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2017年12月27日

理化学研究所
東北大学

緑内障の視神経乳頭形状の自動分類

-機械学習モデルで緑内障の診断に貢献-

要旨

理化学研究所(理研)光量子工学研究領域眼疾患クラウド診断融合連携研究チームの秋葉正博チームリーダー、横田秀夫副チームリーダー(同領域画像情報処理研究チームリーダー)、安光州客員研究員、東北大学大学院医学系研究科眼科学教室の中澤徹教授らの共同研究グループは、眼底検査[1]装置からの定量値を用いて、緑内障の視神経乳頭[2]形状分類を客観的に行う機械学習[3]モデルを構築しました。

緑内障は、高眼圧、網膜への血流量低下などのさまざまな危険因子により、視神経が損傷を受け、やがて失明に至る疾患です。緑内障の診療では、視神経乳頭形状に基づいたニコレラ分類が利用されています。ニコレラ分類は、眼循環や眼圧など緑内障の重要な危険因子に基づく分類であり、FI型、MY型、SS型、GE型の四つがあります。緑内障の病態を理解するのに有効ですが、これまではカラー眼底画像の医師の読影による主観的判断に基づいていたため、客観性がありませんでした。

今回、共同研究グループは、眼底検査装置からの定量値を用いて視神経乳頭形状を客観的に識別する機械学習モデルの構築を試みました。眼底検査装置からの定量値とカルテ情報から各眼球の乳頭形状や血流パラメータなど計91個の情報を抽出し、緑内障114眼のデータを機械学習構築のためのトレーニングデータとし、まずこのトレーニングデータについて最適分類性能がでる特徴量を自動に選択しました。次に、限定した特徴量を用いて、機械学習モデルをつくりました。この結果、ニコレラ分類に有効な特徴量を9個に絞り、貢献度を定量化しました。トレーニングデータとは別の緑内障49眼を用いて構築したモデルの性能を検証したところ、モデルの正解率は87.8%でした。

今後は、各症例に対して機械学習モデルによる確信度を提示することで、緑内障の客観的なデータに基づく臨床診断につながると期待できます。

本研究成果は、米国の科学雑誌『PLOS ONE』のオンライン版(12月19日付け)に掲載されました。

本研究は、株式会社トプコンとの共同研究により行われました。

※共同研究グループ

理化学研究所 光量子工学研究領域 エクストリームフォトニクス研究グループ
眼疾患クラウド診断融合連携研究チーム
チームリーダー 秋葉 正博(あきば まさひろ)
副チームリーダー 横田 秀夫(よこた ひでお)
(光量子工学研究領域 エクストリームフォトニクス研究グループ 画像情報処理研究チーム チームリーダー)
客員研究員 安 光州(アン・コウシュウ)

東北大学
大学院医学系研究科 眼科学教室
教授 中澤 徹(なかざわ とおる)
助教 面高 宗子(おもだか かずこ)
助教 津田 聡(つだ さとる)
医員 志賀 由己浩(しが ゆきひろ)
医員 高田 菜生子(たかだ なおこ)

株式会社トプコン
技術本部
エキスパート 木川 勉(きかわ つとむ)

背景

緑内障は、高眼圧、網膜への血流量低下などのさまざまな危険因子により、視神経が損傷を受け、やがて失明に至る疾患で、日本では中途失明原因の第1位です注1)

緑内障の診療では、1996年にニコレラらが提唱した視神経乳頭(図1)形状に基づいたニコレラ分類が利用されています。ニコレラ分類には緑内障病態の重要な危険因子が含まれており、Focal Ischemia(FI)型、Myopic(MY)型、Senile Sclerosis(SS)型、General Enlargement(GE)型の四つがあります。型ごとに臨床的な特徴が異なり、型間で病態の進行速度や障害部位が異なります。そのため、緑内障専門医は本分類により緑内障の病態を理解し、治療方針を決めています。しかし、これまではカラー眼底画像の医師の読影による主観的判断に基づいていたため客観性がありませんでした。

そこで共同研究グループは、眼底検査装置からの定量値を用いて、視神経乳頭形状を客観的に識別する機械学習モデルの構築を試みました。

注1)日本眼科学会ホームページ

研究手法と成果

共同研究グループはまず、緑内障専門医3名に各症例がニコレラ分類のどのタイプに当てはまるか判断してもらい、分類結果の一致した緑内障163眼を対象としました。全てのデータをランダムに二つのグループに分けて、114眼はトレーニングデータとして機械学習モデルの構築に用い、残りの49眼はテストデータとしてモデルの性能の検証に利用しました。

定量値としては、眼底の2次元断面を測定する光干渉断層計(OCT)[4]、血流を画像化するレーザースペックルフローグラフィ(LSFG)[5]、および電子カルテの患者背景情報から得られる各眼球の乳頭形状パラメータ、網膜神経線維層厚、乳頭血流パラメータ、背景情報など計91個の情報を抽出しました。次に、トレーニングデータに対して最大関連性最小冗長性特徴選択[6]を適用し候補特徴量を作り、さらに、抽出した候補特徴量に対して遺伝的アルゴリズム[7]に基づいた特徴選択法によって、最適分類性能が出る特徴量のサブセットを探しました。機械学習手法はニューラルネットワーク[8]を用いました。

