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2016年9月2日

理化学研究所

ゴルジ体槽成熟の分子機構を解明

-COPⅠ被覆タンパク質の機能が必須-

要旨

理化学研究所(理研)光量子工学研究領域生細胞超解像イメージング研究チームの石井みどり研修生(東京大学大学院生)、須田恭之客員研究員、黒川量雄専任研究員、中野明彦チームリーダーらの研究チームは、生細胞4Dライブセルイメージング[1]によって、出芽酵母[2]COPⅠ被覆タンパク質[3]の機能欠損株では、ゴルジ体[4]の槽成熟が完全に抑制されていることを明らかにしました。

ヒトや酵母を含む真核生物の細胞内には、細胞小器官[5]と呼ばれるさまざまな膜構造があります。その一つであるゴルジ体は、新たに作られる多種多様なタンパク質を糖鎖などで修飾し、それぞれを働くべき場所に輸送するという、細胞内タンパク質輸送の中心的な役割を担っています。一方で、ゴルジ体の中をどのようにタンパク質が輸送されるのかは、長い間議論が続いていました。

出芽酵母のゴルジ体は他の真核生物と異なりゴルジ体の各槽が細胞中に散らばって存在しています。この出芽酵母を利用して、2006年に中野明彦チームリーダーらは蛍光タンパク質で標識したゴルジ体各槽の4D(4次元;縦・横・高さ・時間)ライブセルイメージングを行い、ゴルジ体のシス槽がメディアル槽、トランス槽へと徐々にその性質を変えていく様子を捉えることに成功しました注)。それにより、ゴルジ体内での積荷タンパク質[6]の輸送は、槽が時間とともにその性質を変えていく「槽成熟」によって行われていることを示しました。しかし、この槽成熟がどのような分子機構で達成されるのかは明らかになりませんでした。

研究チームは今回、多色・超解像・高速で蛍光イメージングが可能な「高感度共焦点顕微鏡システムSCLIM」[7]を用いた4Dライブイメージングにより、COPⅠ被覆タンパク質の機能を阻害した出芽酵母のゴルジ体の槽成熟を観察しました。その結果、COPⅠの機能がゴルジ体の槽成熟、およびゴルジ体のダイナミクスに必須であることが明らかになりました。細胞内のタンパク質輸送機構など多くの細胞内の事象は、生きた細胞を用いて4Dで可視化していくことが必要です。今後SCLIMを駆使することで、ゴルジ槽間の逆行輸送がどのようなメカニズムで行われているかなどの課題を解決できる可能性があります。

本研究は、英国の科学雑誌『Journal of Cell Science』(9月1日号)に掲載されます。

注)2006年5月15日プレスリリース「細胞小器官ゴルジ体のタンパク質輸送の大論争に決着

背景

生物の基本単位である細胞が生命活動を維持するためには、多種多様なタンパク質がそれぞれ働くべき場所に運ばれ機能することが必要です。ヒト、植物、酵母などの真核生物の細胞内には、さまざまな細胞小器官があります。その一つであるゴルジ体は、細胞内で作られるタンパク質の約1/3を仕分けて、それぞれを働くべき場所に輸送する重要な機能を持っています。

ゴルジ体は、複数の「槽」と呼ばれる膜で包まれた扁平な袋からなり、多くの生物種はこの槽が数枚積み重なった層板構造をとります。一方、出芽酵母ではこの槽が細胞内に散らばって存在しています。槽には方向性(極性)があり、積荷タンパク質が小胞体[8]から入ってくる側をシス槽、仕分けされて出て行く側をトランス槽、その中間をメディアル槽と呼びます。積荷タンパク質は、シス槽からトランス槽へと運ばれる途中で、ゴルジ体に存在するさまざまな酵素の働きにより、糖鎖などで修飾され最終目的地へと運び出されていきます。このゴルジ体内を積荷タンパク質が輸送される基本的な仕組みは、全ての真核生物に共通しています。

