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私の科学道 2022年6月20日

分析のプロの「しなやかな強さ」

生体の機能を解明するのに、分析は基本となる技術です。その分析への真摯な姿勢で、仕事の縁を次々とたぐり寄せ、脳神経科学のさまざまな舞台で成果を上げてきた俣賀宣子ユニットリーダー(UL)。自身の分析物語を柔らかな口調で語ります。

俣賀 宣子の写真

俣賀 宣子(マタガ・ノブコ)

脳神経科学研究センター
研究基盤開発部門 生体物質分析支援ユニット
ユニットリーダー

原点は、まずい牛乳の分析

私はカトリック系の女子校に通っていましたが、小さい頃から理科が好きで、高校で化学部に入ったのが人生の分かれ目になりました。部の仲間と「売店の牛乳は薄くておいしくない」という話になり、学校の牛乳をはじめ、さまざまなメーカーの牛乳を分析して、脂質や糖分がどれくらい含まれるかを調べたのです。「おいしいかどうか」が数値になるのが面白く、「分析をやりたい」と、東邦大学理学部化学科に進みました。

縁の連鎖で研究者への道を拓く

卒業研究では医学系の分析をしたいと思い、紹介されたのが東京医科歯科大学の精神科。抗うつ薬によって、ラットの脳でアミノ酸がどう変化するかを分析する研究でした。

当時、私には大学院進学という考えはなく、統合失調症が専門の講師からの「国立精神・神経医療センターが開設されるので、一緒に行きませんか」という誘いに応じて、同センターの研究員となり、まだ珍しかった電気化学検出器で、神経伝達物質のモノアミンの微量抽出と分析法を確立し、多くの研究に活用しました。その後、同センターの他部門から、小児自閉症に関わるアミノ酸の代謝を調べる依頼があり、これらの仕事を通して、10年前には考えてもみなかった博士号を得ました。そして、大阪バイオサイエンス研究所を開所なさる早石修所長や渡辺恭良部長と知り合い、まさかの大阪赴任となったのです。

分析装置の今昔の図

分析装置の今昔

電気化学検出器を用いたモノアミンの液体クロマトグラフィーは1980年代には既に完成形の技術となっていた。現在も同様の機材が使用されているがサイズは半分以下にダウンし性能も10倍以上向上している。分析結果の表示はアナログからデジタルに変わった。

「タンパク分解酵素tPAははさみ」というオンリーワンの発想

大阪で小児自閉症の研究を続けました。生後の発達初期には、環境に応じて、脳の神経ネットワークの組み換えが生じます(これを可塑性と言います)。ここには、のりで固められたような細胞外基質を柔らかくするはさみが必要で、小児自閉症ではそこに問題があるのではと考えるようになりました。そして、はさみになるのはtPAではないかと思ったのです。そこで、同じラボの研究者から可塑性を評価できる電気生理実験を教わりました。そして、東京医科歯科大学に戻り、tPAの研究を広げましたが、当時はまだこの実験に適したモデル動物がいませんでした。

そんな時、マウスで可塑性の研究ができることを発見した米国のラボにいたヘンシュ貴雄博士が、理研に研究室を持つことを知り、その研究室の一員となりました。

可塑性にはさみが必要なんて発想の人はいませんでしたがマウスの実験でtPAの役割をいろいろな手法を使って証明することができました。

研究者から分析支援部門の長に

その後の進路を考える時がきました。分析装置をはじめ機械いじりと教えることが好きなため、総合的な立場から分析支援を行う現職の公募に、天職と思って応募し、2009年に採用されました。研究者の時に利用する側としていくつもの着想があったので、その実現に努めました。中でも管理する共用機器は、最初は3台でしたが現在は160台に増えました。脳神経科学の研究者一人一人の役に立ち、柔軟に対応できる分析支援を目指し続けています。

(取材・構成:由利伸子/撮影:古末拓也/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

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