えないけれど、人の心を動かす力をもっていますね。目に見えないものを見ようとすると、見えているものがいかに少ないか気づきます。見えないものを見ようとするのは、科学の大事なことのひとつです。

博士からみんなへ「考えてみよう」

"見る"って、どういうことなんだろう? 目に見えないものを数字や画像で表すと、どんなことに役立つのかな?

キャラクター画像「友だちの気持ちを数字やグラフで見ることができたら楽しそう!」

(撮影:増田智泰/イラスト:福田透/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

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