1. Home
  2. 研究成果(プレスリリース)
  3. 研究成果(プレスリリース)2011

2011年7月1日

独立行政法人 理化学研究所

免疫・アレルギー反応に関わる白血球成分の数の個人差を解明

―免疫・アレルギー反応のオーダーメイド医療への応用が期待―

ポイント

  • 日本人14,792人をゲノムワイド解析し、欧米人15,600人でも個人差を検討
  • 白血球の5つの成分の数を左右する9個の新規遺伝子を発見
  • 白血球成分の間で共有する関連遺伝子の存在を確認

要旨

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、白血球の好中球、リンパ球など5つの成分について、日本人集団14,792人でゲノムワイド関連解析※1を行い、それぞれの白血球成分の数の個人差に関わる9個の新規遺伝子を発見しました。これは、文部科学省が推進するオーダーメイド医療実現化プロジェクトで実施した遺伝子解析結果に基づくもので、理研ゲノム医科学研究センター(鎌谷直之センター長)統計解析研究チームの高橋篤チームリーダー、岡田随象客員研究員、国立大学法人東京大学大学院医学系研究科内科学専攻アレルギー・リウマチ学教室(山本一彦教授)らの共同研究の成果です。

白血球は、赤血球や血小板と並ぶ血液中の細胞成分の1つで、好中球・リンパ球・単球・好酸球・好塩基球の5つの成分に分類され、体内に侵入した細菌・ウイルスなどの異物を排除するために異なる機能を発揮しています。これら白血球成分の数は、感染症などの病気や、免疫・アレルギー反応といった複数の病態の活動性を反映して増減するため、血液検査の項目として医療現場で広く測定されています。しかし、その測定値には個人差があることが指摘されており、原因解明が望まれていました。

研究グループは、ヒトゲノム全体に分布する約220万個の一塩基多型(SNP)※2を対象に、日本人集団14,792人から得た白血球成分の測定値との関連を調べるという、大規模なゲノムワイド関連解析を行いました。その結果、これら5つの成分の測定値の個人差に関連した遺伝子を11個同定し、そのうち、9個が新規遺伝子であることを見いだしました。さらに、欧米人集団15,600人から得た解析結果と照合した結果、3個の遺伝子が欧米人集団でも白血球成分に関連していることを確認しました。これまでにも、赤血球や血小板の個人差を解明する研究は行われてきましたが、白血球成分の個人差に対する大規模な研究は、本研究が初めてです。また、アレルギー反応に関与する好酸球・好塩基球の両方に関連した遺伝子が4個含まれるなど、白血球成分の間で関連遺伝子が共有されていることも見いだしました。今回同定した遺伝子の研究を通じて、免疫反応やアレルギー反応の個人差の解明など、個々人に合わせたオーダーメイド医療※3への応用が期待できます。

本研究成果は、米国の科学雑誌『PLoS Genetics』オンライン版(6月30日付:日本時間7月1日)に掲載されます。

背景

白血球は、赤血球や血小板とならぶ血液中の細胞成分の1つで、体内に侵入した細菌・ウイルスなどの異物を排除する機能を発揮しています。この白血球は、好中球・リンパ球・単球・好酸球・好塩基球といった5つの成分に分類され、それぞれが異なる役割を担っていることが知られています。具体的には、全白血球数の50~70%を占める好中球は細菌の排除に、20~40%を占めるリンパ球はウイルスの排除や抗体の産生に、3~6%を占める単球は細菌の排除や老廃物の除去に、2~5%を占める好酸球はアレルギー反応や寄生虫の排除に、1%弱を占める好塩基球はアレルギー反応に関与することが分かっています。

これら白血球成分の数は、感染症などの病気や、免疫・アレルギー反応といった複数の病態の活動性を反映して増減するため、血液検査の項目として医療現場で広く測定されています。しかし、その測定値には個人差があることが指摘されており、原因解明が望まれていました。

研究手法と成果

研究グループは、ヒトゲノム全体に分布する約220万個の一塩基多型(SNP)を対象に、日本人集団8,794人から得た白血球成分の測定値との関連を評価するという、大規模なゲノムワイド関連解析を行いました。関連を認めたSNPに関しては、5,998名を対象とした追認試験を行い、結果の再現性を確認しました。その結果、白血球成分の測定値に関連する11個の遺伝子を同定し、そのうち9個が新たな遺伝子と判明しました(表1図1)。さらに、欧米人集団15,600人から得た解析結果を照合して、これら11個の遺伝子が、欧米人集団でも関連しているかどうかを評価したところ、PSMD3-CSF3、ITGA4、GATA2の3個の遺伝子が関連のあることを確認しました。また、同定した11個の関連遺伝子が、複数の白血球成分の間で共有しているかどうかの評価も行い、特定の白血球成分だけで関連を認めた遺伝子が存在する一方で、複数の白血球成分で関連を認めた遺伝子が存在していることを見いだしました(図2)。これは、各白血球成分に特有の制御機構だけでなく、共通した制御機構も存在していることを示唆します。特に、アレルギー反応に関与する好酸球・好塩基球の両方に関連した遺伝子が4個(HBS1L-MYB、MHC region、GATA2、ERG)も存在することが分かりました。

