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私の科学道 2022年1月26日

雲の成長から知る自然の構造パターン

2021年のノーベル物理学賞でも話題になった「気候モデル」。地球規模の大気シミュレーションに関わる富田浩文チームリーダー(TL)は、複雑な気象現象に秘められた秩序に目を凝らしています。

富田 浩文の写真

富田 浩文(とみた ひろふみ)

計算科学研究センター
複合系気候科学研究チーム
チームリーダー
1969年京都府生まれ。東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。海洋研究開発機構地球環境フロンティア研究センター主任研究員などを経て、2011年より理研で研究室を主宰、2018年より現職。

紙飛行機から流体へ

バックグラウンドは航空宇宙工学。「父親も研究者で、子どもの頃はよくプラモデルやラジオをつくらされましたね」と笑う。特に熱心だったのが紙飛行機だ。のりで貼り合わせ、重りをつけてゴムで飛ばす。「のりしろがないやんけ」などと口を出されながら培われた感覚は今も忘れていない。

大学は航空宇宙工学科に進んだが、大学院生になる頃には航空機やロケットの設計より、その周りの空気の流れなど、流体の本質的な性質に強い関心を抱いた。「例えば味噌汁を置いておくと、澄んだ部分と濁った部分で模様ができますよね。何もない状態から、構造的なものが生まれる過程、自己組織化が興味の中心になったんです」

雲の再現でブレークスルー

「いろいろなものの流れを再現してみたい」と気象力学へ方向転換し、前職では地球シミュレータを使った全球雲解像モデル「NICAM」のシミュレーションに携わった。当初は技術者として応募したのだが、勧められて研究者の道へ。

それまでの地球規模での大気シミュレーションでは、雲の時間発展のような物理現象を追うのは難しいため、雲の影響はあらかじめ見積もった上で計算に組み入れていた。しかし、これでは実際の大気現象を再現するにはほど遠い。そこで、富田青年は世界で初めて雲そのものを再現したNICAMモデルを提唱し、当時の最高解像度(格子間隔3.5km)での全球シミュレーションに挑んだ。

「モデルを一新したことで大転換が起こりました。熱帯域の巨大な積乱雲群では、一つの積乱雲から始まる階層構造まで再現できたのです」。より忠実に物理現象に従った気象モデルは、全球大気シミュレーションの質的ブレークスルーにつながった。

ランダムな状態から生まれる構造的な秩序

その後理研に入所し、スーパーコンピュータ「京」を使って格子間隔870mごとの超高解像度を達成。現在は「富岳」を駆使しながら、「より精度の高い地球規模の大気シミュレーションを実現するためには、乱流など、まだ、きちんと組み込めていない物理現象の基礎研究が重要」とさらなる高みを目指す。

大気シミュレーションでは、物理法則に従い雲が集積し、秩序ある階層構造が生み出される。富田TLは、「このような仕組みは、分野を超えて普遍的に見られるのではないか」と考える。例えば、細胞から臓器、そして身体となる生物の階層構造には、共通する仕組みが存在するのではないか。その思考を今、次の学問につながる数理的な自己組織化論へと発展させたいと考えている。

(取材・構成:那須川真澄/撮影:大島拓也/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

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