ゴルジ体の中を積荷タンパク質がどのように運ばれていくのかは、長年議論されていました。2006年に中野明彦チームリーダーらは、蛍光タンパク質で標識した出芽酵母のゴルジ体各槽の4D(4次元;縦・横・高さ・時間)ライブセルイメージングにより、ゴルジ体のシス槽がメディアル槽、トランス槽へと徐々にその性質を変えていくことを明らかにしました。そして、ゴルジ体内の積荷タンパク質の輸送は、槽が時間とともにその性質を変えていく「槽成熟」によって行われていることを示しました。では、どのような分子機構によりゴルジ体の槽成熟が達成されるのでしょうか。当時、中野明彦チームリーダーらはCOPⅠに着目し、高温下でCOPⅠ被覆タンパク質の機能が阻害される出芽酵母株を用いて、ゴルジ体の槽成熟を観察しました。しかし、当時の顕微鏡システムでは感度が十分でなく4Dライブイメージングでの観察ができませんでした。また、ゴルジ体槽のマーカーも細胞質とゴルジ体の膜の間を行き来するものでした。このため十分にCOPⅠの機能を評価できませんでした。

研究手法と成果

今回、研究チームは、高感度高速多波長蛍光を4D撮影できる「高感度共焦点顕微鏡システムSCLIM」を用いて、ゴルジ体の槽成熟におけるCOPⅠの役割の再評価を行いました。まず、ゴルジ体の各時期の槽の膜に対して膜貫通領域を持つマーカータンパク質を探索し、これらを用いたゴルジ体の槽成熟を4Dで可視化しました。次に、細胞内のCOPⅠ被覆タンパク質を植物ホルモンのオーキシンによって分解できる出芽酵母株を作製しました。その結果、COPⅠ被覆タンパク質を分解して細胞内から取り除くと、積荷タンパク質の輸送が阻害されることが分かりました。

そこで、COPⅠ被覆タンパク質を分解したこの出芽酵母株を用いて、ゴルジ体の槽成熟をSCLIMで4Dライブイメージングしました。その結果、ゴルジ体の槽成熟が阻害されることが明らかになり、COPⅠの機能がゴルジ体の槽成熟に必須であることが分かりました(図1)。

さらに、同じ出芽酵母株において、ゴルジ体槽の運動も阻害されることも明らかになりました(図2)。出芽酵母のゴルジ体槽の運動は細胞骨格[9]などに依存しておらず、どのように細胞内を動いているのかこれまで不明でした。本研究により、ゴルジ体槽のダイナミクスにもCOPⅠの機能が必須であることが明らかになりました。

今後の期待

本研究により、ゴルジ体の槽成熟にはCOPⅠの機能が必須であることが明らかになりました。細胞内のタンパク質輸送機構など多くの細胞内の事象は、生きた細胞を用いて4Dで可視化していくことが必要です。今後SCLIMを駆使することで、ゴルジ槽間の逆行輸送がどのようなメカニズムで行われているかなどの未解明の課題が解明される可能性があります。

原論文情報

  • Midori Ishii, Yasuyuki Suda, Kazuo Kurokawa and Akihiko Nakano, "COPⅠ is essential for Golgi cisternal maturation and dynamics", Journal of Cell Science, doi: 10.1242/jcs.193367

発表者

理化学研究所
光量子工学研究領域 エクストリームフォトニクス研究グループ 生細胞超解像イメージング研究チーム
研修生 石井 みどり(いしい みどり)
客員研究員 須田 恭之(すだ やすゆき)
専任研究員 黒川 量雄(くろかわ かずお)
チームリーダー 中野 明彦(なかの あきひこ)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

