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研究最前線 2022年2月21日

タンパク質の進化から生命誕生の謎に挑む

どのようにして地球上に生命が誕生したのか――これは生命科学の最も大きな謎の一つです。分子工学の手法を用いて古代のタンパク質を再現する試みを通して、この謎の解明に取り組んでいる田上俊輔チームリーダー(TL)に話を聞きました。

田上 俊輔の写真

田上 俊輔(たがみ しゅんすけ)

生命機能科学研究センター
高機能生体分子開発チーム
チームリーダー
1982年神奈川県生まれ。東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻博士課程修了。博士(理学)。英国MRC分子生物学研究所を経て、2015年から理研で研究室を主宰。2020年から現職。

非生命と生命をつなぐ進化の解明を目指す

地球上にいつ最初の生命が誕生したかは定かではないが、生命誕生以前にDNAやRNAなどの核酸、タンパク質の元となるアミノ酸などは存在していたと考えられている。では、非生命の世界から生命が誕生するまでには、どのようなプロセスがあったのか。田上TLが目指す究極の目標が、この非生命と生命をつなぐ進化の解明だ。

全ての生物は遺伝子としてDNAを持ち、その情報をもとに「RNAポリメラーゼ」というタンパク質がRNAを合成する。タンパク質の合成を担うのはRNAとタンパク質の複合体(リボソーム)なので、RNAとタンパク質は、いわば、お互いをつくり合う関係にある。このような仕組みは、生命進化のごく初期に成立したに違いない。

田上TL率いる研究チームでは、RNAポリメラーゼの進化に焦点を当て、生命誕生の謎解きに取り組んでいる。

現在のRNAポリメラーゼは3,000個以上のアミノ酸から成る非常に大きなタンパク質だが、最初から巨大だったわけではなく、まず中心となる構造ができて、次第に他の部分が加わったと考えられる。そこで田上TLらは、中心部分の構造「DPBB」に注目した。

実はDPBBは、RNAポリメラーゼ以外にもさまざまなタンパク質に見られる共通構造だ。DPBBがどのように誕生したかが分かれば、多様なタンパク質の進化を解く鍵となるかもしれない。では、DPBBの原初の姿はどんなものだったのだろうか。

約90個のアミノ酸からなる現在のDPBBの配列をよく見ると、前半と後半が似たような配列であることが分かる。つまりDPBBの起源は、長さが現在の半分(約45個)の、より短い単純な「古代DPBB」だったらしい。古代DPBBの配列を実験や理論的手法で設計したところ、現在の生物が使う20種類のアミノ酸のうち、わずか7種類でDPBBと同じ構造を取りうることが示された(図1)。

「タンパク質のかたちはその機能と密接に関係します。利用できるアミノ酸が少ない環境でもタンパク質の重要な基本構造がつくれるのなら、非生命からの「自然な進化」によって生命が誕生したことの一つの立証になると考えられます」と田上TL。

DPBBとその構造の図

図1 DPBBとその構造

DPBB構造は現在のRNAポリメラーゼの中心部にも認められる(右下)。田上TLらのチームは7種類のアミノ酸から成る古代DPBB(左上:青と黄色のリボンモデル。約45のアミノ酸から成り、お互いの配列は同一)を設計した。二つの古代DPBBが結合すると、現在の生物が持つDPBBタンパク質(約90アミノ酸)と同様の立体構造を取ることができる。

研究対象が道を示してくれた

田上TLは高校生の頃、細胞の分子メカニズムなどに興味を持ち、大学院で構造解析に取り組んだRNAポリメラーゼに魅せられたという。それが今も取り組み続けている研究テーマになった。

「研究対象が進むべき道を示してくれました。RNAポリメラーゼは、生命が誕生し複雑化してきた歴史の中心キャラクターの一つです。このテーマを見つけるまでに時間がかかってしまいましたが、一生かけて取り組みたいと思います」と決意を語った。

田上俊輔チームリーダーと八木創太基礎科学特別研究員の写真

タンバク質の合成実験を担当する八木創太基礎科学特別研究員(写真右)と、高速液体クロマトグラフィーシステムの前で。

(取材・構成:中沢真也/撮影:相澤正。/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

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