2020年11月18日
慶應義塾大学医学部
理化学研究所
ヒト肝胆膵・消化管神経内分泌がんを大量培養しライブラリー化希少がん研究に突破口
-がん化を決定づける因子が明らかに-
慶應義塾大学医学部坂口光洋記念講座(オルガノイド医学)の佐藤俊朗教授、川﨑健太特任助教と、理化学研究所生命医科学研究センターがんゲノム研究チームの中川英刀チームリーダー、藤田征志(がんゲノム研究チーム 元上級研究員、現在は客員研究員)らの研究グループは、慶應義塾大学医学部内科学(消化器)、内科学(呼吸器)、外科学(一般・消化器)、薬学部薬物治療学講座、東京大学、東京医科歯科大学、国立がん研究センター中央病院との共同研究により、希少疾患のため研究が進んでいなかったヒト肝胆膵・消化管神経内分泌がん細胞を5年の歳月をかけて収集し、オルガノイドと呼ばれる技術で腫瘍細胞を大量培養することで、25系統の大規模ライブラリー(バイオバンク)作製に成功しました。
これにより包括的な分子解析が実施可能となり、全ゲノム解析をはじめとする解析を重ね、
- ①神経内分泌がんでは、消化器組織に発現することが知られる転写因子の発現が正常組織と比較して低下し、通常は心筋にみられるNKX2-5と呼ばれる転写因子などが高頻度に発現している
- ②神経内分泌がんは、正常細胞が成長に必要とするWntやEGFと呼ばれる増殖因子がない環境でも成長する
- ③神経内分泌がん全体で染色体がダイナミックに再編成され、DNAの塩基配列以外の情報(エピゲノム)の変化によって遺伝子発現プログラム異常が起きている
などの特徴を初めて明らかにしました。
さらに研究チームは、CRISPR-Cas9と呼ばれる遺伝子編集技術を用い、正常な大腸細胞の遺伝子に神経内分泌がんで見られた変異を人工的に追加していくことで、培養した正常細胞から神経内分泌がんを新たに再構築することに成功しました。この結果、神経内分泌がんの特徴として従来いわれていたTP53、RB1の2種のがん抑制遺伝子の欠損だけでは神経内分泌がんの性質は獲得されず、NKX2-5など他の複数の因子の活性化が加わる必要があることを初めて示しました。
本研究成果は、研究材料に乏しかった神経内分泌がんについて研究の基盤となる研究リソースを提供し、希少がん研究の促進に貢献するとともに、この疾患のさらなる病態解明や創薬開発につながることが期待されます。
詳細は慶應義塾大学のホームページをご覧ください。
報道担当
理化学研究所 広報室 報道担当
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