その結果、等価球面度数[9]や陥凹面性、年齢など、ニコレラ分類を行うのに有効な特徴量を9個に絞り、貢献度を定量化することができました(図2)。

訓練されたニューラルネットワークにより、49眼のテストデータについてニコレラ分類の各タイプに当てはまる確信度を計算し、確信度の最も高いタイプを分類結果としました(図3)。緑内障専門医による分類とニューラルネットワークの分類を比較したところ、ニューラルネットワークの正解率は87.8%でした。また、分類を間違った症例について確認した結果、同時に複数の型の臨床的な特徴を持っている症例であることが分かりました。

今後の期待

緑内障患者の眼底検査装置による測定結果から定量化された眼球パラメータおよびカルテからの背景情報を用いて、緑内障乳頭形状分類の主な基準であるニコレラ分類に対して、ニューラルネットワークにより87.8%の正解率で分類することが可能となりました。

緑内障は複合的な因子を持つことから、本成果は、各症例に対して機械学習モデルによる確信度を提示することで、緑内障の客観的な臨床診断につながると期待できます。

原論文情報

  • Kazuko Omodaka, Guangzhou An, Satoru Tsuda, Yukihiro Shiga, Naoko Takada, Tsutomu Kikawa, Hidetoshi Takahashi, Hideo Yokota, Masahiro Akiba, Toru Nakazawa, "Classification of optic disc shape in glaucoma using machine learning based on quantified ocular parameters", PLOS ONE, doi: 10.1371/journal.pone.0190012

発表者

理化学研究所
光量子工学研究領域 エクストリームフォトニクス研究グループ 眼疾患クラウド診断融合連携研究チーム
チームリーダー 秋葉 正博(あきば まさひろ)
副チームリーダー 横田 秀夫(よこた ひでお)
(光量子工学研究領域 エクストリームフォトニクス研究グループ 画像情報処理研究チーム チームリーダー)
客員研究員 安 光州(アン・コウシュウ)

東北大学 大学院医学系研究科 眼科学教室
教授 中澤 徹(なかざわ とおる)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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東北大学 大学院医学系研究科・医学部 広報室
Tel: 022-717-7891 / Fax: 022-717-8187
pr-office [at] med.tohoku.ac.jp(※[at]は@に置き換えてください。)

産業利用に関するお問い合わせ

理化学研究所 産業連携本部 連携推進部
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補足説明

  • 1.眼底検査
    視力は網膜の働きにより得られる。眼底検査とは、眼科計測装置によって、瞳孔を通して網膜を撮影し、観察すること。
  • 2.視神経乳頭
    網膜の中枢となる部位で、全ての視神経の神経線維が視神経乳頭を通して脳へ向かう。
  • 3.機械学習
    人間の学習能力と同様に、機械(コンピュータ)に学習能力を持たせる手法。データから機械自身が反復的に解析し、ルールを見つけ出すという特徴がある。
  • 4.光干渉断層計(OCT)
    光の干渉を用いて、非侵襲的に眼底の2次元断面を測定できる眼科装置。光ビームの2次元走査により、3次元形状の計測ができる。OCTはOptical Coherence Tomographyの略。
  • 5.レーザースペックルフローグラフィ(LSFG)
    光の散乱のスペックル情報を利用した、生体組織の血流を画像化する装置。LSFG はLaser Speckle Flowgraphyの略。
  • 6.最大関連性最小冗長性特徴選択
    相互情報量という指標で、特徴量の有効性と冗長性を同時に評価する手法。
  • 7.遺伝的アルゴリズム
    遺伝子の型で解の候補を表現し、遺伝子の交叉および突然変異、生物の自然淘汰をモデル化し、最適な遺伝子の型を探す手法。組み合わせ最適化問題に応用可能。
  • 8.ニューラルネットワーク
    脳内の神経細胞および神経細胞同士の結合を、数式的にモデル化したもので、機械学習の一種。
  • 9.等価球面度数
    乱視度数の相当分を球面度数に換算したもの。
視神経乳頭の位置とカラー眼底画像(正常)の図

図1 視神経乳頭の位置とカラー眼底画像(正常)

左:視神経乳頭は眼底の中心より少し下側にあり、中心には小さな「へこみ(陥凹)」がある。網膜にある全ての視神経が束になって、視神経乳頭を通して脳へ向かう。

右:正常な視神経乳頭を撮影したカラー眼底画像。

ニコレラ分類を行うのに有効な特徴量と貢献度の図

図2 ニコレラ分類を行うのに有効な特徴量と貢献度

特徴選択によって選ばれた有効な特徴量を入力として、訓練したニューラルネットワークの各ユニットの重みを用いて、各特徴量の貢献度を計算した。

本手法によるニコレラ分類の分類例の図

図3 本手法によるニコレラ分類の分類例

49眼のテストデータを訓練されたニューラルネットワークによって分類した結果の一例。この例では、ニコレラ分類のSS型である確信度が96.75%と最も高く、分類はSS型となる。

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