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私の科学道 2021年12月24日

顕微鏡観察をきっかけに研究の道へ

SDGs(持続可能な開発目標)達成のための資源としてバイオマス(動植物由来の資源)が注目されています。植物バイオマスの利用を効率化する化合物の探索を主な研究領域としている栗原恵美子研究員に話を聞きました。

藤澤 茂義の写真

栗原 恵美子(くりはら えみこ)

環境資源科学研究センター
合成ゲノミクス研究グループ
研究員
1982年山梨県生まれ。東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻博士課程修了。博士(生命科学)。2012年理研入所、2018年から現職。

顕微鏡から広がる研究テーマ

栗原研究員が取り組んできた主な研究テーマには、分裂中の植物細胞がつくり出す代謝物質の探索、植物の発芽や成長に関わる化合物の機能探索などがある。そして2016年、植物細胞の細胞壁の成分である炭水化物「セルロース」の分解を促す化合物を発見した。最新のテーマはゴムの生合成の仕組みの探索だ。ゴムの木がつくり出す天然ゴムは耐摩耗性や耐熱性など総合的に優れた性質を持つ。それが、細胞内のどこで、どのようにできてくるかについてはいまだに謎だ。そのため、ゴムの木からつくった培養細胞とさまざまな化合物を駆使し、細胞内で天然ゴムの合成メカニズムや性質に関わる因子を明らかにしようとしている。

多彩なテーマを手掛けているように見えるが、一貫しているのは全て顕微鏡観察からスタートしていること。「多くの研究者は最初に取り組むべき課題を決めますが、私の場合、顕微鏡観察で興味を持った事象を課題にしていくという手法です」

最適な化合物を見つけ出すには、反応させては顕微鏡で観察するという地道な作業の繰り返しが必要となる。時には1万を超える化合物を調べることもある。

最新の顕微鏡は、リアルタイムでディスプレイに表示させることも画像を保存することもできるが、栗原研究員は1万を超える化合物の探索の場合でも、必ずレンズをのぞいて視野の全てを観察するという。「レンズ越しに見たときの違和感は大切」だからだ。

顕微鏡観察の魅力はなんといっても得られる情報量の多さだ。「対象物の大きさ、形、色、動き、密度、位置関係、細胞同士の接合の様子まで全部分かる。生物学の現象を捉えるのにこれほど素晴らしい手法はない」、栗原研究員はこう言い切る。

研究手法の原点は大学1年までさかのぼる。顕微鏡実習で、共焦点レーザー顕微鏡や電子顕微鏡まで扱う機会に恵まれ、観察の面白さを存分に体験した(図1)。さらに修士・博士課程で在籍した東京大学大学院の馳澤盛一郎研究室で、顕微鏡画像の数値化など、単に見るだけではない顕微鏡観察の奥深さを知り、研究者への道を歩む決意を固めた。

大学で最初の実習のスケッチの図

図1 大学で最初の実習のスケッチ

左は目視による観察を描き留めたユリの花の構成図。右は顕微鏡で確認した胚珠の構造(子房の横断面)。「顕微鏡の視野に広がる世界に胸が躍りました」と栗原研究員。

絵本の蔵書が450冊に

研究に没頭するかたわら、ここ5、6年は絵本集めにも凝っている。その数はすでに450冊余り。特に科学絵本は、科学の魅力や不思議を絵で伝える必要があるため、見て楽しむという点でも、自身の研究に対する取り組みと相通じるものがあるという。

栗原研究員は同じ研究室の同僚と結婚している。夫は遺伝子のシーケンス解析が専門で、いわば設計図の読み解きから現象にアプローチしている。見た目(フェノタイプ)から取り組む栗原研究員とは研究手法が大きく異なるが、家でもよく議論し、認め合う良きパートナーだという。

座右の銘は「百聞は一見にしかず」。顕微鏡を武器に有用化合物を次々に見つけ出す若手研究者の信念として、これほどふさわしい言葉はなさそうだ。

(取材・構成:中沢真也/撮影:相澤正。/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

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