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2024年10月21日

理化学研究所
横浜市立大学

【パスタコムギvsパンコムギ】進化過程を解明

-遺伝子の機能多様性を活用し新品種づくりに道-

理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター 植物ゲノム発現研究チームの江副 晃洋 基礎科学特別研究員、関 原明 チームリーダー、横浜市立大学 木原生物学研究所の川浦 香奈子 准教授らの共同研究チームは、デュラムコムギ(パスタコムギ)ができた異質四倍体化[1]とパンコムギができた異質六倍体化[1]という2回の新種確立事象(イベント)が、その後の遺伝子の機能多様性に異なる影響を与えたことを発見しました。

本研究成果は、高次の倍数体[1]の多様な遺伝子資源を活用し、新たな品種を作出する技術開発に重要な知見を提供することが期待されます。

異質倍数化[1]が生じると、一つの細胞に存在する遺伝子の数が大幅に増加し、進化の原動力となる遺伝子の機能多様性が生まれます。パスタコムギとパンコムギの元となった種は、それぞれ2種と3種のコムギが合わさる異質倍数化によって誕生しました。異質倍数化によって多様な機能を獲得した結果、これらのコムギは、現在最も幅広い地域で栽培されています。2回の異質倍数化は、機能多様性に対して同じような影響を与えたと考えられてきましたが、実際には比較されてきませんでした。

今回、共同研究チームは、パスタコムギとパンコムギの1回目(約80万年前)とパンコムギの2回目(約9千年前)の異質倍数化で、遺伝子の多様性への影響が異なることを発見しました。特に、パスタコムギの異質倍数化は、パンコムギの異質倍数化よりも遺伝子機能の多様性を生み出した可能性が示唆されました。

この成果から、異質倍数化によって生まれる遺伝子機能の多様性について理解することで、これを活用した品種改良や新たな作物の開発に貢献できると期待されます。

本研究は、科学雑誌『The Plant Journal』(10月21日付:日本時間10月21日)に掲載されました。

パスタコムギとパンコムギの図

パスタコムギとパンコムギ

背景

パスタコムギとパンコムギは、名前の通り、パスタとパンに用いる小麦粉の原料となる重要作物です。パスタコムギとパンコムギは、それぞれ2種と3種のコムギが合わさる異質倍数化により進化してきました。そのため、パスタコムギは異質倍数化を1回経験し、パンコムギは異質倍数化を2回経験しています。異質倍数化が生じると、一つの細胞に存在する遺伝子の数が大幅に増加します。遺伝子の数が増えた際に、それぞれの遺伝子が異なる機能を持つようになることで、機能多様性が生まれます(例えば、乾燥に強くなる遺伝子が増えて、増えた遺伝子が暑さに強くなる機能を持つようになる)。遺伝子が増えることで機能に多様性が生まれ、ストレス耐性の向上などによって、幅広い地域での栽培を可能にしてきました。パスタコムギとパンコムギは、異質倍数化を経験した回数が違うことから、異質倍数化の機能多様性への影響を調べることができる興味深い研究対象です。

近年、パスタコムギとパンコムギの異質倍数化に関わった5種のコムギのゲノム情報が明らかになり、パスタコムギとパンコムギの異質倍数化によって種が確立された進化過程が検証可能となりました。

研究手法と成果

江副 基礎科学特別研究員らはこれまで、異質倍数化などのイベントで遺伝子が増えた際に、イベントによって機能が変化する遺伝子が異なることを、モデル植物などで明らかにしてきました注)。従来、異質倍数化は何回生じても、それぞれの結果は同じだと考えられていましたが、この先行研究の結果から、1回目と2回目の異質倍数化では、遺伝子の機能多様性への影響が異なる可能性が示唆されていました。

今回、パスタコムギとパンコムギの異質倍数化イベントに着目し、1回目と2回目の異質倍数化の違いを調べたところ、1回目の異質倍数化によって、遺伝子の機能がより大きな変化を起こしており、それぞれでその対象となる遺伝子が異なっていました(図1上)。特に、パスタコムギの異質倍数化イベントが、遺伝子の機能多様性に、より大きな影響を与えたことが示唆されました(図1下)。また、興味深いことに、1回目の異質倍数化の後に機能が変化した遺伝子を詳しく調べたところ、全く異なる種である異質四倍体のワタ(綿)で、異質倍数化後に機能が変化した遺伝子と同じ傾向があることが分かりました。この結果は、安定的な二倍体から四倍体になる際には、同じ遺伝子に機能の変化が必要である可能性を示唆しています。そして、これらの遺伝子は、異質四倍体の確立に重要である可能性があります。

