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研究最前線 2022年6月27日

世界最高出力のアト秒レーザーを開発

化学反応には原子の構成要素である電子の運動が深く関わっています。その電子運動の観察を可能にするのが非常に短い時間だけ光るアト秒レーザーです。これまでは出力が弱いため、アト秒レーザーの利用は一部の分野に限定されてきました。2022年3月、世界最高出力を実現し、アト秒レーザー利用の用途拡大に向け一石を投じた高橋栄治チームリーダー(TL)に話を聞きました。

高橋 栄治の写真

高橋 栄治(タカハシ・エイジ)

光量子工学研究センター
超高速コヒーレント軟X線光学研究チーム
チームリーダー

電子の動きを捉える

化学反応のメカニズムを解明するためには、分子内での電子運動を調べる必要がある。しかし、電子は絶えず超高速で動いているため、その動きを捉えるには、アト秒(100京分の1秒、10-18秒)という非常に短い時間だけ光るフラッシュ(パルス)が不可欠だ。2001年にドイツの研究グループが「アト秒レーザー」の開発に成功したものの、出力が非常に弱いことが光源利用において長年課題になっていた。2022年3月、理研で開発したアト秒レーザーは従来の100倍以上の1.1ギガワット(GW、1GWは10億W)という世界最高出力を達成し、大幅な性能向上を果たしたのだ。これにより、アト秒レーザーの用途拡大への道筋が見えてきた。

成功の鍵は「光シンセサイザー」

「成功の鍵は、2020年に開発した『光シンセサイザー』(図1)です。光シンセサイザーの電場制御により、強いアト秒レーザーを発生できることが過去の研究から分かっていました。そこで、この光シンセサイザーと研究室独自の光技術を組み合わせてアト秒パルス発生を行い、従来の100倍以上の高出力のアト秒レーザーを実現させたのです」と高橋TL。

従来のアト秒レーザー発生に使用されるレーザー光の波長は1色のみ。それに対し、光シンセサイザーは波長の異なる複数色のレーザーを重ね合わせることで、アト秒レーザー発生に最適化した電場分布の光をつくり出すことができる。

光シンセサイザーの写真

図1 光シンセサイザー

2015年から5年の歳月をかけて開発した高強度光シンセサイザー。ここでは3色のレーザーパルスにより光シンセサイザーを実現している。光シンセサイザー内の電場を変化させることで、アト秒レーザーの強度や時間幅を制御できる。

「高出力のアト秒レーザーの実現には、波長の異なる複数色の光を非常に高い精度、距離に置き換えるとナノメートル(nm、1nmは10億分の1m)単位で制御する必要があります。そこが最も苦労した点ですね」

今後、電子運動の観測はもとより、アト秒レーザーによる微細イメージングや物質加工といった応用が期待される。加えて、光シンセサイザーの電場制御によりアト秒レーザーのパルス波形を変えることが可能なことから、ニーズに応じて幅広い分野への応用も期待できる。

「私にとってアト秒レーザー開発の醍醐味は、オリンピックで世界新記録を狙うのに例えられるような明快さにあります。例えば、『世界一高出力のレーザーをつくりました!』ってすごく分かりやすいじゃないですか。しかもそれによって、さまざまな研究分野の発展に貢献できることに、研究者としての大きなやりがいを感じます。開発競争は激しいですが、今後も世界一、世界初のレーザー開発を目指します」

(取材・構成:山田久美/撮影:古末拓也/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

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