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2013年9月13日

理化学研究所

理研と土木研究所が連携協力協定を締結

-社会基盤の安全性の確保および長寿命化への貢献を目指す-

独立行政法人理化学研究所(理研、野依良治理事長)光量子工学研究領域(RAP:緑川克美領域長)と独立行政法人土木研究所(魚本健人理事長)構造物メンテナンス研究センター(CAESAR:吉岡淳センター長)は、光量子工学技術の研究・開発を推進し、橋梁など大型構造物の内部を非破壊で検査・健全性診断することを目指して、連携協力協定を締結いたしました。

背景

理化学研究所光量子工学研究領域(RAP)は、レーザー光、テラヘルツ光、中性子ビームなどの光量子ビーム技術とボリュームCAD(VCAD[1])システムを活用して、「見えないモノを見る Making the invisible visible」を目標に、非破壊検査技術や計測データを使ったシミュレーションによる予測診断技術の開発を行っています。この技術は、工学分野だけでなく、生体組織や細胞構造にも応用でき、情報技術と生物科学や医療などの異なった分野を結びつける新たな技術として注目を集めています。

土木研究所構造物メンテナンス研究センター(CAESAR)は、橋梁など構造物の安全管理を目的とした技術の開発を行うセンターとして、2008年4月に発足しました。わが国の社会基盤は高度成長期に大量に建設され、建設後50年を経過する構造物が今後飛躍的に増加していきます。これらを適切に維持・管理していくために、検査技術や評価・予測技術、補修・補強技術などの研究開発を積極的に行っています。

道路や橋、港湾、電力送電線などは、国民の安全・安心な生活を支える重要な社会インフラで近年その老朽化などを原因とする大規模なトンネンル天井落下事故、落橋事故が発生しています。現在、こうした社会インフラの検査は目視点検を基本にしており、ひび割れなどの損傷が見つかった場合には、詳細調査により損傷の原因や重篤度に関する情報を得ています。また、構造物内部の損傷状況を把握するために非破壊検査を行っていますが、現在の検査技術では取得できる情報に限界があるため、革新的な検査技術の開発が世界中で求められています。

透過性に優れる中性子ビームやテラヘルツ光、レーザー光などを利用したイメージング技術を応用すると、送電線の内部や、コンクリートや鉄骨・鋼板で構成された大型構造物についても、非破壊でその内部構造のデータを取得することが可能です。さらに計測データに基づいてシミュレーションを行うことで、内部構造の劣化の進展度合いを解析できます。しかし、中性子光を使った非破壊検査を例にとれば、現在国内で稼働している中性子ラジオグラフィー装置[2]は、日本原子力研究開発機構、大強度陽子加速器施設(J-PARC)、京都大学、北海道大学など数カ所に設置されているだけで、いずれも移動が不可能な大型装置です。従って、橋梁などの構造物の内部構造を現地で検査・解析するために、小型で可搬型の装置の開発が課題になっています。

RAPでは「RANS[3](理研小型中性子源システム)」の開発を進めています。2013年1月には数10cm以上の厚さを透過できる高速中性子(エネルギーはメガ電子ボルト)と物質構造解析やイメージングに適する熱中性子(エネルギーはミリ電子ボルト)の取り出しに成功しました。現在は橋梁内部非破壊観察のための大面積全天候型高速中性子イメージング検出器の開発を開始し、30cm厚のコンクリート内の透過実験を行っており、可搬小型中性子源による50cm厚以上のコンクリート内部非破壊観察を目指しています。

協定の概要

理化学研究所光量子工学研究領域と土木研究所構造物メンテナンス研究センターは、光量子工学技術の研究・開発を推進し、橋梁など大型構造物の内部を非破壊で検査・健全性診断することにより、社会インフラの安全性確保と長寿命化を目指すことで合意し、連携協力協定を結ぶこととなりました。

協定の締結に基づき、相互に緊密に連携し、小型中性子イメージングシステムをはじめとした、光量子技術の研究、開発を推進します。

主に以下の項目について連携協力を行います。

  • 光量子技術研究開発の推進
  • 研究者の研究交流を含む相互交流
  • 研究施設、設備などの相互利用
  • 合同シンポジウム、セミナーなどの開催

両機関の概要

(1)独立行政法人理化学研究所

物理学、化学、医学、生物学、工学などの広範な科学・技術分野において、基礎から応用に至る研究を実施する日本で唯一の自然科学の総合研究所として、わが国の研究基盤形成、国際的にも研究水準の向上に貢献しています。

(2)独立行政法人土木研究所

土木技術の向上を図り、良質な社会資本の効率的な整備に資することを目的として設立された、日本を代表する土木関係研究機関です。研究開発のみならず、国や地方公共団体への技術指導も行っています。

調印式の写真

9月13日調印式(左)吉岡淳センター長(右)緑川克美領域長

補足説明

  • 1.
    ボリュームCADシステム(VCAD)
    理化学研究所(理研)で2001年4月から10年間にわたって開発してきたものづくりにおける企画・開発・設計・試作などを支援するための、設計、計測、画像処理、モデル化、シミュレーション、可視化、加工を統合した新しいシステム。現在は、VCADを用いて、ものの設計から機能・構造予測、製造過程シミュレーションまでを同一システム内で完結する「ものつくり産業界向けプログラム・ソフトウェア」の公開・普及」を目指す」とともに、技術の高度化やアプリケーションの層の拡大を図ることを目指している。
  • 2.
    中性子ラジオグラフィー装置
    中性子線を用いて、物体内部の透過観察を行う装置。中性子線は、X線と比較すると金属などの重元素に対する透過性が高いため、軽元素に対するコントラストが付きやすいという特徴がある。このため、大型構造物の透過観察に適していることに加え、水や油などの軽元素の観察も可能であるという特長を有している。
  • 3.
    RANS
    RANSはRIKEN Accelerator-driven compact Neutron Sourceの略称。普及型の小型中性子源システム。中性子利用に最も適した金属材料や軽元素を扱うものづくり現場への普及を目指している。
    関連動画 : YouTube RIKEN Channel「科学のフロンティア17 中性子が拓く日本のものづくり~小型中性子源の研究開発ドキュメント~

シンポジウム開催

理研RAPでは「光量子技術研究開発の推進」の一環として、2013年10月31日(木)~11月1日(金)の両日、理研和光研究所でシンポジウムを開催します。シンポジウムでは、道路や鉄道橋など社会資本施設管理に必要不可欠な大型構造物の状況を非破壊で検査・評価する技術として、先端のレーザーシステムや小型中性子イメージングシステム開発のほか、電子の動きをとらえるアト秒パルスレーザー、ナノメートルの世界を見る近接場光、蛍光タンパク質を用いた環境モニタリング、超高精度な光格子時計による相対論的な測地学など、光量子技術の新しい手法に関する取り組みついてご紹介します。

タイトル:
光量子工学研究領域発足シンポジウム
- Making the invisible visible -

日程:
2013年10月31日(木)~11月1日(金)

会場:
理化学研究所 和光研究所 鈴木梅太郎記念ホール

お問い合わせ先

独立行政法人理化学研究所
光量子工学研究推進室
室長代理 反町 耕記 (そりまち こうき)
係長 望月 達矢 (もちづき たつや)
Tel: 048-467-9258 / Fax: 048-467-9258

独立行政法人土木研究所
構造物メンテナンス研究センター
上席研究員 木村 嘉富 (きむら よしとみ)
主任研究員 本間 英貴 (ほんま ひでたか)
Tel: 029-879-6773 / Fax: 029-879-6739

報道担当

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

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