理化学研究所(理研)生命医科学研究センターの桃沢幸秀チームリーダー、米国カリフォルニア大学のMelissa Cline博士、オーストラリアQIMRベルクホーファー医学研究所のAmanda B Spurdleグループリーダーらの国際共同研究チームによって行われたFederated Analysis(連合解析)例が、ゲノム情報を用いて医療や医学の発展を目指す国際協力組織「Global Alliance for Genomics & Health(GA4GH)」のウェブサイトで特集記事(英語)として紹介されました。GA4GHとは国際標準の倫理的な配慮の下、ゲノムデータをシェアリング共有することにより、医療や医学のさらなる発展を目指す国際組織です。
現在、遺伝学的検査結果を元に治療方針を決めるオーダーメイド医療が現実化していますが、"疾患発症への影響が不明な遺伝的バリアント[1](VUS[2])"に対する扱いが大きな問題となっています。それを解決するためには、VUSの機能的な影響を測定するとともに、そのバリアントを持つ患者や対照群の家族歴、臨床情報などを大規模に取りまとめることが必要です。しかし、そのような情報を、国を越えて共有することは個人情報保護の観点からも非常に困難でした。そこで本共同研究では、カリフォルニア大学がFederated Analysisのための解析プログラムを作成し、理研がそのプログラムを利用して、Nature Communications誌に掲載された日本人の乳がんデータ[3]の内、解析に必要なデータ部分だけをプログラムに読み込ませ解析し、バリアントの解釈[4]に必要な統計解析結果を算出しました。その結果をQIMRベルクホーファー医学研究所でバリアントの解釈を行なったところ、16個のVUSについて新たにこれらは病気の原因とならないことが明らかになりました。
この共同研究については、以下の論文として報告されています。
James Casaletto, Michael Parsons, Charles Markello, Yusuke Iwasaki, Yukihide Momozawa, Amanda B.Spurdle, MelissaCline, "Federated analysis of BRCA1 and BRCA2 variation in a Japanese cohort" Cell Genomics, 10.1016/j.xgen.2022.100109.
このように、本共同研究はソフトウェアを利用して、各機関にて研究に必要な情報のみを提供・閲覧し、解析することでゲノム医療において重要な情報の創出の可能性を示しました。本研究例で使用された日本人のデータは、東アジア人として世界でも蓄積が少なく大変貴重であり、今後もこのような形で日本から世界に貢献していくと期待できます。
補足説明
- 1.遺伝的バリアント
遺伝的バリアントは、遺伝子の塩基配列の変化を指し、この変化により生物の多様性を生じさせる。遺伝的バリアントのうち疾患発症の原因となるものを病的バリアントという。 - 2.VUS
Variant of Unknown Significanceの略。遺伝的バリアントのうち、疾患発症に影響しているか不明の場合を指す - 3.日本人の乳がんデータ
Germline pathogenic variants of 11 breast cancer genes in 7,051 Japanese patients and 11,241 controls - 4.バリアントの解釈
遺伝子の塩基配列の変化がもたらす、疾患発症などの原因となるか明らかにすること
本共同研究の概要
(Cell Genomics 2022;2(3):110882より転載)