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2014年1月15日

理化学研究所

タンパク質を見分けて運ぶp24タンパク質複合体の構成を解明

-細胞外に分泌されるタンパク質を輸送する仕組み解明の足がかりに-

ポイント

  • 小胞輸送で運ばれるタンパク質の受容体として働くp24タンパク質を酵母で解析
  • p24タンパク質は6種の四量体として機能
  • 積み荷となるタンパク質を選別する仕組みの解明へ

要旨

理化学研究所(理研、野依良治理事長)は、小胞輸送において、特定の積み荷タンパク質に結合して輸送小胞への積み込みを助ける、p24タンパク質複合体[1]の構成を、酵母を使った実験で明らかにしました。これは、理研光量子工学研究領域(緑川克美領域長)ライブセル分子イメージング研究チームの中野明彦チームリーダー、平田龍吾先任研究員らの研究チームの成果です。

細胞内には、小胞体[2]ゴルジ体[3]などの細胞小器官があり、生命活動に必要な役割を分担しています。個々の細胞小器官の機能には、それぞれに異なる種類のタンパク質が必要です。小胞輸送は、細胞内で新しく作られたタンパク質を目的の細胞小器官に届けるために必要な分子機構の1つで、基本的な仕組みは全ての生物に共通しています。小胞輸送ではタンパク質を小さな袋状の構造(輸送小胞)に乗せて運びます。

研究チームは酵母を用いた研究で、タンパク質を選別して輸送小胞に積み込む基本的な仕組みを解明してきました。一方で、細胞外に分泌されるタンパク質の選別には、基本的な仕組みに加えて、それぞれのタンパク質と特異的に結合する「積み荷受容体タンパク質[4]」が必要な場合があることが分かってきました。そこで研究チームは、積み荷受容体タンパク質の働きについて、より詳細な解析に取り組みました。

研究チームは積み荷受容体の1つであるp24タンパク質に注目しました。p24タンパク質は8種類あり、異なる組合せで複合体を作って働きます。まず、出芽酵母で新しいp24タンパク質「Rrt6」を同定しました。続いて、既知のものを含む全9種のp24タンパク質を対象に変異解析と相互作用解析を行い、これらが四量体[5]を作って働くこと、主な四量体は6種類であること、そのうちの1つが特定の生育条件でのみ作られることを明らかにしました。

p24タンパク質複合体の種類とそれぞれの存在比を決めたことで、さまざまな実験データ、例えば数多く進められている網羅的解析[6]の結果をより正確に読み解くことができるようになりました。今後、それぞれの複合体が専門に運ぶ積み荷タンパク質を同定して研究を進めれば、小胞輸送における根源的な問題である、タンパク質を見分けて仕分ける仕組みだけでなく、細胞外に分泌されるタンパク質の輸送の仕組みの解明につながると期待できます。

本研究成果は、米国の科学雑誌『The Journal of Biological Chemistry』のオンライン版(11月11日付け:日本時間11月12日)に掲載されました。

背景

細胞内には、小胞体やゴルジ体、リソソームなどの細胞小器官があり、生命活動に必要な役割を分担しています。個々の細胞器官の機能には、それぞれに異なる種類のタンパク質が必要です。

細胞内で作られるタンパク質の約3分の1(積み荷タンパク質)は、小胞輸送経路と呼ばれる道筋に沿って運ばれます。出芽酵母の場合、積み荷タンパク質は約2,000種類あります。その中には、細胞小器官に運ばれるもののほか、細胞外に分泌されるタンパク質も含まれます(図1)。小胞輸送経路内では、積み荷タンパク質が細胞小器官から次の細胞小器官へと受け渡すリレー方式で運ばれ、その各ステップで「小胞輸送」という仕組みが働いています。小胞輸送は、積み荷タンパク質を小さな膜の袋(輸送小胞)に積み込んで運びます(図1)。この仕組みが破たんし、積み荷タンパク質が必要な場所に届かなかったり、誤って別の場所に届いたりすると、細胞の生命活動が阻害され、ヒトであれば重篤な疾病の発症にもつながります。新たに作られた積み荷タンパク質を選別し、輸送小胞に積み込むための仕組みを理解することが、小胞輸送の研究で解明すべき最も重要な課題の1つです。