パスタコムギとパンコムギの進化と遺伝子機能多様性への影響の図

図1 パスタコムギとパンコムギの進化と遺伝子機能多様性への影響

  • 上:パンコムギとパスタコムギが進化過程で経験した異質倍数化イベント。パンコムギとパスタコムギの異質倍数化に関わったこれら5種のコムギのゲノム情報が最近明らかになっていた。
  • 下:2回の異質倍数化イベントの機能多様性への影響は、1回目の異質四倍体化の方が2回目の異質六倍体化の方よりも大きい。
  • 注)Akihiro Ezoe, Kazumasa Shirai, Kousuke Hanada. Degree of Functional Divergence in Duplicates Is Associated with Distinct Roles in Plant Evolution. Molecular Biology and Evolution, Volume 38, Issue 4, April 2021.

今後の期待

本研究により、パスタコムギとパンコムギが種を確立した異質倍数化の影響の違いを明確にしました。パスタコムギやパンコムギだけでなく、ジャガイモ、サツマイモ、タバコ、ヒエ、ブドウ、サトウキビなど、重要作物にも倍数体が存在します。異質倍数化の影響をさらに研究することにより、異質倍数化によって生まれた遺伝子の機能多様性が、さまざまな作物においてどのように利用されているかの理解が進むとともに、豊富な遺伝子資源の活用を通じて、新たな作物の開発に貢献できると期待されます。

本研究成果は、国際連合が定めた17の目標「持続可能な開発目標(SDGs)[2]」のうち、「2.飢餓をゼロに」「3.すべての人に健康と福祉を」「13.気候変動に具体的な対策を」「15.陸の豊かさも守ろう」に貢献するものです。

補足説明

  • 1.異質四倍体化、異質六倍体化、倍数体、異質倍数化
    体細胞の染色体数が基本数(x)と倍数関係にある個体を倍数体という。体細胞の染色体数の2倍(2x)、4倍(4x)、6倍(6x)で表せる個体をそれぞれ二倍体、四倍体、六倍体という。異質倍数化は、祖先二倍体種の交雑によって生じた雑種で起きるもので、染色体セットが倍加すること。4倍になる場合を異質四倍体化、6倍になる場合を異質六倍体化と呼ぶ。
  • 2.持続可能な開発目標(SDGs)
    2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された、2016年から2030年までの15年間で達成する国際目標。持続可能な世界を実現するための17のゴール、169のターゲットから構成され、発展途上国のみならず、先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり、日本としても積極的に取り組んでいる(外務省ホームページから一部改変して転載)。SDGsはSustainable Development Goalsの略。

共同研究チーム

理化学研究所 環境資源科学研究センター 植物ゲノム発現研究チーム
チームリーダー 関 原明(セキ・モトアキ)
基礎科学特別研究員 江副 晃洋(エゾエ・アキヒロ)
研究員 戸高 大輔(トダカ・ダイスケ)
研究員 内海 好規(ウツミ・ヨシノリ)
テクニカルスタッフⅠ 高橋 聡史(タカハシ・サトシ)

横浜市立大学 木原生物学研究所
准教授 川浦 香奈子(カワウラ・カナコ)

研究支援

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業若手研究「異質六倍体コムギにおけるシングルトン同祖遺伝子の機能解析(23K13932、研究代表者:江副晃洋)」、理化学研究所の「2023年度研究中断からの復帰のための研究費支援」、基礎科学特別研究員に対する助成を受けて行われました。

原論文情報

  • Akihiro Ezoe, Daisuke Todaka, Yoshinori Utsumi, Satoshi Takahashi, Kanako Kawaura, Motoaki Seki, "Decrease in Purifying Selection Pressures on Wheat Homoeologous Genes: Tetraploidization vs Hexaploidization", The Plant Journal, 10.1111/tpj.17047

発表者

理化学研究所
環境資源科学研究センター 植物ゲノム発現研究チーム
基礎科学特別研究員 江副 晃洋(エゾエ・アキヒロ)
チームリーダー 関 原明(セキ・モトアキ)

横浜市立大学 木原生物学研究所
准教授 川浦 香奈子(カワウラ・カナコ)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
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横浜市立大学 総務課 広報担当
Tel: 045-787-2414
Email: koho [at] yokohama-cu.ac.jp

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