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2016年6月20日

理化学研究所
株式会社ExaScaler
株式会社PEZY Computing

スーパーコンピュータ「Satsuki(皐月)」がスパコンの省エネランキングGreen500で世界第2位を獲得

― 個人オフィス環境で稼働するスパコンで初のランクイン ―

要旨

理化学研究所(理研)戎崎計算宇宙物理研究室が株式会社ExaScaler、株式会社PEZY Computingと共同で研究室内に設置している超小型の液浸冷却[1]スーパーコンピュータ「Satsuki(皐月)」が、2016年6月20日に発表された最新のスーパーコンピュータランキングの消費電力性能部門「Green500[2]」で世界第2位を獲得しました。また、皐月は絶対性能部門「TOP500[3]」にもランクインしています。通常のオフィス環境で運用されているスーパーコンピュータが、TOP500、Green500にランクインしたのは初めてです。

皐月は戎崎宇宙物理研究室内の僅か3平米のスペースに、2016年5月に設置されました。液浸冷却技術により静穏性が高く、室温を下げる必要もありません。皐月は、個人オフィスの僅かな部分を要するだけの省スペース性と、特別な計算機室を用意しなくても居室で運用できるという利便性を併せ持っています。これは、既存のあらゆるスーパーコンピュータとは一線を画した独自性と優位性であり、今後のスーパーコンピュータの在り方に新たな可能性を拓くものです。

理研、ExaScaler、PEZY Computingは、皐月の高性能化を目指す最適化作業を進めると共に、戎崎計算宇宙物理研究室における惑星形成に関する重力多体シミュレーション、生物誕生場における化学進化シミュレーション、宇宙を観測するための望遠鏡やレーザー機器の性能を最適化する光学シミュレーションなど多岐の活用を計画しています。

理研 戎崎宇宙物理研究室 戎崎俊一主任研究員のコメント

ExaScaler・PEZY Computing両社の齊藤代表から私の居室内にスパコンを設置するとの計画をお聞きした時には、本当にそれが可能なのか半信半疑でしたが、もし実現できれば大変便利になると考えて挑戦してみる気になりました。20年ほど前に重力多体問題や分子動力学の専用計算機を開発していた時に、世界一の計算スピードを持つ計算機を持った経験があるからです。身近に高性能なスーパーコンピュータを持つと、新しいアイデアを迅速に試すことができます。マシンの状況によって冷却ポンプや室外冷却器、電源が出す動作音が変化するのを聞くのは楽しいものです。

皐月という名前は、理研本部の所在地である埼玉県和光市の市の花であることにちなんでつけさせていただきました。花言葉には「節約」や「節制」とあり、電力効率で世界一を目指す皐月の名前にふさわしいと考えました。居室で皐月の設置工事が進行していた5月には、理研和光キャンパスでは皐月の花が咲き乱れて大変きれいでした。

ExaScaler、PEZY Computing両社の代表取締役、齊藤元章のコメント

理研戎崎宇宙物理研究室様に、世界の上位500位に入る演算性能をもちながら、通常の個人オフィス環境で稼働する、世界初のスーパーコンピュータとなった「Satsuki(皐月)」を設置させて頂き、無事にその運用を開始して頂きました。計測された数値は、TOP500で485位に入り、また消費電力性能部門「Green500」では世界第2位となる高い性能を確認することができました。液浸冷却技術と高効率メニーコアプロセッサ技術による超小型スーパーコンピュータの、これまでにない応用を探るべく、共同研究を進めさせて頂きたいと思います。

「ZettaScaler-1.6」液浸槽1台による液浸冷却スーパーコンピュータ「Satsuki(皐月)」のオフィス環境における設置形態の写真(液浸槽とパン、配電・制御操作盤)

【写真1】「ZettaScaler-1.6」液浸槽1台による液浸冷却スーパーコンピュータ「Satsuki(皐月)」のオフィス環境における設置形態(液浸槽とパン、配電・制御操作盤)

