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2015年7月31日

理化学研究所
ジョージア大学

寄生植物の発芽誘導の仕組みを解明

-寄生植物におけるストリゴラクトン受容体の発見-

要旨

理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター植物免疫研究グループの白須賢グループディレクター、吉田聡子上級研究員とジョージア大学のデイビット・ネルソン教授らの国際共同研究チームは、寄生植物の発芽を誘導する物質「ストリゴラクトン」の受容体を発見しました。

寄生植物は、長期にわたって種の状態で休眠することができます。宿主となる植物が現れるとその根から放出されるストリゴラクトンという化合物を感じて発芽し、宿主植物に寄生しようとします。これまで、シロイヌナズナやイネなどの高等植物を用いた研究から、ストリゴラクトンの受容体としてD14タンパク質が見つかっていましたが、寄生植物ではゲノム解析が進んでおらず、ストリゴラクトン受容体は見つかっていませんでした。また、植物はD14タンパク質に類似するKAI2タンパク質を持っていますが、このKAI2タンパク質は、山火事などの煙に含まれ一部の植物の発芽に関わる物質であるカリキンを受容することが知られていました。しかし、ストリゴラクトンによる発芽とどのように関わっているのかは明らかになっていませんでした。

国際共同研究チームは、まず、寄生植物とその他の寄生しない植物のゲノム配列を比較しました。その結果、寄生植物のゲノム中でKAI2タンパク質をコードする遺伝子の数が増えていることを発見しました。そのKAI2タンパク質の構造を解析したところ、寄生植物のKAI2タンパク質の一部がシロイヌナズナのD14タンパク質と類似していることが分かりました。これは、寄生植物がKAI2タンパク質を使って、ストリゴラクトンを受容していることを示唆しています。そこで、寄生植物のKAI2タンパク質をシロイヌナズナのkai2変異体に導入しました。すると、ストリゴラクトンに反応して発芽する植物を作ることができました。寄生植物のKAI2遺伝子はシロイヌナズナのD14遺伝子とは独立に進化して、ストリゴラクトン受容体の機能を獲得したと考えられます。

ストライガやオロバンキなどの寄生植物は世界中で農業被害を出している病害雑草です。その発芽の仕組みが解明されたことにより、農業被害の防止が期待できます。

本研究は、文部科学省科学研究費新学術領域研究「生命科学系第3分野支援活動」ゲノム支援の支援を受けて実施しました。成果は米国の科学雑誌『Science』(7月30日号)に掲載されます。

※国際共同研究チーム

理化学研究所 環境資源科学研究センター 植物免疫研究グループ
グループディレクター 白須 賢(しらす けん)
上級研究員 吉田 聡子(よしだ さとこ)

ジョージア大学 遺伝学科
教授 David Nelson(デイビット・ネルソン)
研究員 Caitlin Conn(カイトリン・コン)

背景

寄生植物は、長期にわたって種の状態で休眠することができます。宿主となる植物が現れると、その根から放出されるストリゴラクトン( 図1)という化合物を感じて発芽し、宿主植物に寄生しようとします。寄生植物の中でも、ストライガやオロバンキなどの ハマウツボ科絶対寄生植物[1]は、宿主となるイネやトウモロコシなどに寄生し甚大な農業被害をもたらす病害雑草として知られています。

ストリゴラクトンは寄生植物の発芽誘導だけではなく、枝分かれや葉の老化など植物の様々な発生段階に作用する植物ホルモンです。これまでにモデル植物であるシロイヌナズナやイネから、ストリゴラクトンの受容体としてD14タンパク質が見つかっていました。D14タンパク質は高等植物には保存されていますが、コケなどの原始的植物からは見つかっていません。一方で、植物にはD14タンパク質に類似するKAI2タンパク質が保存されています。このKAI2タンパク質は高等植物だけでなく、原始的植物にも保存されています。一部の高等植物は山火事などが生じた際に煙に反応して発芽することが知られていますが、KAI2タンパク質は、煙の中に含まれるカリキンと呼ばれる物質を受容して発芽を誘導することが知られていました。

