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2010年12月6日

理化学研究所

ヒト細胞の多様性に初挑戦・・・国際プロジェクト「FANTOM5」が始動

-米国ヘリコスバイオサイエンス社の一分子シーケンシングを採用-

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)オミックス基盤研究領域(理研OSC、林崎良英領域長)は、さまざまな種類のヒト細胞を使って、転写開始部位の系統的マッピングに取り組む国際的プロジェクトFANTOM※15の開始とこの共同研究者募集のお知らせを、12月7日に神戸国際展示場(神戸ポートアイランド)で開催される日本分子生物学会年会・日本生化学会大会合同大会で発表します。

このプロジェクトに先だって、理研OSCは米国Helicos BioSciences社(ヘリコスバイオサイエンス社)※2と共同研究を行い、理研独自の遺伝子発現解析技術であるCap Analysis of Gene Expression(CAGE)法※3を一分子シーケンサーHeliScopeTMへ適用する技術を開発しました。本技術は、従来のシーケンシングで必要なポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法によるDNA増幅処理を行わずに、転写開始点を同定することが可能です。そのため、データの再現性が非常に高く、測定感度の幅も広がり(ダイナミックレンジが5桁以上)、わずか100ナノグラムのRNAサンプルから、遺伝子発現量の定量ができます。

国際コンソーシアムのFANTOMプロジェクトは、林崎良英領域長の発案により2000年に発足しました。FANTOM1~3では、マウス百科事典計画で完全長cDNAを集大成しました。この成果は、現在でも最大規模の哺乳類完全長cDNAデータベースとして、さまざまな研究に活用されています。FANTOM3では、CAGE法を導入し、ノンコーディングRNA(ncRNA)の大量発見という「RNA新大陸」を明らかにし、その発現制御に考察を加えました。FANTOM4では、CAGE法と転写因子※4結合部位予測を使って転写因子ネットワークを描き、急性骨髄性白血病細胞株を用いた単球分化過程に関与する重要な転写因子を同定することに成功しました。

FANTOM5では、さまざまな種類のヒト細胞を定義する転写因子ネットワークを解析し、さらなる飛躍を目指します。具体的には、ヒト細胞における転写制御の仕組みを系統的に理解することを目標に掲げました。ヒト細胞は、個体の中で同じゲノム配列を持ちながら、臓器、器官や時系列での位置により、非常に多くの多様性を持っています。異なる状態にある細胞は、異なる遺伝子を発現しており、それらは転写因子のさまざまな組み合わせにより制御されています。この細胞の多様性を系統的に理解するには、さまざまな状態の細胞種を可能な限り収集し、各々の転写因子ネットワークを解析する必要があります。

理研OSCは、ヒトの各種初代培養細胞を大規模に収集してきた下地をもとに、さらに希少なタイプの細胞を収集するため、サンプル提供とその解析を希望する共同研究者を募集します。

FANTOM4には、オーストラリア、シンガポール、スウェーデン、南アフリカ、イタリア、ドイツ、スイス、英国、米国などを含む全世界の15カ国から、51の研究機関などの研究者が参加しましたが、FANTOM5はそれを上回る規模の国際コンソーシアムになると予想されます。

プロジェクト開始と共同研究者募集のお知らせは、12月7日~10日に神戸国際展示場(神戸ポートアイランド)で開催される日本分子生物学会年会・日本生化学会大会合同大会にて発表します。

お問い合わせ先

独立行政法人理化学研究所 オミックス基盤研究領域
領域長 林崎 良英
Tel: 045-503-9222 / Fax: 045-503-9216
fantom5_enquiries [at] gsc.riken.jp
※[at]は@に置き換えてください。

横浜研究推進部 企画課
Tel: 045-503-9117 / Fax: 045-503-9113

報道担当

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

補足説明

  • 1.
    FANTOM
    2000年に、理研旧・ゲノム科学総合研究センター 遺伝子構造機能研究グループ(現・オミックス基盤研究領域)が中心となって結成した、哺乳動物(マウス)の遺伝子を網羅的に機能注釈することを主眼とする国際的研究コンソーシアム共同集団(Functional ANnoTation Of Mammalian cDNA)の略称。現在は活動範囲を拡大し、遺伝子ネットワークの解明に取り組んでいる。最近のプロジェクトFANTOM4では、オーストラリア、シンガポール、スウェーデン、南アフリカ、イタリア、ドイツ、スイス、英国、米国などを含む全世界の15カ国から、51の研究機関などが参加している。
    FANTOM1

    遺伝子の機能注釈のルールや方法について取り決めを行い、遺伝子の機能注釈を効率的に行なうシステムを開発した。

    FANTOM2

    60,770セットのマウス完全長cDNAの塩基配列および機能注釈を行った。この活動は、世界で初めて哺乳類の完全長cDNAの標準化を行ったもので、成果論文はマウスゲノム解読の報告とともに、Nature特集号に掲載された。

    FANTOM3

    2005年、米国の科学雑誌『Science』のRNA特集号(9月2日号)に、ライフサイエンスの転機となる2報の成果を報告し、「RNA新大陸の発見」として大きな反響を与えた(2005年9月2日プレス発表 )。

    FANTOM4

    特に転写制御ネットワークの解明を目指して、2006年にスタート。単芽球から単球への分化過程に照準を当て、生命活動を分子レベルで明らかにし、Nature Geneticsの特集号にて発表した(2009年4月20日プレス発表)。

    FANTOM5

    FANTOM4で開発した転写制御ネットワークの解析技術を活かして、ヒト細胞の多様性の解明を目指す。FANTOM5 headquarterとして、林崎良英、Alistair Forrest(アリスター・フォレスト)、河合純、Piero Carninci(ピエロ・カルニンチ)、川路英哉、Carsten Daub(カールステン・ダーブ)、鈴木治和がオーガナイズを務める。

  • 2.
    Helicos BioSciences社(ヘリコスバイオサイエンス社)
    tSMSTM (true Single Molecule Sequencing) 技術を中心とした、革新的なDNAシーケンシング技術を開発する米国ベンチャー企業。米国が中心となって進めている1,000ドルゲノム計画(1,000ドルで1人のゲノムを読めるようにしようという計画)の資金提供を受けて2004年に設立。理研OSCは、2009年より共同研究を開始し( 2009年9月8日プレス発表)、現在HeliScopeTMを4台所有している。
  • 3.
    Cap Analysis of Gene Expression(CAGE)法
    理研OSCが開発した方法で、耐熱性逆転写酵素やcap-trapper法を組み合わせて、5'末端から20塩基のタグ配列を切り出し、塩基配列を決定する実験技法。この塩基配列を読み取ってゲノム配列と照らし合わせ、どの部分がコピーされているかを調べることができる。
  • 4.
    転写因子
    DNA上のプロモーターと呼ばれる、転写開始を促す活性を持つ特定の領域・塩基配列に特異的に結合し、RNAへの転写の過程を促進または抑制する一群のタンパク質。iPS細胞を作成する際に、導入される遺伝子も転写因子である。

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