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2021年1月4日

理化学研究所

2021年を迎えて

松本 紘理事長の写真理化学研究所 理事長 松本 紘

謹んで初春のごあいさつを申し上げます。2021年が始まりました。

振り返ってみるまでもなく、昨年は、人類が新型コロナウイルスに翻弄された一年でありました。この感染症によりお亡くなりになられた方々に謹んで哀悼の意を表します。また、今もなお闘病中でいらっしゃる方々とそのご家族の皆さま、住まいや仕事といった日々の暮らしに影響を受けられている方々に、心よりお見舞いを申し上げます。

世界が直面しているこの新型コロナウイルスの脅威を前に、理研は今こそ社会の負託に応え、創立以来百年を超えて積み重ねてきた叡智(えいち)を結集し、革新的な研究成果を創出していかなければなりません。こうした強い決意のもと、2020年4月の緊急事態宣言発令から2週間後には新型コロナウイルス特別プロジェクトを立ち上げ、理事長裁量経費を投入し、理研内のみならず国内外の研究機関や大学、産業界とも力を合わせ取り組んでまいりました。2021年におきましても引き続き、総力を挙げて新型コロナウイルス関連研究を推進していく所存です。この特別プロジェクトは、理研が有する免疫学・遺伝学・構造生物学をはじめとする「知見」と、近年急速に発展している計算科学や人工知能(AI)、さらにそれを生かしたAI創薬などの多彩な「技術」を総動員するものです。その成果の一部を以下にご報告します。

新型コロナウイルス感染症の原因ウイルスであるSARS-CoV-2。その増殖に必要な酵素の構造動態を明らかにする複雑なシミュレーションに、理研はいち早く成功しました。ここで活躍したのは2019年に開発した分子動力学シミュレーション専用計算機MDGRAPE-4Aです。その成果はウイルス増殖を阻害する薬の開発や、候補分子のスクリーニングなどへの貢献につながると期待されています。シミュレーションの生データを世界の創薬研究者が自由に利用できるよう、国際的なデータベースにも公開しています。

本年の完成を目指すスーパーコンピュータ「富岳」もまた、開発・整備の途上にありながらも、可能な限り計算資源の供出を行い、関連研究開発を支援しました。現在、六つのプロジェクトが進行しており、とりわけ早期に研究者たちの使命感と努力が実を結んだのが、既存のシミュレーションをはるかにしのぐ高精度なウイルス飛沫(ひまつ)拡散シミュレーションです。昨年6月、緊急事態宣言が解除され経済活動を再開していくタイミングで最初の発表を行いました。学校やオフィスなどの室内空間でのフィジカルディスタンス、あるいはマスクの素材や着け方によるウイルス飛沫拡散の比較結果などがメディアでも報じられ、ご覧になった方も多いと思います。この研究は継続されており、イベント開催や飲食店の営業などの際に参考にしていただける飛沫感染リスク評価のほか、公共交通機関についても新幹線、バス、タクシーと対象を広げシミュレーションを進めています。

新型コロナウイルス対応に限らず、理研は研究成果をより直接的に社会に還元するための取り組みに注力してきました。そのための大きな枠組みが、2019年9月の100%出資子会社「株式会社理研鼎(てい)業」の創設でした。さらに昨秋には、民間企業と共同で、理研と理研鼎業にとって初の直接出資により、「株式会社理研数理」を設立しました。デジタルトランスフォーメーション(DX)やモノのインターネット(Internet of things:IoT)の社会実装が飛躍的に進んでいく現代において、数理科学は全ての科学技術の発展、ひいては社会の発展のベースと言っても過言ではない学問領域です。理研にとって初となるベンチャーへの出資が、数理科学を生業とする理研数理であることは大きな意義があると考えます。設立1年目となる本年、まったく新しいイノベーションの創出に向けて、力強く始動します。

先に触れたとおり、「富岳」はいよいよ完成の年を迎えます。世界のスーパーコンピュータに関する国際会議が年2回発表するランキングにおいて、昨年6月には史上初の4冠を、続いて11月には2期連続となる4冠を達成しました。これらの評価は「富岳」の総合的な性能の高さを示すものです。本格稼働する「富岳」は、超スマート社会の実現を目指すSociety 5.0において、社会的課題の解決やAIの研究開発などを加速するための情報基盤として活用されることでしょう。

また、理研は本年4月、「量子コンピュータ研究センター」を設立します。これは国が策定した量子技術イノベーション戦略における拠点として設置されるもので、次世代の計算システムとして注目される量子コンピュータに関する基礎学理・基礎技術・ハードウエア・ソフトウエアの研究開発に取り組みます。量子コンピュータは、特定の条件下であれば、従来のスパコンですら天文学的な時間を要する問題を超高速で計算できるコンピュータとして期待が高まっています。その研究開発を促進させることで、Society 5.0へのシフトを促し、今後ますます拡大し複雑化するであろうビッグデータを高速かつ高精度に計算・解析する量子コンピュータの実現に挑みます。

さらにこの春、理研にはもう一つの大きなニュースがあります。科学技術の急速な発展に伴い、人間や社会の在り方と科学技術との関係が密接不可分となっている状況の中で、科学技術基本法が改正されることをご存知の方も多いでしょう。それを受け、理研の研究活動内容を定める国立研究開発法人理化学研究所法も改正されます。これにより理研の研究対象は自然科学のみならず人文社会科学にまで拡大され、より総合的な研究を行っていく研究機関へと発展することが求められます。科学を意味する英語scienceの語源は、ラテン語で知識を意味するscientia(スキエンティア)です。人類が持ち得る知識に、あらゆるアングルから迫ることで、より包括的な科学への展開を目指してまいります。

科学技術の発展、さらには国民の皆さまの生活に資するイノベーションの創出にいっそうの貢献を果たすべく、年頭に当たり役員をはじめ全職員が心を新たにしております。

2021年も、特定国立研究開発法人として皆さまのご期待に沿うべく、研究活動を進めてまいります。本年もどうぞ、理化学研究所をご支援いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

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