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2012年11月16日

独立行政法人理化学研究所

植物細胞におけるタンパク質分解を担う複合体を網羅的に解析

-植物のさまざまな生理現象の体系的理解へ-

ポイント

  • 複合体を形成するF-ボックスタンパク質とASKタンパク質の相互作用を解析
  • 約6500通りの複合体の組み合わせと発現の時期を解析
  • 複合体を形成しないF-ボックスタンパク質の存在を示唆

要旨

理化学研究所(野依良治理事長)は、シロイヌナズナの生理機能を制御するタンパク質を分解するF-ボックスタンパク質※1ASKタンパク質※2からなるタンパク質複合体を網羅的に解析し、タンパク質の組み合わせと発現の時期にさまざまな特徴があることを明らかにしました。これは、理研植物科学研究センター(篠崎一雄センター長)植物ゲノム機能研究グループの松井南グループディレクター、黒田博文元研究員、柳川由紀研究員、高橋直紀元研究員、堀井陽子テクニカルスタッフⅡらの研究グループによる成果です。

動植物の生理現象に関わる多くのタンパク質は、その機能を果たした後に特異的に分解されて機能を終了します。この分解は、F-ボックスタンパク質とASKタンパク質からなるタンパク質複合体により行われます。モデル植物のシロイヌナズナでは、F-ボックスタンパク質が約600種類、ASKタンパク質が21種類あり、これらの組み合わせによりタンパク質複合体が形成され、それぞれが特異的に標的タンパク質の分解を行うと考えられています。しかし、どの組み合わせでいつ結合して、どのタンパク質がいつ分解されるのか、その全容は不明のままでした。

研究グループは、シロイヌナズナの341種のF-ボックスタンパク質と19種のASKタンパク質の組み合わせについて、実際の結合と発現の時期を調べました。その結果、これらの分解に関わるタンパク質は常に発現しているわけではなく、葉緑体や核などに局在し、かつ特定の時期に結合して、タンパク質複合体を形成することが分かりました。また、このようなタンパク質複合体を作らないF-ボックスタンパク質の存在も示唆されました。

今回の成果により、さまざまな生理現象に関わるタンパク質とその分解についてのメカニズム解明に新たな知見が得られ、より体系立てられた植物の生理現象の解明につながると期待できます。

本研究成果は、米国のオンライン科学雑誌『PLoS ONE』(11月15日付け:日本時間11月16日)に掲載されます。

背景

動植物の細胞は生命を維持するために、タンパク質を新たに作り出すだけでなく、作ったタンパク質が不要になった場合に分解する機構も持っています。このタンパク質の分解により、細胞内での異常なタンパク質の蓄積を防いだり、過剰にタンパク質合成したときや栄養環境が悪化したときにタンパク質のリサイクルを行ったりと、生体の恒常性維持のためのさまざまな生理現象の制御に重要です。この分解は、F-ボックスタンパク質とASKタンパク質からなるタンパク質複合体により行われます。木や草花などの高等植物は、平均して約500以上のF-ボックスタンパク質を持っています。ヒトの59個、ショウジョウバエの27個に比べると圧倒的に多く、植物の生命活動にとって、タンパク質の分解が特に重要なことを示しています。

モデル植物であるシロイヌナズナのF-ボックスタンパク質は約600種類、ASKタンパク質は19種類あります。その組み合わせによりさまざまなタンパク質複合体が形成され、おのおのが特異的にタンパク質を分解すると考えられています。しかし、組み合わせや発現タイミングで、どのタンパク質がいつ分解されるのか、その全容は不明のままでした。