「ZettaScaler-1.6」液浸冷却スーパーコンピュータ「Satsuki(皐月)」のベランダ部分に設置された冷却系外観写真(熱交換器を含む室外冷凍機2台)

【写真2】「ZettaScaler-1.6」液浸冷却スーパーコンピュータ「Satsuki(皐月)」のベランダ部分に設置された冷却系外観(熱交換器を含む室外冷凍機2台)

「ZettaScaler-1.6」を構成するExaScalerの液浸冷却専用高密度演算ボード群「PEZY-SCnp Brick」の写真

【写真3】「ZettaScaler-1.6」を構成するExaScalerの液浸冷却専用高密度演算ボード群「PEZY-SCnp Brick」(皐月では写真のBrickを20台使用)

計測方法と成果

理研戎崎計算宇宙物理研究室とExaScaler、PEZY Computingは、今後のスーパーコンピューティングにおける2つの大きな柱として有望なメニーコアプロセッサと液浸冷却システムに加えて、専用液浸冷却槽と高密度演算ボード群「Brick(ブリック)」の組み合わせによる超小型化と、これまでのスーパーコンピュータでは不可能であった個人オフィス環境でのスーパーコンピュータ運用についての理解と知見を深め、超小型スーパーコンピュータの新しい適用可能性を探るべく、2016年3月31日付けで共同研究契約を締結しています。

これに基づき、戎崎宇宙物理研究室はExaScalerの最新の液浸冷却システム「ZettaScaler-1.6」を用いた20 Brickの構成からなる液浸槽液浸冷却スーパーコンピュータ「Satsuki(皐月)」を、2016年5月に設置しました。

広さ60平米のオフィス室内に、スーパーコンピュータ本体と液浸槽や配電盤を内蔵する操作制御盤などが置かれました。これらの設置面積の合計は3.1平米で、オフィス面積の約5%に収まりました。オフィス室外に隣接するベランダ部分には、熱交換器を付属する室外冷却装置各2台とポンプ1台がコンパクトに据え付けられ、室外部の面積も2.2平米に限定されています。

特に皐月の場合は、個人オフィスでの設置であるため、室外ベランダ部での修理等が容易には行えないことを想定し、冷却系の室外冷却装置と熱交換器を冗長化して2台ずつを組み合わせています。更にこの2台の室外冷却装置と熱交換器のセットについては、直列にも並列にも、その構成を適宜変更出来る配管構造を採ることで、冷却能力や消費電力の計測を進めながら、その最適化が行える形としました。室内の液浸槽についても、地震発生時などによる万が一の冷媒の大量漏出についても担保するために、液浸槽内の冷媒全量を受け止めることが可能な、十分な大きさを持つパンを専用開発して敷設することで、階下への影響などが生じない様に万全を期しています。

皐月の設置後の初期の稼働試験においては、液浸冷却システムの大きな特徴である、「超小型」、「無音」、「無風」、「常温運用が可能」、「湿度管理が不要」という、既存のスーパーコンピュータでは実現が不可能であった大きな利点であり、個人オフィス環境での稼働には不可欠である特徴について、この全てを当初の期待通りに実現して、確認を行うことが出来ました。

初期の稼働試験結果を得た後、今回の計測は、超小型スーパーコンピュータの現時点での性能限界を見極める目的で、昨年11月に発表されたTOP500ランキングでは326位に該当する300テラフロップスの演算性能を目指しました。また、世界最高レベルと予想される1W当たりの消費電力性能値6 GFLOPS/Wを目標として、6月の第1週までLINPACK性能[4]を測定する計測実験が進められました。その結果、667MHz駆動時の演算性能値(Rmax)290.5 テラフロップスが消費電力46.89kWで計測され、消費電力性能値は6.195 GFLOPS/Wと算出されました。これら2つの演算性能値は、6月20日に発表された最新のスーパーコンピュータランキング消費電力性能部門のGreen500で、同じくZettaScaler-1.6を用いる理研の「Shoubu(菖蒲)」に次いで世界第2位に認定されました。また、絶対性能部門のTOP500では485位(国内29位)を獲得しました。通常のオフィス環境で運用されているスーパーコンピュータが、TOP500、Green500にランクインしたのは初めてです。

