選書アドバイザー 中村 泰信

中村 泰信
量子コンピュータ研究センター センター長
次世代の情報処理を担う量子コンピュータを研究。その心臓部となる「超伝導量子ビット素子」の開発に世界で初めて成功した。小学生の頃から大の読書好きで、今も年間50~100冊を読破。科学に限らず、歴史や小説、漫画からライトノベルまで幅広いジャンルを読む。
コメント
読書では自分とは異なる人生を垣間見ることができます。本を通して研究者の生きたストーリーやドラマに触れてみてください。
担当テーマ
科学道100冊 2021 未来エンジニアリング
推薦本
2021

『暗号解読(上)(下)』
- サイモン・シン(著)青木 薫(訳)
- 新潮社 2007年
作成者と解読者の生存競争 暗号をめぐる知のバトル
スコットランド女王の暗号手紙は読み解かれ、彼女は処刑された。最強と言われたドイツ軍の暗号は天才の努力の末に破られた。情報ネットワーク時代、さらに強力な暗号技術が必要とされている。『フェルマーの最終定理』のサイモン・シンが取材した暗号の歴史と未来。実際の暗号を多数掲載、解読に挑戦してみよう。
推薦コメント
腕利きのサイエンスライター、サイモン・シンが描く暗号技術の歴史。暗号は一見地味な分野ですが、実は情報科学の最先端で、インターネットの安全も支えている重要なテクノロジーです。最後の章は、来たる量子コンピュータ時代の暗号について。自身の研究とも関わりが深く夢中で読みました。
2021

『脳はバカ、腸はかしこい』
- 藤田 紘一郎(著)
- 三笠書房 2019年
脳と腸はこんなに密接!脳だけで人間は語れない
うつ病や少子化の原因も、脳で考えすぎることにある?寄生虫博士こと藤田 紘一郎 先生は、脳偏重の世に警鐘を鳴らし「腸を可愛がれば、頭が良くなる!」と断言する。実は、幸せ物質のセロトニン、ドーパミンも腸で合成されるのだ。脳科学の世界でも注目される「脳と腸の関係性」をわかりやすく解説。
推薦コメント
私が子供の頃には花粉症で悩む人は周りにいませんでした。花粉症が増えてきたのはどうやら暮らしの変化と腸が関係しているらしい。そんな身近な話から興味を持って読みました。腸に関する本は最近ブームですが、藤田 紘一郎さんはその先駆者と言える方です。脳にも勝る腸の大切な働きを、中高生でも読みやすく解説してくれています。
2021

『意識はいつ生まれるのか─脳の謎に挑む統合情報理論』
- マルチェッロ・マッスィミーニ、ジュリオ・トノーニ(著)花本 知子(訳)
- 亜紀書房 2015年
脳の最大の謎「意識」はどのように生まれるのか?
解剖実験中、手のひらに脳を載せ、数時間前までその中に、知識、記憶、夢など全てが宿っていたことに愕然とした。著者・精神科医トノーニの学生時代の思い出から本書は始まる。ただの物質である脳に、どうして意識が宿るのか?革新的な統合情報理論「Φ理論」によってその正体に迫っていく。
推薦コメント
脳科学の最先端で、意識のメカニズムに迫ろうとする研究者の迫力と興奮が伝わってきました。研究は一人ではできません。こうした自身の研究のワクワク感を周囲に伝え広めていくことは、研究者としてとても大切なことだと思います。
2021

『風の谷のナウシカ 全7巻箱入りセット』
- 宮崎 駿(著)
- 徳間書店 2003年
人類は滅びるべきなのか?宮崎 駿が描く科学文明のその後
映画は序章にすぎなかった!現在の科学文明が戦争で滅びた1000年後。死の森・腐海に覆われた大地で、人と自然の歩むべき道を求めて孤軍奮闘するナウシカは、驚くべき真実にたどりつく。宮崎 駿が10年以上書き紡いだ大作漫画。環境問題への強烈なメッセージ。
推薦コメント
私は1968年生まれなので、今よりは社会に残る戦争の記憶が近かった世代です。ナウシカを読むと、宮崎 駿さんの反戦の思いを強く感じます。人類と文明のあり方について考えさせられる名作だと思います。映画版よりもはるかに奥深いです。
2021

『土と内臓─微生物がつくる世界』
- デイビッド・モントゴメリー、アン・ビクレー(著)片岡 夏実(訳)
- 築地書館 2016年
嫌われ者?それとも味方?土と人体をつなぐ微生物
著者は、地質学者の夫と生物学者の妻。2人は荒野だった新居の庭に有機物を与えて、生命溢れる庭に変えた。しかし、妻がある日がんになる。これらの経験から、土壌の中と腸の中に棲む微生物に注目し、研究にどっぷりハマった。微生物の重要な働きを知り、食物や人体への見方も変わる。
推薦コメント
土と内臓。一見関係なさそうに思えますが、実は人間の「内側」の腸の中と、植物の「外側」の根の周りが非常に類似した環境にあるということが書かれています。環境やからだへの見方が変わる一冊です。