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2023年11月9日

理化学研究所

「富岳」を用いた30秒ごとに更新するリアルタイム数値天気予報の研究成果が2023年ゴードン・ベル賞気候モデリング部門ファイナリストに選出

理化学研究所(理研)計算科学研究センター(R-CCS)データ同化研究チームの三好 建正 チームリーダー、複合系気候科学研究チームの富田 浩文 チームリーダーらの共同研究グループによる、スーパーコンピュータ「富岳」を用いて東京オリンピック・パラリンピック期間中に実施した、30秒ごとに更新するリアルタイム数値天気予報の研究成果が、米国計算機学会のゴードン・ベル賞の気候モデリング部門の最終候補(ファイナリスト)に選出されました。ゴードン・ベル賞は、スーパーコンピュータを用いた科学・技術分野の研究の中で、その年に最も顕著な成果を上げた研究グループに与えられる賞です。ゴードン・ベル賞気候モデリング部門では、研究成果が気候モデリング分野および、より広い社会に与える影響の大きさとその可能性に基づいて候補が選ばれ、地球規模の気候危機の解決に向けた革新的な並列コンピューティングの貢献を表彰することを目的としています。

本研究では、2021年7月から9月にかけて開催された東京オリンピック・パラリンピックの期間中、「富岳」を使用し、30秒ごとに更新するリアルタイム数値天気予報(Numerical Weather Prediction、NWP)[1]の実証実験を実施しました。およそ1カ月間で合計75,248件の予報が配信され、30分予報の解答までの時間は3分未満でした。三好 チームリーダーらのビッグデータ同化(Big Data Assimilation、BDA)プロジェクト[2]は、地球温暖化によって危険な雨の発生が増加するという地球規模の気候危機を解決するための一歩として、危険な雨を正確に予測する新しいNWPシステムを開発しました。高精度のリアルタイムでの30秒ごとの更新を達成するため、BDAの中核となるソフトウェアでは、500m解像度の気象モデルで1,000通りのアンサンブル計算を行いました。また、気象庁で使用されている従来の1時間ごとの更新システムに比べ、急速に発達するゲリラ豪雨に対しても30秒ごとの更新の有効性を明らかにしました。本研究は、複雑な気象の解明に向けて高度な計算手法を用いることの価値を証明しました。

なお、ゴードン・ベル賞の最終発表は米国コロラド州デンバーのコロラド・コンベンション・センターおよびオンラインで開催される国際会議(SC23)において、現地時間11月16日(木)12時45分(日本時間11月17日(金)4時45分)より行われます。

3次元的な降水分布の予測の図

2021年7月30日13時18分00秒(日本時間)を初期時刻とする13時33分00秒(15分先)の3次元的な降水分布の予測。色は雨の強さを示す。見やすくするために鉛直方向は3倍に引き伸ばしている。国土地理院の地図データを使用した。

ファイナリスト選出のコメント

データ同化研究チーム 三好 建正 チームリーダー
2013年10月からスーパーコンピュータ「京」を使って取り組み始めた研究が、2021年「富岳」を使って実を結び、この度ゴードン・ベル賞気候モデリング部門ファイナリストに選出されたことを大変嬉しく誇りに思います。この研究は、脅威が増す豪雨災害に立ち向かうため、新型センサによるビッグデータと、次世代スーパーコンピュータによるビッグシミュレーションを掛け合わせる「ビッグデータ同化」の技術革新を起こしたものです。2012年10月にデータ同化研究チームが発足し、米国メリーランド大学から神戸に研究拠点を移しました。くしくも2012年夏に最新鋭のフェーズドアレイ気象レーダが大阪に設置され、同年9月に神戸の「京」が共用開始となり、何か特別な巡り合わせを感じます。

補足説明

  • 1.数値天気予報(Numerical Weather Prediction)
    数値計算による天気予報のことで、現在の一般的な天気予報は数値天気予報に基づく。
  • 2.ビッグデータ同化(Big Data Assimilation)プロジェクト
    2013年に始まった科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業の研究領域「科学的発見・社会的課題解決に向けた各分野のビッグデータ利活用促進のための次世代アプリケーション技術の創出・高度化」(研究統括:田中譲北海道大学名誉教授)における研究課題「「ビッグデータ同化」の技術革新の創出によるゲリラ豪雨予測の実証」(2013~2018年度)として開始された研究プロジェクト。当該課題終了後の2019年4月からAIP加速課題「ビッグデータ同化とAIによるリアルタイム気象予測の新展開」として3年間継続され、当該課題の2年目に2021年夏季の東京オリンピック・パラリンピックが行われた。

