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研究最前線 2021年12月8日

イソギンチャクで動物の体の進化を探る

ヒトをはじめとする多くの動物の体は、左右相称(対称面が一つある)の構造をしています。一方、進化において祖先的な位置付けにある刺胞動物門のクラゲやイソギンチャクなどの体は放射相称(対称面が二つ以上ある)の構造をしています(図1)。なぜこのような違いが生まれたのか、動物の体の進化について研究するうちに、サフィエ・エスラ・サルペル訪問研究員(以下、研究員)は日本近海に生息するタテジマイソギンチャクで興味深い発見をしました。

サフィエ・エスラ・サルペルの写真

Safiye Esra Sarper(サフィエ・エスラ・サルペル)

生命機能科学研究センター
形態進化研究チーム
訪問研究員
1990年トルコ、イスタンブール生まれ。大阪大学大学院歯学研究科口腔科学専攻博士課程修了。博士(歯学)。2018年より理研生命機能科学研究センター研究生、2021年より現職。

一つの種に2種類の体の構造を発見

動物の体の構造がどのようにして放射相称から左右相称に変化したのかを調べることは、動物の進化の謎を解明する上で重要なテーマだ。

このような背景の下、サルペル研究員は、タテジマイソギンチャクが個体によって放射相称だったり左右相称だったりすることを発見した(図1)。一つの種内に2種類の体の構造が見られるのは極めて珍しい。

ヒト、タテジマイソギンチャク、ミズクラゲの体の構造の図

図1 ヒト、タテジマイソギンチャク、ミズクラゲの体の構造

タテジマイソギンチャクは、放射相称と左右相称の両方の個体が存在する。

歯科医師から動物の進化研究の道へ

「来日前は母国のトルコで歯科医師として働いていましたが、生物や生命の本質的なところを深く学びたいと思い、大阪大学大学院歯学研究科に入学しました。発生学の観点からヒトの顔を研究するうちに、動物の体の構造や進化へと興味が広がっていったのです」とサルペル研究員。

そんなサルペル研究員を3年前に迎え入れてくれたのが、大阪大学大学院理学研究科生物科学専攻の藤本仰一准教授だった。2年前からは、藤本准教授の紹介で理研の倉谷滋チームリーダーが率いる生命機能科学研究センター形態進化研究チームに参加。藤本准教授とも共同研究を続けている。

美しさに対する興味が発見につながる

「子どもの頃から海の生き物が大好きだったので、その調査から始めることにしました」。近くの海岸に行ったとき、日本に数多く生息するタテジマイソギンチャク(図2)をたまたま見つけ、オレンジ色の縦じまの美しさに心を奪われた。

「昔からものの数を数える癖があり、そのときも何気なくイソギンチャクの縦じまの数を数えてみました。すると個体ごとに数が異なることが分かり、なぜなのだろうという興味から研究を始めました。小さな興味から、放射相称と左右相称の両方の個体がいるという発見につながったのです」

タテジマイソギンチャクの写真

図2 タテジマイソギンチャク

基礎研究は芸術のようなもの

さらに、タテジマイソギンチャクが体の一部から個体全体を再生する時の形作りをコンピュータシミュレーションで再現すると、体のどの部分から再生するかで、放射相称になるか左右相称になるかが決まるという結果が出た。

「もちろん、この発見一つで動物の進化の謎を解き明かせるとは思っていません。むしろ、このような基礎研究は、好きという気持ちや、やらずにはいられないという衝動が出発点であるという点で"芸術"のようなもの。今後も好きという気持ちを大切にしながら研究を深めていきたいですね」

(取材・構成:山田久美/撮影:大島拓也/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

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