今回の菖蒲の第1位と、皐月の第2位の獲得により、理研はGreen500最上位2台のスーパーコンピュータを同時に有する初めての機関となりました。

今後の期待

今回、戎崎宇宙物理研究室に設置されて運用が開始された超小型の液浸冷却スーパーコンピュータの皐月による計測結果は、今後のスーパーコンピューティング環境において特に重要となっている消費電力性能と小型化において、PEZY ComputingのメニーコアプロセッサとExaScalerの液浸冷却システムの組み合わせが大きな可能性と将来性を有していることを示しています。特に、世界第2位の省エネ性能を持ち、計算能力も世界の上位500台に入る性能を有したスーパーコンピュータを、個人オフィス環境に設置して、通常の業務に支障を来さずに運用を行えることが初めて確認されたことには大きな意義があります。皐月の連続運用により、スーパーコンピュータの新しい可能性が拓かれることが期待できます。

理研は、ExaScaler、PEZY Computingとの共同研究契約に基づいて、超小型のスーパーコンピュータに関して、更に高い消費電力性能値と演算性能値を実現するための継続的な性能向上の共同研究を計画しています。また、戎崎計算宇宙物理研究室における惑星形成に関する重力多体シミュレーション、生物誕生場における化学進化シミュレーション、宇宙を観測するための望遠鏡やレーザー機器の性能を最適化する光学シミュレーションなど多岐のシミュレーションにおける皐月の活用を計画しています。

補足説明

  • 1.
    液浸冷却

    水を冷媒に使用して熱伝導率の高い銅材を介した熱電動で主要な半導体を冷却している一般の液冷手法とは異なり、液浸冷却は、電気伝導性がない不活性液体を冷媒として使用し、冷媒内にシステム基板全体を浸漬(しんせき)することにより、主要な半導体のみならず、PSU(Power Supply Unit)やDCDC変換装置、密閉型ハードディスク、SSDなどのシステム基板上の全ての部品を均質に、効率よく冷却することが可能な冷却手法。液冷手法で必要となる空冷部分が不要となり、高い体積密度を実現できる。ExaScalerでは高沸点のフッ化炭素を冷媒に使用した独自開発を行い、スーパーコンピュータ用の効率の高い新しい冷却技術として、菖蒲や皐月で採用している。

  • 2.
    Green500

    Green500は、世界で最も消費電力あたりの性能が良いスーパーコンピュータ・システムを上位500位までランク付けし、評価するプロジェクト。近年のグリーン化の潮流を受けて、2007年11月からTOP500リスト内のスパコンの電力性能(速度性能値 / 消費電力)をTOP500に合わせて半年ごとに発表している。今期からはTOP500と統合して発表されます。

  • 3.
    TOP500

    TOP500は、世界で最も高速なコンピュータシステムの上位500位までを定期的にランク付けし、評価するプロジェクト。1993年に発足し、スーパーコンピュータのリストを年2回(6月、11月)発表している。

  • 4.
    LINPACK性能

    米テネシー大学のJack J. Dongarra博士らが開発した、コンピュータの性能計測(ベンチマーク)プログラム。TOP500の標準ベンチマークとして採用されている。連立一次方程式の解を求めるプログラムで、主に浮動小数点演算の性能を計測する。

発表者

理化学研究所 戎崎宇宙物理研究室
主任研究員 戎崎 俊一 (えびすざき としかず)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

株式会社ExaScaler
取締役COO 斎藤 元章 (さいとう もとあき)
Tel: 03-5577-3835
info [at] exascaler.co.jp(※[at]は@に置き換えてください。)

株式会社PEZY Computing
マーケティング部 佐藤 路恵 (さとう みちえ)
Tel: 03-5577-3900
info [at] pezy.co.jp(※[at]は@に置き換えてください。)

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