これまで理研の研究チームは、積み荷タンパク質の選別に働く基本的な仕組みを、出芽酵母を用いた研究によって解明してきました注)。一方で、細胞外に分泌される積み荷タンパク質の選別には、基本的な仕組みに加えて、それぞれの積み荷タンパク質と特異的に結合する「積み荷受容体タンパク質」が必要な場合があることが分かってきました。例えば、積み荷受容体の1つである「p24タンパク質」は、特定の積み荷タンパク質と結合し、小胞体からゴルジ体へ向かう輸送小胞への積み込みを助けます(図2)。p24タンパク質は、ほ乳類に10種類、出芽酵母に8種類あり、異なる組合せで複数の複合体(p24タンパク質複合体)を作って働きます。このことから、それぞれの複合体が異なる積み荷タンパク質に対応する可能性が考えられますが、p24タンパク質複合体が何種類あるか明確でないため、積み荷タンパク質との1対1の対応が付けられない状況にあります。また、p24タンパク質と結合する積み荷タンパク質は、ヒトおよび酵母のGPIアンカータンパク質[7]ツメガエルのホルモン前駆体[8]ショウジョウバエのWntタンパク質[9]など数種しか見つかっておらず、新たな積み荷タンパク質の探索が求められていました。

注)2005年1月24日プレスリリース
 「細胞内のタンパク質輸送過程を人工的に再現、タンパク質を正確に運ぶメカニズムを解明」

研究手法と成果

研究チームは、出芽酵母を使った実験でp24タンパク質と結合するタンパク質の中に、新たなp24タンパク質の候補「Rrt6」を発見しました。Rrt6を今までに発見された8種類のp24タンパク質と比較したところ、アミノ酸配列の相同性は10~15%程度と低いものの、生化学的な特徴(膜貫通領域の数と位置、細胞内局在、輸送小胞を作るタンパク質との相互作用)がよく一致しました。さらに、Rrt6を過剰発現させたところ、p24タンパク質の1つ「Erv25」の欠失を部分的に回復することが分かったため、Rrt6はp24タンパク質であると結論づけました。これにより、出芽酵母のp24タンパク質は9種類になりました。

次に、9種類(Erp1〜6、Erv25、Emp24、Rrt6)のp24タンパク質の活性を比較する目的で、それぞれのタンパク質を欠失させ、細胞のp24活性に与える影響を調べました。細胞のp24活性の指標には、積み荷タンパク質であるGas1タンパク質[10]の輸送阻害と、p24活性の阻害に伴うKar2タンパク質[11]の分泌を用いました。その結果、1種類だけの欠失でp24活性を完全に阻害するp24タンパク質が2種類あり、これらを配列の違いから2つのタイプ(βとδ)に分類しました(図3)。その他の7種類は、1種類だけの欠失では阻害しないかあるいは阻害の度合いが弱いものでしたが、3種類同時に欠失させるとp24活性を完全に阻害する組み合わせが2つ見つかったため、組み合わせごとに2つのタイプ(αとγ)に分類しました(図3)。Rrt6は例外的にどの組合せでも阻害を示しませんでした。Rrt6は、酵母のp24タンパク質の中で唯一、非発酵の好気呼吸条件で発現が誘導されます。他のp24タンパク質とは異なる未知の機能を持つ可能性が考えられますが、解明は今後の課題です。

以上の結果は、9種類あるp24タンパク質が4つのタイプ(α、β、γ、δ)に分類され、各タイプから1つずつを組み合わせた複合体(四量体)を作って機能すると考えると矛盾なく説明できます(図4)。そこで、細胞からp24タンパク質複合体を精製し、どのような組合せのp24タンパク質を含むかを調べました。その結果、p24タンパク質複合体は予想通りα、β、γ、δを1つずつ含む四量体であることが明らかになりました。また、Rrt6タンパク質は、δタイプとして振る舞うことが明らかになりました。p24タンパク質複合体には計算上18通りの組合せが考えられますが、実際に検出されたのは6種類でした(図4)。