遺伝子を構成する塩基には、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)、A(アデニン)の4種類がありますが、GATA2遺伝子領域に存在するSNP(rs4328821)の組み合わせがAA型※4の人の場合、GG型※4の人よりも好酸球測定値が約1.2倍、好塩基球測定値が約1.3倍高くなることが分かりました(図3)。血液中の好酸球数が多い人は好塩基球数も多いことが以前より知られていましたが、その原因となる遺伝子を同定したのは今回が初めてとなりました。

今後の期待

本研究で同定した遺伝子を対象に、血球(赤血球、白血球、血小板)細胞中における働きを研究することで、白血球成分の制御機構の解明が期待できます。また、これら遺伝子と免疫反応やアレルギー反応における個人差との関係解明など、個々人に合わせたオーダーメイド医療への応用が注目されます。

発表者

理化学研究所
ゲノム医科学研究センター 統計解析研究チーム
チームリーダー 高橋 篤(たかはし あつし)
客員研究員 岡田 随象(おかだ ゆきのり)
Tel: 03-5449-5708 / Fax: 03-5449-5564

お問い合わせ先

横浜研究推進部 企画課
Tel: 045-503-9117 / Fax: 045-503-9113

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

補足説明

  • 1.ゲノムワイド関連解析
    遺伝子多型を用いて対象形質に関連した遺伝子を見つける方法の1つ。ヒトゲノムを網羅した数十万~数百万のSNPを対象に、対象サンプル群における多型頻度と形質値との関連を統計学的に評価する手法。検定の結果得られたP値(偶然にそのようなことが生じる確率)が小さい多型ほど、関連が強いと判断することができる。
  • 2.一塩基多型(SNP)
    ヒトゲノムの個人間の違いのうち、集団での頻度が1%以上のものを遺伝子多型と呼ぶ。代表的なものとして一塩基(チミン:T、グアニン:G、シトシン:C、アデニン:A)の違いによる一塩基多型(SNP; Single nucleotide polymorphism)がある。
  • 3.オーダーメイド医療
    個人の遺伝情報に基づいて行われる医療。疾患のタイプや、治療薬の効果、副作用の有無などを事前に見積もり、個々人に合わせた適切な医療を行うことを目標とする。
  • 4.SNPの組み合わせがAA型、AG型、GG型
    rs4328821における塩基の違いはA、Gの2通りだが、個人は父親由来と母親由来の二つを組み合わせをもつため、AA型、AG型、GG型の3通りに分類される。

表1 日本人集団で白血球成分の測定値に関連する遺伝子

好中球 CDK6PSMD3-CSF3
リンパ球 関連遺伝子なし
単球 ITGA4MHC regionMLZESTXBP6
好塩基球 SLC45A3-NUKS1ATA2NAALAD2ERG
好酸球 GATA2MHC regionHBS1L-MYB

赤字は新規に同定した遺伝子

白血球成分の中でも、単球・好塩基球に関してはこれまで解析が進んでいなかったこともあり、今回、多数の新規遺伝子の同定につながった。

白血球成分測定値を対象としたゲノムワイド関連解析結果の図

図1 白血球成分測定値を対象としたゲノムワイド関連解析結果

白血球成分の測定値を対象としたゲノムワイド関連解析で得た各SNPにおける関連を示した図。上段より好中球・リンパ球・単球・好塩基球・好酸球における結果を表す。横軸にヒトゲノム染色体上の位置、縦軸に各SNPのP値を示した。図中の記号は、関連の認められた遺伝子を示す。

白血球成分間における、関連遺伝子の共有の図

図2 白血球成分間における、関連遺伝子の共有

各白血球成分の測定値を対象とした解析の結果、同定した遺伝子が、複数の白血球成分の間で共有していることが判明した。ITGA4PSMD3-CSF3SLC45A3-NUCKS1NAALAD2遺伝子のように、特定の白血球成分でのみ関連を認めた遺伝子が存在する一方、HBS1L-MYB遺伝子のように、全ての白血球成分で関連を認めた遺伝子も存在した。各白血球成分に特有の制御機構だけでなく、共通した制御機構が存在していることを示唆するものと考えられる。
(ゲノムワイド関連解析より緩い基準を採用し、各血球成分における関連を評価した。)

GATA2遺伝子領域SNPと、好酸球数・好塩基球数との関連の図

図3 GATA2遺伝子領域SNPと、好酸球数・好塩基球数との関連

各点が各個人における好酸球・好塩基球測定値を示す。GATA2遺伝子領域に存在するSNP(rs4328821)のジェノタイプ(組み合わせ)がAA型の人の場合、GG型の人よりも好酸球測定値が約1.2倍、好塩基球測定値が約1.3倍高くなることが判明した。

Top