研究支援

本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST研究課題「「ビッグデータ同化」の技術革新の創出によるゲリラ豪雨予測の実証(研究代表者:三好建正)」「EBD:次世代の年ヨッタバイト処理に向けたエクストリームビッグデータの基盤技術(研究代表者:東京工業大学 松岡聡、主たる共同研究者:三好建正)」「オンデバイス学習技術の確立と社会実装(研究代表者:松谷宏紀、主たる共同研究者:三好建正)」、JST国際科学技術共同研究推進事業戦略的国際共同研究プログラム(SICORP)レジリエントな社会のためのICT「先進ICTを用いた淡水生態系復元力の監視(研究代表者:熊谷道夫、主たる共同研究者:三好建正)」、JST AIP加速課題「ビッグデータ同化とAIによるリアルタイム気象予測の新展開(研究代表者:三好建正)」、「富岳」成果創出加速プログラム「防災・減災に資する新時代の大アンサンブル気象・大気環境予測(研究代表者:佐藤正樹、協力機関分担者:三好建正)」、ポスト「京」で重点的に取り組むべき社会的・科学的課題に関するアプリケーション開発・研究開発 重点課題「観測ビッグデータを活用した気象と地球環境の予測の高度化(研究代表者:高橋桂子、担当責任者:三好建正)」、理研新領域開拓課題「Prediction for Science(研究代表者:三好建正、研究分担者:富田浩文)」、研究教育拠点(COE)形成推進事業「複数の災害リスク評価に基づく都市計画に資する災害科学研究(研究代表者:富田浩文、研究分担者:三好建正)」「異なる時間スケールを考慮したレジリエント社会形成に資する計算科学研究(研究代表者:大石哲、研究分担者:富田浩文、三好建正)」、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期「国家レジリエンス(防災・減災)の強化/線状降水帯の早期発生および発達予測情報の高度化と利活用に関する研究(研究責任者:防災科研 清水慎吾、研究担当者:川村誠治、牛尾知雄)」、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業基盤研究(S)「あかつきデータ同化が明らかにする金星大気循環の全貌(研究代表者:林祥介、研究分担者:三好建正)」、同基盤研究(B)「大気乱流および積雲対流のスケール間相互作用(研究代表者:西澤誠也)」「次世代の天気予報での雷予報を見据えた先駆的雷気象モデルの開発(研究代表者:北海道大学 佐藤陽祐、研究分担者:本田匠)」、同若手研究「超高解像度アンサンブルシミュレーションで探るゲリラ豪雨の予測可能性限界(研究代表者:本田匠)」「「ゲリラ豪雨」予報高精度化に向けた超高頻度・高解像度雷発光データ同化(研究代表者:前島康光」」「大規模アンサンブルモデルに基づく新たな短時間降水予報の確率的表現方法の開拓(研究代表者:雨宮新)」、同若手研究(B)「対流スケールの予測可能性の理解と向上(研究代表者:大塚成徳)」による助成を受けて行われました。
また、大型計算機資源について、「京」高度化枠「データ解析とシミュレーションの融合研究のための共通基盤的研究開発(課題番号:ra000015)」「データ同化のハブ拠点形成に関わる共同研究(課題番号:ra001011)」および「計算方法組み合わせの比較・計算方法評価のための基盤的ライブラリの研究開発 (課題番号:ra000006)」、HPCI一般課題「ゲリラ豪雨予測を目指した「ビッグデータ同化」の研究(課題番号:hp150019、hp160162、hp170178、hp180062、hp190051、hp200026、hp210028)」、2020年度学際大規模情報基盤共同利用・共同研究拠点(JHPCN)公募型共同研究課題「ゲリラ豪雨予測のリアルタイム実証実験」(課題番号jh200062)、文部科学省フラッグシップ2020プロジェクト(ポスト「京」の開発)「ポスト「京」で重点的に取り組むべき社会的・科学的課題」における重点課題④「観測ビッグデータを活用した気象と地球環境予測の高度化(課題番号:hp160229、hp170246、hp180194、hp190156)」、「富岳」成果創出加速枠「防災・減災に資する新時代の大アンサンブル気象・大気環境予測(課題番号:hp200128、hp210166)」による支援を受けて行われました。

問い合わせ先

理化学研究所 神戸事業所 計算科学研究推進室
アウトリーチグループ
報道機関向け問い合わせフォーム(理研R-CCS)

理化学研究所 広報室 報道担当
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