研究手法と成果

研究グループは、シロイヌナズナの341種のF-ボックスタンパク質と19種(ASK1~5、7~14、16~19、20A、20B)のASKタンパク質の組み合わせを対象に、網羅的にタンパク質の相互作用を調べられるツーハイブリッド法※3、2つのタンパク質の結合を可視的に調べるBiFC法※4、2つの遺伝子の発現様式を調べる共発現解析※5、および蛍光タンパク質GFPを用いてそれぞれのタンパク質の時間的局在解析などの手法を駆使してF-ボックスタンパク質とASKタンパク質の局在や相互作用について網羅的な解析を行いました。その結果、ASK1~4、11~14は、特に多くのF-ボックスタンパク質と相互作用し(図1)、F-ボックスタンパク質の有するドメインの種類によって、相互作用するASKタンパク質に特異性があることが分かりました(図2)。また、F-ボックスタンパク質とASKタンパク質は細胞内において、それぞれ葉緑体、細胞質、核などに局在し、かつ特定の時期に結合して、分解に必要なタンパク質複合体を形成することも分かりました。さらに、複合体を作らないF-ボックスタンパク質の存在も示唆されました。

今後の期待

タンパク質複合体は、転写因子など多くの遺伝子の発現を制御しているタンパク質を分解することが知られているため、今後は、標的タンパク質を見いだすことが重要になります。さらに、特定の標的タンパク質をどのタイミングでどのタンパク質複合体が分解するのか、全ての複合体が本当にタンパク質分解に関わっているのか、などを調べることで、生命現象について体系立った理解が進むと期待できます。

原論文情報

  • Hirofumi Kuroda, Yuki Yanagawa, Naoki Takahashi, Yoko Horii, Minami Matsui
    "A comprehensive analysis of interaction and localizatiASKn of Arabidopsis SKP1-LIKE (ASK) and F-Box (FBX) proteins" PLoS ONE. 2012.doi: 10.1371/journal.pone.0050009.

発表者

理化学研究所
植物科学研究センター 植物ゲノム機能研究グループ
グループディレクター 松井 南(まつい みなみ)

お問い合わせ先

横浜研究推進部 企画課
Tel: 045-503-9117 / Fax: 045-503-9113

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

補足説明

  • 1.F-ボックスタンパク質
    細胞周期に関わるタンパク質で最初に見出された特徴的なアミノ酸配列「F-ボックス」を持つ一群のタンパク質。タンパク質の両側にそれぞれ、特定の標的タンパク質に結合する領域とその分解のためにASKと結合する部分を持つ。
  • 2.ASKタンパク質
    F-ボックスタンパク質と結合し、複合体を形成することでタンパク質を分解するタンパク質。
  • 3.ツーハイブリッド法
    酵母などを用いてタンパク質の相互作用を調べる一般的に用いられている分子生物学的手法。
  • 4.BiFC法
    2つのタンパク質などの細胞内での結合能を調べる方法。蛍光タンパク質を2つに分け、結合能を調べようとするそれぞれのタンパク質に付加する。2つのタンパク質に結合能がある場合には、蛍光タンパク質が再構成され蛍光が観察されることで結合能が分かる。
  • 5.共発現解析
    2つの遺伝子の組織や環境条件での発現様式を調べることで、それらの関係を調べる方法
本研究で用いたF-ボックスタンパク質とASKタンパク質の図

図1 本研究で用いたF-ボックスタンパク質とASKタンパク質

  • 上: ASKタンパク質と各ASKタンパク質に相互作用するF-ボックスタンパク質の数。
  • 下: ASKタンパク質の系統樹。

実験の結果、特にASK1~4、11~14(赤字)は、多くのF-ボックスタンパク質と相互作用をしたことが分かった。なお、ASKタンパク質はASK1~21まであるが、本研究ではASK6、15、21A、21Bを実験に使用していない。

F-ボックスタンパク質とASKタンパク質の特異性の図

図2 F-ボックスタンパク質とASKタンパク質の特異性

F-ボックスタンパク質は、有するドメインの種類によって、相互作用するASKタンパク質に特異性がある。また、F-ボックスタンパク質によっては、ドメインを2つ持っているものもある。

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