そこで、国際共同研究チームは、このKAI2タンパク質とストリゴラクトンによる発芽の関連性を調べ、寄生植物が宿主植物を認識する重要な仕組みの解明に挑みました。

研究手法と成果

国際共同研究チームは、データベース検索[2]ゲノムシーケンシング[3]を行い、ハマウツボ科寄生植物と、ハマウツボ科を含むシソ目の寄生しない植物のD14タンパク質およびKAI2タンパク質をコードする遺伝子の配列を集めました。次に、それらの遺伝子配列を用いて系統解析を行いました。その結果、D14遺伝子は寄生植物、寄生しない植物に関わらず、ゲノム上にほぼ1コピーしか存在しないのに対し、寄生植物のゲノム中ではKAI2遺伝子の数が増えていることが分かりました。KAI2遺伝子は、系統樹上で3つグループに分けることができ、全ての植物が持っているKAI2グループ(KAI2c)がある一方で、シソ目の植物が持っている中間的なKAI2グループ(KAI2i)、そして寄生植物の遺伝子のみが持っているKAI2グループ(KAI2d)があることが分かりました。またこのKAI2dグループの遺伝子は進化速度が早いことが明らかになりました。ハマウツボ科寄生植物では、KAI2遺伝子が独自に進化して、KAI2d遺伝子群を獲得したと考えられました(図2)。

また、既知のタンパク質構造からターゲットとなるタンパク質構造を予測するホモロジーモデリング手法を用いて、KAI2タンパク質の構造を解析したところ、KAI2dグループのタンパク質のリガンド結合領域[4]は、カリキンに結合する保存されたKAI2cタンパク質よりも、ストリゴラクトンに結合するD14タンパク質に類似していることが分かりました。このことは、寄生植物のKAI2dタンパク質がストリゴラクトン受容体として進化したことを裏付けています。さらに、寄生植物のKAI2d遺伝子をシロイヌナズナのkai2変異体に導入することにより、ストリゴラクトンに反応して発芽誘導するシロイヌナズナを作ることができました(図3)。

これらの結果は今までカリキン受容体として知られていたKAI2遺伝子が、寄生植物では独自の進化を遂げてストリゴラクトン受容体になったことを示唆しています。またKAI2遺伝子は、植物の祖先であるコケ類や藻類にも保存されているため、カリキン以外の未同定内在性ホルモン[5]を受容している可能性も高いと考えられます。

今後の期待

病害寄生雑草の発芽誘導物質の受容体であるKAI2d遺伝子群を同定したことにより、寄生植物の発芽阻害剤の探索をおこなうなど、新しい寄生植物防除の方法の開発につなげることができます。また、寄生植物がどのように進化したのかについてもヒントを与えてくれます。

原論文情報

  • Caitlin E. Conn, Rohan Bythell-Douglas, Drexel Neumann, Satoko Yoshida, Bryan Whittington, James H. Westwood, Ken Shirasu, Charles S. Bond, Kelly A. Dyer, David C. Nelson., "Convergent evolution of strigolactone perception enabled host detection in parasitic plants", Science

発表者

理化学研究所
環境資源科学研究センター 植物免疫研究グループ
グループディレクター 白須 賢(しらす けん)
上級研究員 吉田 聡子(よしだ さとこ)

白須 賢 グループディレクターの写真 白須 賢

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

補足説明

  • 1.ハマウツボ科絶対寄生植物
    シソ目ハマウツボ科のストライガやオロバンキは、穀物の根に寄生して栄養を奪って生活する。宿主なしでは生きられない絶対寄生植物である。
  • 2.データベース検索
    様々な植物の発現遺伝子やゲノム情報がインターネット上でデータベースとして公開されているため、これらを検索することにより、遺伝子情報を集めることができる。
  • 3.ゲノムシーケンシング
    生物のゲノムの塩基配列を決定すること。次世代シーケンサーと呼ばれる機械の開発により、ゲノム配列決定が飛躍的に簡便になった。
  • 4.リガンド結合領域
    受容体に結合するシグナル分子をリガンドというが、受容体タンパク質のリガンドが結合する領域をその構造解析から予測することができる。
  • 5.未同定内在性ホルモン
    植物の生長を制御する植物ホルモンにはまだ見つかっていないものがあると考えられている。
寄生植物の発芽の仕組みの図

図1 寄生植物の発芽の仕組み

宿主植物から土壌中に分泌されるストリゴラクトンを認識し、絶対寄生植物であるストライガやオロバンキの種子が発芽する。
KAI2遺伝子の系統的関係とその役割の図

図2 KAI2遺伝子の系統的関係とその役割

ハマウツボ科寄生植物のゲノム中には、寄生植物に特異的なKAI2dグループの遺伝子が重複して存在する。これらKAI2d遺伝子が寄生植物におけるストリゴラクトン受容体であることが分かった。

シロイヌナズナkai2変異体の改変実験の図

図3 シロイヌナズナkai2変異体の改変実験

シロイヌナズナのkai2変異体は発芽しにくくなるが、KAI2遺伝子を導入することによりカリキンに応答した発芽を誘導することができる。また、寄生植物のKAI2d遺伝子の導入によりストリゴラクトンに応答した発芽を誘導することができる。

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