2020年6月23日
理化学研究所
富士通株式会社
スーパーコンピュータ「富岳」TOP500、HPCG、HPL-AIにおいて世界第1位を獲得
-Society5.0実現の情報技術基盤としての総合的な高性能を実証-
理化学研究所(理研)と富士通株式会社(富士通)が共同で開発しているスーパーコンピュータ「富岳」[1]は、世界のスーパーコンピュータの性能ランキングである第55回TOP500リストで第1位を獲得しました。また産業利用など実際のアプリケーションでよく用いられる共役勾配法[2]の処理速度の国際的なランキング「HPCG(High Performance Conjugate Gradient)」、さらに人工知能(AI)の深層学習で主に用いられる単精度や半精度演算処理に関する性能ベンチマーク「HPL-AI」においても、それぞれ世界第1位を獲得しました。
これらのランキングは、現在オンラインで開催中のHPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング:高性能計算技術)に関する国際会議「ISC2020」において、6月22日付(日本時間6月22日)で発表されました。
これら3部門での第1位獲得は、「富岳」の総合的な性能の高さを示すものであり、新たな価値を生み出す超スマート社会の実現を目指すSociety5.0において、シミュレーションによる社会的課題の解決やAI開発および情報の流通・処理に関する技術開発を加速するための情報基盤技術として、「富岳」が十分に対応可能であることを実証するものです。
スーパーコンピュータ「富岳」(開発・整備中)
「富岳」測定結果
TOP500
今回、TOP500リストに登録した「富岳」のシステムは、396筐体(152,064ノード[3]、全体の約95.6%)の構成で、ランキングの指標となるLINPACK性能は415.53PFLOPS(ペタフロップス)、実行効率は80.87%です。日本のスーパーコンピュータがTOP500で第1位を獲得するのは、「京」による2011年11月(第38回TOP500リスト)以来となります。
なお、2020年6月時点の「TOP500」のランキング第2位は、米国の「Summit」で、測定結果は148.6PFLOPSです。すなわち、第2位とは約2.8倍の性能差となります。
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HPCG
HPCGの測定には「富岳」の360筐体(138,240ノード、全体の約87%)を用い、13,400TFLOPS(テラフロップス)という高いベンチマークのスコアを達成しました。これは「富岳」が、産業利用など実際のアプリケーションを非常に効率よく処理し、高い性能を発揮することを証明しています。
なお、2020年6月時点の「HPCG」のランキング第2位は、米国の「Summit」で、測定結果は2,925.75TFLOPSです。すなわち、第2位とは約4.6倍の性能差となります。
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HPL-AI
HPL-AIは、これまで倍精度演算器の能力を測定してきたTOP500やHPCGなどと異なり、人工知能計算などで活用されている単精度や半精度演算器などの能力も加味した計算性能を評価する指標として、2019年11月に制定された新たなベンチマークです。この測定には、「富岳」が持つ330筐体(126,720ノード、全体の約79.7%)を用いて1.421EFLOPS(エクサフロップス)という高いスコアを記録しました。この記録は、世界で初めてHPL系ベンチマークで1エクサ(10の18乗)を達成した歴史的な快挙でもあります。「富岳」の高い性能を証明するとともに、人工知能計算やビッグデータ解析の研究基盤として、Society5.0[4]社会の推進に大いに貢献し得ることを示しています。
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スーパーコンピュータのランキングについて
TOP500
TOP500リストは、LINPACKの実行性能を指標として世界で最も高速なコンピュータシステムの上位500位までを定期的にランク付けし、評価するプロジェクトです。1993年に発足し、スーパーコンピュータのランキングを年2回(6月、11月)発表しています。
LINPACKは、米国のテネシー大学のジャック・ドンガラ博士によって開発された行列計算による連立一次方程式の解法プログラムであり、TOP500リストはこのプログラムを処理する際の実行性能を指標としたランキングとなります。多くの科学技術計算や産業アプリケーションで使用される倍精度浮動小数点数の演算能力を測ることで、コンピュータの計算速度ランキングを決定します。なお、本ベンチマークで高いスコアを出すためには、大規模ベンチマークを長時間測定する必要があり、一般的に、LINPACKによる高いスコアは計算能力と信頼性を総合的に示していると言われています。
HPCG
TOP500は、密な係数行列から構成される連立一次方程式を解く、重要な性能指標であり、演算能力を主に評価するベンチマークとして長年親しまれてきました。しかし、プロジェクトが発足した1993年から20年以上が経過し、近年、実際のアプリケーションで求められる性能要件との乖離やベンチマークテストにかかる時間の長時間化が指摘されています。
そこで、ジャック・ドンガラ博士らにより、産業利用など実際のアプリケーションでよく使われる、疎な係数行列から構成される連立一次方程式を解く計算手法である共役勾配法を用いた新たなベンチマーク・プログラム:HPCGが提案されました。2014年6月のISC14で世界の主要なスーパーコンピュータ15システムでの測定結果の発表を経て、同年11月に米国ニューオーリンズで開催されたHPCに関する国際会議SC14から正式なランキングとして発表されています。
HPL-AI
