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特集 2025年7月31日

サイエンスをつないで国をつくる

TRIP事業本部は、特定の研究分野だけでは解決が困難な科学的・社会的課題に対し、分野を超えてその解決を図るための組織として、2022年からスタートしました。

根底にあるのは五神 真 理事長が掲げるTRIP(Transformative Research Innovation Platform of RIKEN platforms)構想です。理研の持つ各分野の最先端プラットフォーム群を有機的に連携させ、「つなぐ科学」を実現することが狙いです。

統合データ・計算科学プログラム、科学研究基盤モデル開発プログラムなど、すでにいくつものプログラムが走り出しています。基礎科学を駆動力に、グローバル・コモンズの保全のような地球規模の課題解決、さらには日本の経済成長のための社会変革、未来創造、人類社会全体の成長発展に貢献していくことを目指します。

川﨑 雅司と福島 一成の写真

左:川﨑 雅司(カワサキ・マサシ)

最先端研究プラットフォーム連携(TRIP)事業本部 本部長

右:福島 一成(フクシマ・カズシゲ)

TRIP事業推進部 部長

私たちTRIP事業本部は正式名称を「最先端研究プラットフォーム連携事業本部」といいますが、その目的をやさしく言い直すと「つなぐ科学」です。

自然科学には多くの分野があり、日本で唯一の自然科学の総合研究所である理研では、それぞれの研究分野で個々に「とがった研究」が進められています。しかし、そうした研究の横のつながりが強くありませんでした。そこで、五神 真 理事長が3年前に着任したのを機に、理研の特色をさらに発揮する取り組みとして、データや数理計算、AIなどを横軸として、自然科学の各分野をつなげようと構想したのです。

川崎 本部長の写真

AIとハイブリッドコンピュータの融合が連携の武器

理研にはスーパーコンピュータ「富岳」があるだけでなく、量子コンピュータの研究も進んでいます。2つの利点を合わせたハイブリッドコンピュータができると、近未来予測ができるようになるかもしれない。このアイデアは、どの分野の研究者にも魅力的で心に刺さりました。つまり、良質なデータの蓄積、ハイブリッドコンピュータによる計算可能領域の拡張、数理科学によるAIとハイブリッドコンピュータの融合を横軸として、各研究領域は「つながる」ことができるのです。

私は今まで量子コンピュータをどう使うのかという研究にも携わってきました。量子コンピュータは無限の可能性の中からベストの答えを見つけるのが得意です。これは同じような特徴を持つAIと相性がいい。AIとコンピュータを結びつけるのは数理科学。これは複雑な事象を数式で解き明かそうとするものです。一方、生命科学は数式で表現しにくく、膨大な情報量を持つ画像が重要です。これだけみると、数理科学と生命科学は接点が乏しいと思われるかもしれません。

しかし、医療の世界では現在、AIに内視鏡画像でがんの特徴を学ばせ、医師の診断の補助にしています。生命科学でも素粒子物理学でも、AIとコンピュータを組み合わせる手法は有効で、多くの研究者が使っています。分野が遠いように見えても、連携の武器によってはつながることができるのです。

研究のすき間に魅力的なテーマ

研究には専門分野がある以上、縦割りがあるのは致し方ない。私はその縦割りを無理やり打破しようとは思っていません。縦割りのすき間にこそ魅力的な研究テーマがあり、そのすき間から漏れ出てくる水は、やがて一緒になってより大きなテーマになっていく。すき間に面白みがあると共感する研究者が近くにいれば、周囲の研究者たちも「自分も探してみよう」と考えますね。

TRIP事業本部では月に1回、各分野の研究者が参加するオンライン会議をやっています。誰かが「いま研究のここで困っている」と打ち明けると、すかさず対応策を助言する人たちが4、5人いる。また、PI(研究室主宰者)が「次のオンライン会議には○○先生が出席する。君の研究に役立つかもしれない」と言って若手の参加を呼びかけます。研究分野が大きく違っていても有益な助言を出せる、そういったことで「つなぐ科学」を生かすことが可能になるのです。

こういった「つなぎ」がTRIP事業本部の強みですが、当初はつなぐツールとして計算科学やDX(デジタルトランスフォーメーション)を活用していました。それが、現在ではAI for Scienceや基礎量子科学、先端半導体科学といった既存の研究センター体制では実現が難しく、いくつかをまたいで一緒にやるからこそできる研究テーマが相次いで生まれています。こうした新たな研究が順調に進んでいるのは、連携の横串であるデータの蓄積・統合、AIと数理科学、ハイブリッドコンピュータが武器として有効だということの証しです。

この点は若い研究者ほど強く意識していると思います。これまでと違う方法にチャレンジしないと、自分のボスを超えられない。ボスを超えないと科学の発展はありえません。今は、AIと数理科学、ハイブリッドコンピュータが武器ですが、5年後にはまた別の技術に変わっているでしょう。何かテーマを設定したら自然と研究者が集まってくる、というような、組織が固定化せず柔軟なこともTRIP事業の強みです。

地球温暖化、エネルギー不足、食糧難などの地球規模課題は、スーパースターが突然一人現れたからといって一気に解決するわけではない。研究者は自分が興味を持っているテーマと、社会課題がリンクしているところを見つけなければなりません。自分でやりたいと思っていることと、世の中が科学に求めているところを重ね合わせていく。それにより「自分の研究は世の中に役立っているのだ」という自負が生まれるのです。

世界に例を見ないトップ研究者の真剣な試み

そのうえで私は、TRIP事業本部のキャッチフレーズは「サイエンスで国づくり」と考えています。理研の最先端の研究プラットフォームを活用し、新たな研究の基盤、新しい知恵を生み出す。これは日本だけでなく、人類社会を豊かなものにできると信じています。理研ほどの大きな組織でトップ研究者が真剣に「つなぐ科学」に取り組んでいる研究機関は他ではあまり見かけません。

地球は数々の大きな課題に直面していますが、私たちの子、孫、その後の世代もきちんと生活できて、人生、仕事を楽しめる。サステナブルで平和な世の中のために貢献したいと思います。

福島 一成の写真

地球温暖化や環境破壊等、人類社会は、今大きな岐路にあります。国内外大学・企業での豊富な経験を有し、物理・工学分野をけん引してきた川﨑 本部長のもと、理研はサイエンスで国づくりを掲げ、世界最先端の研究者らと共に、日本の勝ち筋として新しい科学技術を軸とする将来社会をつくり、地球システムを守るため、研究領域を横断する「つなぐ科学」が貢献できるよう事業推進したいと思います。(福島)

(取材・構成:吉川 学/撮影:竹内 紀臣)

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