補足説明

  • 1.4Dライブセルイメージング
    生きた細胞内のさまざまな活動を4次元(縦・横・高さ・時間)で観察すること。細胞内の細胞小器官などを蛍光タンパク質で標識することにより、それらの変化の詳細を蛍光顕微鏡で観察できる。
  • 2.出芽酵母
    パン酵母やビール酵母などさまざま酵母が知られているが、出芽によって増えるのでこの名がある。特にパン酵母は、細胞生物学や遺伝学実験のモデル生物として広く使われている。
  • 3.COPⅠ被覆タンパク質
    ゴルジ体槽間の輸送、ゴルジ体から小胞体への逆行輸送に関わる輸送小胞の一つであるCOPⅠ小胞を包んでいるタンパク質。COPⅠ被覆タンパク質は、ゴルジ体間のチューブ形成への関与も示唆されている。
  • 4.ゴルジ体
    扁平な袋(槽;シスターナ)からなる細胞小器官の一つで、タンパク質の翻訳後修飾や仕分け、脂質の合成を行う。多くの生物種では、積み重なった層板構造をしている。積荷タンパク質を受ける側をシス槽、積荷タンパク質が仕分けされ出ていく側をトランス槽、その間の槽をメディアル槽と呼ぶ。
  • 5.細胞小器官
    真核細胞の内部に存在する一定の機能、形態をもつ膜構造の総称。
  • 6.積荷タンパク質
    膜交通により運ばれるタンパク質の総称。リボソームが付着している粗面小胞体で作られる。
  • 7.高感度共焦点顕微鏡システムSCLIM
    研究チームが独自開発した蛍光顕微鏡システム。ニポウディスク方式共焦点スキャナー、拡大レンズ、高性能のダイクロイックミラー、フィルターシステムによる分光器、冷却イメージインテンシファイアー(電子増倍管)と複数のEMCCDカメラシステムから構成される。複数蛍光の同時取得と高S/N比の蛍光画像取得が可能。SCLIMは、Super-resolution Confocal Live Imaging Microscopyの略。
  • 8.小胞体
    シート状またはチューブ状の膜からなる細胞小器官の一つ。リボソームが付着している粗面小胞体では、ゴルジ体に運ばれる積荷タンパク質の合成が行われる。
  • 9.細胞骨格
    細胞内に張り巡らされている繊維状の構造の総称。アクチン繊維や微小管などがその代表。細胞の運動、分裂などさまざまな機能を担っている。小さな単位が一定の方向性を持って重合・脱重合することにより、常に動的不安定性を保っている。
COPⅠ被覆タンパク質を分解した出芽酵母株における槽成熟の阻害の図

図1 COPⅠ被覆タンパク質を分解した出芽酵母株における槽成熟の阻害

SCLIMによる4Dライブイメージングによる5.7秒ごとのタイムラプス画像。通常の出芽酵母株(Wild-type)では、シス槽(マゼンタ;Mnn9-mcherry)からメディアル槽(緑;Gnt1-GFP)へ槽成熟が起きるが、COPⅠ被覆タンパク質を分解した出芽酵母株(Sec21-aid)では、シス槽(マゼンタ;Mnn9-mcherry)からトランス槽(緑;Sys1-GFP)への成熟が完全に阻害されるのがみてとれる。スケールバーは、1マイクロメートル(μm、1μmは1,000分の1mm)。

YouTube:通常の出芽酵母株における槽成熟(動画)
YouTube:COPⅠ被覆タンパク質を分解した出芽酵母株における槽成熟の阻害(動画)

COPⅠ被覆タンパク質を分解した出芽酵母株におけるゴルジ槽運動の阻害の図

図2 COPⅠ被覆タンパク質を分解した出芽酵母株におけるゴルジ槽運動の阻害

SCLIMによる4Dライブイメージングによる5.7秒ごとのタイムラプス画像。通常の出芽酵母株(Wild-type)では、ゴルジ体の槽(Mnn9-mCherryで標識)は細胞質内をダイナミックに運動している(矢頭)が、COPⅠ被覆タンパク質を分解した出芽酵母株(Sec21-aid)では、その運動が阻害されているのがみてとれる。スケールバーは1μm。

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