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研究最前線 2022年1月13日

ゲノム情報に隠された進化の法則を探る

地球上に生命が誕生して約40憶年。長い年月を経て生物は多種多様に進化してきました。これはゲノムの進化の歴史でもあります。種ごとの違いはどのようにして生じてきたのか、ジェフリ・フォーセット上級研究員(以下、研究員)は、数理科学のアプローチを取り入れながらこの謎の解明に挑戦しています。

Jeffrey Fawcettの写真

Jeffrey Fawcett(ジェフリ・フォーセット)

数理創造プログラム
上級研究員
1980年マレーシア生まれ。ベルギー・ゲント大学バイオインフォマティクス専攻修了。博士(理学)。総合研究大学院大学先導科学研究科日本学術振興会特別研究員、公益財団法人かずさDNA研究所先端研究部特任研究員を経て、2018年より現職。

A、G、T、Cが語るあらゆる生物の進化の歴史

2000年ごろからヒトをはじめ、さまざまな生物のゲノム(全遺伝情報)が解読されるようになった。当時、学生だったフォーセット研究員は、ゲノムをデータと捉えコンピュータを用いて進化を調べる研究を始めた。

「ゲノムの塩基配列は、種や個体によって異なります。塩基配列の違いはどのようなプロセスで生じたのか、そこにどんな法則があるのかに興味を持ちました。どんな生物でもアデニン(A)、グアニン(G)、チミン(T)、シトシン(C)という塩基のデータにすれば"共通の言語"として扱えます。ゲノムの類似性などを調べ、種としての近さや共通祖先からいつ分岐したかを調べています」

研究対象は熱帯樹木から競走馬まで

多くの生物は両親から受け継いだ2セットのゲノムを持つ。しかし、近年のゲノム解析から、遠い昔のある時点にゲノムが重複して倍になる「全ゲノム重複」がさまざまな生物種で起きていることが分かってきた。フォーセット研究員が、東南アジアの熱帯雨林に多く自生するフタバガキ科の樹木(図1)のゲノムを解析したところ、白亜紀(約1億4,500万年前から6,600万年前)の末ごろに全ゲノム重複が起きたと推定された。

「重複した遺伝子はその後どちらかが失われることが多いのですが、驚いたことに、現存のフタバガキは乾燥応答遺伝子が重複して残っていました。この地域は湿潤ですが、まれに大規模な乾燥が起こります。その異変に対応する能力が、この種の繁栄に不可欠であった可能性があります」

ゲノム解析に使われたフタバガキ科の樹木の図

図1 ゲノム解析に使われたフタバガキ科の樹木

フタバガキ科の1種Shorea leprosula
写真提供:マレーシア森林研究所、横浜市立大学(Ng 主任研究員ほか著 『Communications Biology』より )
原論文情報:DOI 10.1038/s42003-021-02682-1

進化には人為的なものもある。競走馬(サラブレッド)は、18世紀初頭に品種改良された個体群がもとになっており、その子孫で交配が繰り返されてきた。そのため、現在のサラブレッドは速く走ることができる遺伝子を共通に持っている可能性が高い。フォーセット研究員はサラブレッドと他の馬の品種の遺伝情報を比較して、サラブレッドたちが共通で持つ遺伝子を複数見つけた。「走力に関わる遺伝子はまだ特定できていませんが、将来的にはゲノム情報を競走馬の遺伝病の回避や、より効率的な選抜交配に活用したいと考えています」

「数理」との融合で新たな展開

所属する数理創造プログラムでは、数理科学を軸に数々の学際的研究が進められている。フォーセット研究員も、メンバーたちとの議論を通して、新たな試みのヒントを得たという。

「これまでどの遺伝子がどの遺伝子を制御しているかを表す『遺伝子ネットワーク』の進化も調べていましたが、これを理解するにはネットワークそのものの研究が必要だと分かってきました。今は遺伝子に限らず、ネットワークの理論的な研究を行っています。新たなアプローチで研究がどう展開していくか自分でも楽しみです」

(取材・構成:秦千里/撮影:相澤正。/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

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