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十倉 好紀 博士「サイエンスにもエンターテインメントを」

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十倉 好紀(とくら・よしのり)博士
創発物性科学研究所センター長

1954年、兵庫県生まれ。東京大学工学部を経て、同大学院工学系研究科物理工学専攻を修了。専門は物性物理学。現在も東京大学で教鞭をとる。電子型高温超伝導体の発見など多数の業績をあげている。13年日本学士院賞・恩賜賞受賞。

天才研究者たちの人間ドラマ

僕らが若い頃、物性物理学やエレクトロニクスの基礎を牽引していたのはベル研究所(通称:ベル研)とIBM研究所でした。いずれもノーベル物理学賞を数多く輩出した研究所ですが、そのどちらを研究の場にするかは、当時の科学者にとって重要な問題でした。

僕はIBM研究所に留学しましたが、一方のベル研究所がどのように勃興し、壊れていったかを書いている①『世界の技術を支配する ベル研究所の興亡』は、非常におもしろい本です。

両社が勃興した頃の中心は電話事業。その頃に発見・発明された技術が今日のイノベーションに繋がっています。ベル研は基礎科学を発展させるために莫大な投資をし、若くて優秀な人材を集め、自由に研究をさせました。とんでもない秀才たちの人間くさいドラマが描かれています。当時、基礎研究から真のイノベーションがどのように構築されたかのプロセスがリニアな繋がりとしてわかる。この時代は研究者にとって幸せな時代だったのだと実感しました。

ベル研は新しいビジネスモデルを数多くつくりましたが、そこには世に名前が残っていなくても、目利きのような「Instigator=扇動者」がいました。

扇動者が研究者を組み合わせて、チームで重要な発明をしていく。つまり、人材のマネージメントについても書いてあります。研究グループを率いる人が心がけるべきリーダー論としても参考になるでしょう。

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サイエンスにもエンターテインメントをと語る十倉 博士

SFの世界は現実になるかもしれない

サイエンスをエンターテインメントに乗せて発信していくことは非常に大事です。②『サイエンス・インポッシブル』はタイムトラベル、テレポーテーション、サイコキネシス、パラレルワールドなど「空想のSF世界は実現可能か」を理論物理学者ミチオ・カクさん(ニューヨーク市立大学教授)が論じている、刺激的な本です。僕は昔、子ども向けの講演にこの本をよく使っていました。

本書では「不可能」を3つのレベルに分けています。

  • 「不可能レベル1」は今世紀~来世紀中に実現するかもしれないこと。
  • 「不可能レベル2」は数千年~数百万年先には文明が到達する可能性のあること。
  • 「不可能レベル3」は既知の物理法則に反するため絶対に不可能なこと。

例えば、テレポーテーションや念力は、不可能レベル1で遠くない将来、実現の可能性があると紹介されています。タイムトラベルがレベル2、予知能力がレベル3です。考えようによっては「なにが可能で不可能か」には、さまざまなバラエティがある。夢のようなSFの世界だって、現在にすでに萌芽があるのです。

DNA解析でわかる人類のはじまり

最後の1冊は、ヒトゲノム研究の結果をもとに人類の歴史を書いた③5万年前―このとき人類の壮大な旅が始まったです。

本書によると、人類の祖先は5万年前にアフリカ大陸を脱出したわずか150人程の集団だったそうです。その150人の集団が、肌の色を変えながら世界中に散らばっていった。

DNA解析では驚異的なことまでわかる。たとえば、「人間はいつ服を着たか」。服は残らないのにどう調査するかというと、研究者たちは人ダニの遺伝子を解析するのです。すると、いつ野生のダニが人に寄生したか遺伝子的に推定でき、そこから人間が服を着始めた時期がわかる。

このような「大きな物語」に入っていけることが、本の魅力のひとつでもあります。

2017年02月08日

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