腎臓に炎症が起き、未治療の場合、約4割が末期腎不全に至る指定難病「IgA腎症」は、患者数が多いとされながら原因が分かっておらず、扁桃の切除やステロイド投与などの対症療法しかないのが現状です。大学院博士(後期)課程の学生を育成する理研の大学院生リサーチ・アソシエイト(JRA:Junior Research Associate)制度において採用された濱口 翔 JRAは、臨床医として診療を続ける傍ら、IgA腎症の原因を究明するための研究を進めています。
疾患を深く理解するため理研へ
「僕、ロジカルにものごとを考えたい人なんです」
進路について考えていた高校3年の秋、「組織の中で競争するビジネスマンより、知識と技術で患者を救う医者が合っている」と両親に勧められ順天堂大学に入った。卒業後の初期臨床研修で腎臓内科を選んだのは「患者さんのデータを見て、体液量と電解質の数値を管理するという論理的な世界と、透析という専門技術があるところに魅力を感じたから」。IgA腎症患者の臨床に立ち会ううち、ある思いが芽生える。「臨床医の仕事は好きでした。珍しい症例に遭遇すると学会で発表もしました。ただ、疾患を深く理解するには基礎医学の知識が不可欠でした。そこで基礎研究にも取り組みたいと思いました」
IgA腎症は、口腔内(唾液)に存在する特定細菌に反応してつくられたIgA抗体が腎臓に沈着し、炎症を起こすという見立てがある。口腔内には数百種の細菌が存在するとされており、唾液に含まれる口腔内細菌のDNAを解析することでその種類や数を特定できる。従来の解析法では、そのごく一部しか調べることができなかったが、理研にはDNAを網羅的に解析できるラボがあった。共同研究が始まる2023年、4月に大学院に進学した濱口 JRAは10月に研修生として理研の共生微生物叢研究チームの一員に加わり、大学院生リサーチ・アソシエイトとして採用された。
教わりながらの共同研究
「DNAの抽出はピペットの使い方から教わりました」。DNA配列の解析はもっと未知の世界だった。「文字列が並ぶ解析用マシンの黒い画面に、ラボの皆さんがものすごい勢いでコマンドを打ち込んでいるのを見たときは『やばいところに来たな』と思いました。解析技術について、チーム全員で熱心に教えてくださったので、必死で学びました」
共同研究の結果、口腔内のどの細菌に対するIgA抗体が腎臓に沈着しているかは判明した。しかし、この細菌は健常者の口腔内にもほぼ同量存在しているものだった。なぜIgA腎症患者だけに抗体がつくられるのか。「困っていたところ、須田 亙 チームディレクターから『疾病研究で前例はないが、もっと深くまで調べる方法があるよ』と提案されました。それが、口腔内に存在する小さなDNAの断片『プラスミド』などを解析する世界最高レベルの口腔メタゲノム解析でした」
根治療法の実現を目指して
解析の結果、IgA腎症患者では特定の細菌属を宿主とするプラスミドが増えていることがわかった。「増えたプラスミドが細菌の形質を変化させることで、その細菌に対するIgA抗体の産生が進み、IgA腎症が発症する――という仮説を立てて、現在、検証しています」
この研究によって、どの口腔内細菌とタンパク質がIgA腎症に関与するかが分かるという。「それを標的にすれば、発症を根本から止めることができる可能性があります」。濱口 JRAの研究が、対症療法を超えた「IgA腎症の根治療法」への扉を開こうとしている。
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