今後の期待

p24タンパク質が作る複合体の数と存在比を明らかにしたことで、p24タンパク質の欠失や過剰発現などが引き起こす表現型の解釈が、より容易で正確にできるようになりました。特に網羅的解析の結果を読み解く上で有用な情報が得られたと考えています。また、対象とすべきp24タンパク質複合体の数が絞られたことで、個々の複合体に特異的に結合する積み荷タンパク質の探索をより系統的に行う足がかりができました。今後、p24複合体の新たな積み荷タンパク質を同定し、複合体と積み荷の組み合わせが、それぞれのどのような性質によって決められているかを解析していくことで、小胞輸送における根源的な問題である、積み荷タンパク質を見分けて仕分ける仕組みの解明につながると期待できます。また同時に、ホルモンなど、細胞外に分泌されて他の細胞に働きかける積み荷タンパク質の制御に働く分子機構の理解にもつながると期待できます。

原論文情報

  • Ryogo Hirata, Coh-ichi Nihei, and Akihiko Nakano "Isoform-selective oligomer formation of Saccharomyces cerevisiae p24 family proteins." The Journal of Biological Chemistry, 2013, 10.1074/jbc.M113.518340

発表者

理化学研究所
光量子工学研究領域 エクストリームフォトニクス研究グループ ライブセル分子イメージング研究チーム
先任研究員 平田 龍吾(ひらた りょうご)
チームリーダー 中野 明彦(なかの あきひこ)

お問い合わせ先

光量子工学研究推進室 広報担当
Tel: 048-467-9258 / Fax: 048-465-8048

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

補足説明

  • 1.p24タンパク質複合体
    真核生物で進化的に保存されているタンパク質の一つ。それぞれの生物に4~10種類程度存在する。p24という名称は、分子量が約24,000であることに由来する。
  • 2.小胞体
    タンパク質や脂質の合成を行う細胞小器官。小胞輸送で運ばれるタンパク質は、小胞体に結合したリボソームで合成されて小胞体に取り込まれ、それぞれの機能に必要な高次構造や翻訳後修飾を獲得する。その後、品質管理を受け、合格したもののうち小胞体以外で働くものがゴルジ体へ送り出される。
  • 3.ゴルジ体
    タンパク質の翻訳後修飾や仕分け、脂質の合成などを行う細胞小器官。細胞膜、エンドソーム、リソソームなど複数の細胞小器官への仕分けを行う。
  • 4.積み荷受容体タンパク質
    小胞輸送で運ばれる特定のタンパク質(積み荷タンパク質)に結合し、輸送小胞への積み込みを助けるタンパク質の総称。
  • 5.四量体
    本研究では異なる4種類のp24タンパク質で構成される複合体のこと。
  • 6.網羅的解析
    特定の分子(遺伝子、タンパク質など)に注目するのではなく、ある生物現象に関わる多数の分子を対象とする解析。個々の網羅的解析からある特定の分子について得られる情報は少なく断片的である。しかし、現在までに数多くの網羅的解析があり、さらにその数が増え続けていることから、総合すると引き出される情報量は多い。
  • 7.GPIアンカータンパク質
    C末端に付加されたグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)で膜に結合するタンパク質。
  • 8.ツメガエルのホルモン前駆体
    プロオピオメラノコルチン。この種では体色の環境適応に必要なメラノトロピンの生成におけるp24タンパク質の機能というテーマで研究が進んでいる。
  • 9.ショウジョウバエのWntタンパク質
    細胞外に分泌される糖タンパク質。ショウジョウバエではp24タンパク質の欠損がWnt欠損の表現型の1つである羽の形態異常を引きおこすことが知られている。
  • 10.Gas1タンパク質
    GPIアンカータンパク質の1つ。細胞膜で働く。p24タンパク質の変異株で小胞体からの輸送が部分的に阻害される。
  • 11.Kar2タンパク質
    小胞体内腔で働く熱ショックタンパク質の1つ。p24タンパク質の積み荷ではないが、p24タンパク質の変異株で発現量が上昇し、細胞外への分泌が観察される。
小胞輸送によるタンパク質の輸送の図

