理化学研究所(野依良治理事長)の予防医療・診断技術開発プログラム(PMI、林崎良英プログラムディレクター)は、2014年12月1日、カタール・バイオメディカル研究所(QBRI、ヒラル・ラシュウェル 所長)[1]と、連携センターを設立することで合意書に調印し、締結しました。
今回の合意書締結は、2014年4月24日に理研とQBRIを傘下に収めるカタール財団[2]研究開発部門(ファイサル・アルスワイディ理事長)との間で締結された協力覚書に基づくものです。日本とカタールがバイオメディカル分野で研究協力を築くのは初めてのことです。合意書の締結にあたり、QBRI研究所長のヒラル・ラシュウェル氏は、「今回の協力関係構築で、カタール国民全体のヘルスケアを改善することになるだろう」と抱負を述べました。
設立される連携センターは、がんなどの疾患を対象とし、理研独自のシステムによる遺伝子ネットワーク解析とそれに基づくバイオマーカー[3]の探索、および人的交流を主眼としています。カタール・ドーハに整備中の研究開発施設と日本の双方に拠点が置かれ、PMIはQBRIの研究者への技術指導、データの共同解析などを行います。今後、両国の医療機関とも連携しつつ共同研究プロジェクトを順次進めていきます。
PMIは、国際コンソーシアムFunctional Annotation of the Mammalian Genome (FANTOM)[4]をリードしてきた高度なオミックス[5]関連技術、人材、ノウハウの蓄積を有しています。なかでもCap Analysis of Gene Expression (CAGE法)[6]と呼ばれる次世代シーケンサーを応用した独自技術は今回のバイオマーカー探索において大きな強みとなります。今回の連携センター設置によって、個人の遺伝子特性に基づく、体質に合った個別化医療の実現が期待されます。
左:林崎良英 プログラムディレクター(理研PMI)
右:ヒラル・ラシュウェル 所長(QBRI)
補足説明
- 1.
- カタール・バイオメディカル研究所(QBRI)
- 国民的な疾患であるがん、糖尿病の研究や、ゲノム医療・個別化医療、計算生命医科学を重点取り組み課題としている研究所。今回の理研との連携においては、がんのバイオマーカーをもとにした個別化医療に向けた研究に取り組む予定。
- 2.
- カタール財団
- カタール財団は、教育、科学技術の振興、地域開発を目的として1995年に設立されたカタール王室出資の半公的な非営利組織。総裁は、シャイハ・モーザ・ビント・ナーセル 前カタール首長妃。2007年には研究開発部門を設置し、世界中の有力大学・研究機関との連携を図り、生じる知的財産を共有しつつ革新的な技術を生み出すことに注力してきた。
- 3.
- バイオマーカー
- 疾患の存在やその進行度を客観的に測定するための指標。たとえば、腫瘍マーカーの場合、腫瘍組織が生産する特異的な物質を検出する。
- 4.
- FANTOM
- 理研のマウスゲノム百科事典プロジェクトで収集された完全長cDNAのアノテーション(機能注釈)を行うことを目的に、林崎良英プログラムディレクターが中心となり2000年に結成された国際研究コンソーシアム。その役割はトランスクリプトーム解析の分野を軸に発展・拡大してきた。
- 5.
- オミックス
- DNA、RNA、タンパク質などの生体分子を網羅的に解析する学問分野。
- 6.
- CAGE法
- 理研オミックス基盤研究領域が開発した方法で、耐熱性逆転写酵素やcap捕捉法を組み合わせて転写物の5’末端の塩基配列を決定する実験技法。この塩基配列を読み取ってゲノム配列と照らし合わせて、どこからどこまでコピーが始まっているかを調べることができる。遺伝子の転写開始点をゲノムワイドに同定できる。