1. Home
  2. 広報活動
  3. お知らせ
  4. お知らせ 2009

2009年11月20日

理化学研究所

理研科学者会議の野依理事長に対する具申書(理化学研究所の戦略的研究プロジェクトに関する行政刷新会議「事業仕分け」について)

この度、独立行政法人理化学研究所 理研科学者会議は、理化学研究所の戦略的研究プロジェクトに関する行政刷新会議「事業仕分け」について提言をまとめ野依良治理事長に具申しました。

衆議院選挙後の政権交代に伴い、旧政権下で提案・継続されてきた国家事業に関して、新政権の下で見直し作業が進行している。理化学研究所(以下、理研)が中心となって推進している科学技術事業のいくつかについても、行政刷新会議「事業仕分け」の対象として議論され、「次世代スーパーコンピュータ技術の推進」が来年度の予算計上の見送りに限りなく近い縮減という厳しい判定が下されたばかりでなく、「大型放射光施設運営事業(SPring-8運転資金)」「植物科学研究事業」「バイオリソース事業」の3事業についても大幅な予算縮減という意見のとりまとめがなされた。これらワーキンググループからの提言がそのまま実施されるならば、理研はかってない大幅な研究費削減の下での活動を余儀なくされることとなり、今後の理研の研究のあり方に深く波及する事項であることは疑う余地もない。この現状を深く憂慮し、理研科学者会議はここに声明を発する。

上記の対象事業は、理研が中心的役割を果たしつつ計画・推進しているものであるが、すべて長期的戦略に沿った国家プロジェクトであることを忘れてはならない。すなわち、これまでに総合科学技術会議をはじめとする政府のさまざまな委員会・審議会において、多くの専門家と一般委員を交えて審議・検討がおこなわれ、科学技術基本計画にも盛り込まれるなど、多くの議論を経てその遂行が決定されてきた経緯がある。特に、次世代スーパーコンピュータ開発は、国会決議を経た国家戦略事業のひとつとして認識されており、民主党を含む当時の野党も付帯決議としてこの事業の遂行のための充分な予算措置をとることを認めている。研究現場においても、その開発には国内外の研究者から大きな期待が寄せられており、強い連携で結ばれた多数の研究チームから詳細な利用計画が既に提出されている。今回の「事業仕分け」における限られた時間の中では、こうした歴史的背景と現状についての認識を充分に共有することは困難であり、議論を深めることができないまま結論を急がざるを得なかったことは、大変残念であった。

これまでの科学技術政策を「国民目線」で再検討しようとする新政権の積極的姿勢に異議はない。今回の「事業仕分け」の試みが国民に開かれた予算編成を目指すための歴史的な一歩となるであろうことは、我々科学者も高く評価するところである。しかし、現行のやり方に改善の余地がないとはいえまい。科学技術政策の評価には、正しい専門的知識が必須であることはいうまでもないが、教育・人材育成・国際貢献という、見えにくい視点を決しておろそかにしてはならない。過度な効率主義・成果主義に傾いた評価が、我が国の将来に大きな禍根を残す結果に繋がりかねないことを強く懸念するものである。

先だっての政権交代にあたり、理研科学者会議は、現場の科学者の意見を代表するものとして、「科学技術立国」を標榜する民主党新政権の科学技術振興政策に大きな期待をもつとの声明を発信した。その中で特に強く要望したことは、グローバルかつ長期的な視野をもつ科学技術振興政策の推進である。21世紀は、持続可能な社会構築という巨大な問題に対して、科学技術の貢献がこれまで以上に期待されている時代である。エネルギー・環境・医療・食料問題は、国際的な連携を考慮せずに前進することは不可能である。一方、科学技術立国を掲げるわが国にとって、科学技術の独創性・自立性を担保することも必要不可欠な要素であり、国家による戦略的科学技術事業は、国の未来を左右する最重要課題といっても過言ではない。いま新政権に求められていることは、現場の声に根ざし長期的展望をもった科学技術政策の立案であり、それを遂行するための強いリーダーシップである。わが国の科学技術の現在と未来を強化することに加え、国際社会からより高い尊敬を集められるような指導力を期待したい。

理研科学者会議
議長 茅 幸二

※理研研科学者会議
長期的かつ広い視野に立って行うべき研究分野、そして理研の研究者のあるべき姿について、理事長の諮問に答申するとともに独自に検討した事項等を理事会に提言することを目的とする組織。理研のセンター長、主任研究員、グループディレクターなど、理研研究者約30名で構成。

Top