TOP500とHPCGでは、連立一次方程式を解く計算性能でランクをつけてきました。どちらも科学技術計算や産業利用の中で多く用いられてきた倍精度演算(10進で16桁の浮動小数点数)のみで計算することがルールに定められていました。近年、GPUや人工知能向けの専用チップで低精度演算(10進で5桁、もしくは10桁)の演算器を搭載し、高性能化した計算機が多数現れています。これらの高性能演算能力がTOP500に反映されないとの実情があり、ジャック・ドンガラ博士を中心にLINPACKベンチマークを改良し低精度演算で解くことを認めた新しいベンチマークHPL-AIが2019年11月に提唱されました。HPL-AIはLINPACKが連立一次方程式をLU分解[5]を用いて解く際に, 低精度計算で実施することを認めています。しかしながら、倍精度計算よりも計算精度が劣ってしまうため、引き続き反復改良[6]と呼ばれる技術で倍精度計算と同等の精度にすることを求めています。つまり、2段階の計算過程で構成されたベンチマークとなっています。HPL-AIは2019年11月にルールが公表されたため、今回が初めてのベンチマークランキングの発表となります。
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関係者のコメント
理研 計算科学研究センター センター長 松岡 聡:
「富岳」は最初のコンセプトから10年、プロジェクトの公式な開始から6年の歳月を経て、ようやくほぼ完成に至りました。「富岳」はSociety5.0に代表される、国民の関心事の高い種々のアプリケーションで高い性能が出るように開発しましたが、その結果として、全ての主要なスパコンの諸元で突出して世界最高性能である事を示す事ができました。今後「富岳」は、スパコンとしてのそれ自身の利用と共に、開発された「富岳」のITテクノロジが世界をリードする形で広く普及し、新型コロナに代表される多くの困難な社会問題を解決していくでしょう。
富士通 理事 新庄 直樹:
このたびの多様な指標における世界第1位獲得は、理研様や関係者の方々と取り組んできたCo-design(コデザイン)での開発が、「富岳」の性能を最適化したことが評価されたものと考えています。また、新型コロナウイルスよる影響があった状況下で、機器の搬入完了からわずか1か月ほどで今回の結果を達成できました。理研様をはじめ関係各位の多大なるご協力とご支援に、心より感謝申し上げます。今後、「富岳」が高いアプリケーション実効性能を実証し、Society5.0の実現を担うスーパーコンピュータとして広く活用されることを期待しています。
Arm IPプロダクトグループ(IPG) プレジデント レネ・ハース:
スーパーコンピュータ「富岳」は、パワフルなマシンに従来用いられてきたコンピューティング技術からの劇的な飛躍をもたらしました。また、強力なエコシステムがもたらす柔軟なコンピューティングソリューションによって実現したイノベーションの証でもあります。この成果は、スマートフォンから世界最速のスーパーコンピュータに至るまで、Armのコンピューティングプラットフォームによる電力効率、性能、そして拡張性が基盤となっていることを示しています。理研と富士通がこれまでの常識を覆し、Armベースのハイパフォーマンス・コンピューティングの可能性を世界に示したことを、Armは心から祝福します。
補足説明
- 1.スーパーコンピュータ「富岳(ふがく)」
スーパーコンピュータ「京」の後継機。2020年代に、社会的・科学的課題の解決で日本の成長に貢献し、世界をリードする成果を生み出すことを目的とし、電力性能、計算性能、ユーザーの利便性・使い勝手の良さ、画期的な成果創出、ビッグデータやAIの加速機能の総合力において世界最高レベルのスーパーコンピュータとして2021年度の共用開始を目指している。
「富岳」は"富士山"の異名で、富士山の高さがスーパーコンピュータ「富岳」の性能の高さを表し、また富士山の裾野の広がりがスーパーコンピュータ「富岳」のユーザーの拡がりを意味する。また、"富士山"は海外での知名度も高く、名称として相応しいこと、さらにはスーパーコンピュータの名称は山にちなんだ名称の潮流があることなどから理研が選考した。 - 2.共役勾配法
物理現象をコンピュータでシミュレーションする場合、大規模な連立一次方程式として解くことが多い。連立一次方程式を解く方法として、解を直接求める直接法と、反復計算を行うことで正しい解に収束させていく反復法の2つがある。共役勾配法は、後者にあたる反復法の一つであり、前処理を組み合わせることにより、早く正しい解に収束させることができる。コンピュータシミュレーションの世界ではよく使われている。 - 3.ノード
スーパーコンピュータにおけるオペレーティングシステムが動作できる最小の計算資源の単位。「富岳」の場合は、1つのCPU(中央演算装置)および32GiBのメモリから構成される。 - 4.Society5.0
狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱された。IoT(Internet of Things)、ロボット、AI(人工知能)、ビッグデータといった社会の在り方に影響を及ぼす新たな技術をあらゆる産業や社会生活に取り入れ、経済発展と社会的課題の解決を両立していく新たな社会の実現を目指すこととしている。 - 5.LU分解
連立一次方程式を解く方法の一つ。解法の途中で行列を下三角行列(Lower-triangular matrix)と上三角行列(Upper-triangular matrix)の積の形に分解するため、LU分解法と呼ぶ。 - 6.反復改良
LU分解などの方法で連立一次方程式を解いた近似解には真の解との誤差が含まれてしまいます。その誤差を用いた連立一次方程式を再度解いて、近似解を修正することでより真の解に近い答えを得る方法。
報道担当
理化学研究所 神戸事業所 計算科学研究推進室
広報グループ 岡田 昭彦
Tel: 078-940-5625 / Fax: 078-304-4964
Email: r-ccs-koho [at] ml.riken.jp ※[at]は@に置き換えてください。
理化学研究所 広報室 報道担当
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Tel: 03-6252-2174(直通)
※上記の[at]は@に置き換えてください。