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研究最前線 2022年2月2日

タピオカの原料“キャッサバ”で世界を救う

日本でもブームとなったタピオカ。あまり知られていませんが、その原料であるキャッサバは、世界の約10億人の食糧やエネルギー源などとなっている重要な作物で、イネ、トウモロコシ、コムギに次ぐ第4の炭素資源としてSDGsの観点からも注目されています。関原明チームリーダー(TL)らはキャッサバの研究基盤を築き、食糧問題など地球規模の問題解決に向けたキャッサバ研究を進めています。

関 原明の写真

関 原明(せき もとあき)

環境資源科学研究センター
植物ゲノム発現研究チーム
チームリーダー
1966年兵庫県生まれ。京都大学農学部卒業。広島大学大学院理学研究科博士課程修了。博士(理学)。理研植物分子生物学研究室先任研究員を経て、2006年より研究室を主宰。2013年より現職。

実はすごい、キャッサバという植物

キャッサバは、アフリカや東南アジアなどの熱帯で栽培される作物で、茎の根元にできる塊根(イモ)は世界中の多くの人の食糧となっている。

まず、キャッサバのすごいところは、栄養や水の乏しい土地でもグングン育つ成長力だ。切った茎を土に挿しておけば、1年ほどで2~3mに成長し、土の下には1株に約20kgものイモができる(図1)。

キャッサバの写真

図1 キャッサバ

ベトナムやタイなど東南アジアの圃場では挿し木して1年ほどで高さ2mに成長。キャッサバのイモの味は「甘みのないサツマイモのよう。スライスして揚げたタピオカ(キャッサバ)チップスも結構おいしい」と関TL。

また、タピオカでんぷんなどの加工品の世界的な取引量は年々増えており、生産農家の収入源になっている。さらに、バイオプラスチックや燃料用バイオエタノールの原料としても使用されている。

関TLは2000年代の半ばにキャッサバの研究を始めた。「先進国の主要作物であるイネやトウモロコシなどと比べて、キャッサバは研究者人口が圧倒的に少なく、研究基盤が整っていませんでした。有用な品種をつくるには、遺伝子などの解析システムが必要です。私たちは理研が持つ解析技術を活用しながら、キャッサバの研究基盤の整備を進めてきました。それがようやくひと段落し、今まさにこの研究基盤を使って、さまざまな面白い研究を進めているところです」

イモの形成メカニズムを解明

持続的な食糧・バイオマス生産を維持する方法の一つは、より大きなイモをつける品種をつくることだ。イモは根が膨らんだもの。そこで、関TLらは、根からイモになる塊根形成のメカニズムを調べた。

植物の成長には「植物ホルモン」と呼ばれる物質が大きな役割を果たしている。植物ホルモンにはさまざまな種類が知られているが、キャッサバの塊根の形成にどのような植物ホルモンが関与しているかは分かっていなかった。

関TLらは、キャッサバの塊根を用いて植物ホルモンを一斉に分析し、根を太くする植物ホルモン(図2)と、逆に根を太くすることを阻害する植物ホルモンを明らかにした。

「私たちはキャッサバのゲノム編集技術も開発しています。ゲノム編集を用いて、根を太くするのを阻害する植物ホルモンの遺伝子を壊せば、根はもっと太く膨らみ、大きなイモをつける品種を開発できる可能性があります」

無菌栽培の実験系による塊根の形成実験の写真

図2 無菌栽培の実験系による塊根の形成実験

オーキシンとサイトカイニンという植物ホルモンに根を太くする働きがあることが分かった。これらの植物ホルモンで処理した根(上)は、無処理の根(下)に比べて太さが3~4倍になった。

ゲノムレベルで迅速な品種改良へ

しかし、遺伝子導入やゲノム編集技術を使って植物に新たな形質を持たせるには、クリアしなければいけない重要なステップがある。それは、キャッサバの植物切片から「カルス」という細胞の塊をつくることだ。

葉や根などの植物の一部を特殊な培地に置くと、葉や根などに分化する前の状態に戻った(どんな組織にもなりうる)細胞がモコモコと増えてくる。これがカルスだ。外来の遺伝子を導入したり、ゲノム編集で標的の遺伝子を改変したりするには、カルスを用いる。そして、カルスを植物体へと再分化させることで、新たな形質を持った植物をつくり出すことができる。

「私たちは、東南アジアで栽培されているキャッサバの主要品種について、よく増殖するカルスを効率的につくるための培地の条件を明らかにしました(図3)。これにより、ゲノムレベルでの迅速な品種改良が可能になり、現在、生産性の向上やストレス耐性、耐病性を高めたキャッサバの作出を進めています」

キャッサバの腋芽から誘導したカルスの写真

図3 キャッサバの腋芽から誘導したカルス

葉の付け根にできる腋芽を特殊な培地に置くと、細胞が増殖し、カルスができる。遺伝子の導入やゲノム編集はこのカルスを用いて行う。

開花の謎を解明し、交配育種の可能性を広げる

交配による従来の品種改良も、重要な育種の手段の一つだ。しかし、キャッサバはめったに花を咲かせない。花が咲かないと、受粉させることができず、異なる品種間や個体間で交配をすることができない。

「生産地で『山ではキャッサバの花が咲く』といううわさを聞きましたが、本当のところはよく分かっていませんでした。そこで、ベトナムとカンボジアのいくつかの地域でキャッサバを栽培したところ、本当に山間部や高原地帯で多くのキャッサバが花を咲かせました」と関TL。

さらに、キャッサバの開花に関わる分子メカニズムを調べた。「面白いことに、こうした地域では開花に関わる遺伝子のほかに、乾燥や低温といった植物にとってストレスとなる環境に置かれたときに応答する遺伝子の発現も増えていました。乾燥や低温にさらされると身の危険を感じ、生き残るために子孫を残そうと開花のスイッチが入るのかもしれません。動くことのできない植物の生存戦略でしょう」

キャッサバの花の写真

図4 キャッサバの花

ベトナム北部の山間部バッカム省では、9~11月ごろに多くの個体が花を咲かせた。

グローバルな頭脳循環も加速

関TLはキャッサバ研究を推進させるとともに、研究人材の国際連携も進めてきた。今では、関TLが率いる理研のチームは、ベトナム、タイ、カンボジア、コロンビア、台湾、ドイツの研究機関などとグローバルな共同研究体制を築いている。

「私の研究室でも、ベトナムやタイ出身の研究者が活躍しています。海外の若い研究者は、日本の科学技術を学びたいという気持ちが強く、日本に対する期待の大きさを感じることもたびたび。博士号を取得した後、母国でキャッサバ研究のリーダーとして活躍している人もいます。人材育成や頭脳循環に貢献しつつ、彼らとのパートナーシップによって私たちも研究を発展できる。こうした海外の人との連携も、キャッサバ研究の面白いところです」

(取材・構成:秦千里/撮影:相澤正。/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

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