図1 小胞輸送によるタンパク質の輸送

細胞内で新しく作られたタンパク質の約3分の1(積み荷タンパク質)は、小胞体からゴルジ体、リソソーム、細胞膜などの細胞小器官へ運ばれるほか、細胞外に分泌される。積み荷タンパク質の輸送は、細胞小器官から次の細胞小器官へと受け渡すリレー方式で行われ、その各ステップで小胞輸送という仕組みが用いられる。まず、送り側の細胞小器官(例えば小胞体)の一部がふくらんで、積み荷タンパク質を包み込み輸送小胞(緑色の小さな丸)を形成する。その後、輸送小胞が受け手側の細胞小器官(ゴルジ体)に融合してその一部となることで積み荷タンパク質が受け渡される。

p24タンパク質複合体を介した積み荷タンパク質の輸送の図

図2 p24タンパク質複合体を介した積み荷タンパク質の輸送

p24タンパク質複合体が積み荷タンパク質を輸送する仕組みには未解明の部分が多い。図は現在有力なモデルを示す。p24タンパク質複合体は、①~④の過程を繰り返す。

  • 小胞体の内側で積み荷タンパク質を結合する。(積み荷を受け取る)
  • 積み荷とともに小胞に取り込まれる。(輸送小胞に乗せる)
  • ゴルジ体に到着すると積み荷タンパク質から離れる(積み荷を降ろす)
  • p24タンパク質複合体は小胞体に戻る。なお、ゴルジ体から小胞体に戻るときに、別の積み荷タンパク質を運ぶという報告もある。
p24タンパク質の分類の図(α:Erp1、Erp5、Erp6。β:Emp24。γ:Erp2、Erp3、Erp4。δ:Erv25。Rrt6。)

図3 p24タンパク質の分類

9種類(Erp1~6、Erv25、Emp24、Rrt6)のp24タンパク質の活性を比較する目的で、それぞれのタンパク質を欠失させ、細胞のp24活性に与える影響を調べた結果、p24タンパク質は4つのタイプ(α、β、γ、δ)に分類された。Rrt6の欠失させたところ、、今回用いた測定条件ではp24活性を阻害しなかった。しかしながら、Rrt6を過剰発現するとδタイプのp24タンパク質であるErv25の欠失を部分的に回復すること、p24タンパク質複合体解析の結果、α、β、γタイプのp24タンパク質とともに四量体を形成することから、δタイプに分類した。

p24タンパク質複合体の種類とその性質(左)と四量体(右)の図

図4 p24タンパク質複合体の種類とその性質(左)と四量体(右)

細胞内では、9種類あるp24タンパク質が個々に働くのではなく、4つのタイプ(α、β、γ、δ)から1つずつを組み合わせた複合体(四量体)を作って機能する。p24タンパク質複合体には計算上18通りの組合せが考えられるが、実際に検出されたのは、以下の2つの制限があるため6通りの組み合わせ(①~⑥)だった。

  • αがErp5のとき、γはErp3が選ばれる
  • δがRrt6のとき、α、β、γはErp5、Emp24、Epr3が選ばれる。

常に発現している質複合体(①~⑤)は、いずれも積み荷タンパク質のGas1とSuc2の輸送に働くと考えられる。積み荷タンパク質の候補には、Can1やricin Aなどがある。
Rrt6は他のp24タンパク質と異なり、発酵に使えない炭素源で培養した場合にのみ作られる。結果として、Rrt6を含むp24タンパク質複合体もこの条件でのみ観察される。

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