2009年8月5日
理化学研究所
理化学研究所に対する国際的な外部評価委員会「第7回理化学研究所アドバイザリー・カウンシル(RAC)」の報告書について
ポイント
- 理研は、科学の最先端にある学際研究を行う理想的な場
- 創造力のある個人、特に若手、中堅、日本人女性研究者の発掘と育成に期待
- 理研内外とのさらなる連携を進め、科学の進歩に貢献することに期待
概要
独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)の活動に関して、国内外の外部有識者が理事長への提言を行う「第7回理化学研究所アドバイザリー・カウンシル(RAC)」が2009年4月22日~24日に開催され、このほどザック・W・ホール議長(米国 カリフォルニア大学サンフランシスコ校 名誉副総長)より、評価結果と提言をまとめた報告書(タイトル「理研:創造的発展のための基盤づくり」)が理研に提示されました。
報告書では、理研の有する研究分野と質は国内外でも傑出しており、物理科学、生命科学の分野における小規模、大規模の基礎研究と、ミッション志向のプロジェクト、世界一流の大規模施設の開発とを巧みに組み合わせることで、最先端の学際研究を行う理想的な場を形成しているとの評価を受けました。さらに、理研は第6回RACの提言に対して、積極的かつ万全に対応しているとの評価を受けました。特に、中央研究所とフロンティア研究システムの統合により基幹研究所を発足させたことは、学際的交流を推進し、基礎研究と開発研究を融合する重要なステップであったと評価されました。また、理研を世界の科学界に不可欠の存在にするという理事長のビジョンに沿って、RIビームファクトリー、NMR施設、SPring-8などの外部利用拡大や、X線自由電子レーザーや次世代スーパーコンピュータの開発計画などによって、理研内外との連携強化が進んでいることが高く評価されました。
一方で、理研が掲げる「科学技術に飛躍的進歩をもたらす理研」の実現に向け、今後、創造性の高い個人を発掘し、意欲を喚起するための多くの提言を受けました。特に、若手および中堅の研究者の独立性を高めつつ育成し、日本人女性研究者を有効に採用するとともに、日本の大学と提携して、理研における大学院生を増やすことに一層努めるようにとの要請がありました。
また、理研が科学の発展に資するために、環境科学および生命理工学における学際的イニシアチブの可能性を探ることや、管理運営について提言する管理部門のアドバイザリー・カウンシルを設置することへの要請がありました。そして、これらを通じて日本および世界へより一層貢献する研究機関であり続けるようにとの期待が寄せられました。
背景
独立行政法人理化学研究所(以下、「理研」)は、その活動に関して、理事長に対して評価・助言を受けるため、国内外の大学・研究機関や企業などで活躍してきた一流の外部有識者により構成される「理研アドバイザリー・カウンシル(RAC)」を設置しています。理研は、わが国の大学・研究機関などに先駆けて、特殊法人時代の1993年に外部評価委員会であるRACを初めて実施し、2006年には第6回RAC会議を開催しました。現在では、原則として中期目標期間(5年間)中に2回開催することとしています。
第6回RAC会議の報告書では、理研の研究の質は世界最高峰の研究機関に匹敵し、科学の間口の広さも十分などとした評価を受けました。その上で、センターなどの中核使命である「発見と革新」を促進することや、科学的統治(Scientific governance)の強化の継続、女性研究者や外国人研究者の採用、技術移転や一般社会への貢献、アジア諸国との連携構築、国際的な認知度の向上、理科系文化と人文系文化の交流の推進などに取り組む必要性が指摘されました。
理研は、これらの提言を踏まえ、第2期中期計画(2008年度からの5年間)を策定し、中央研究所とフロンティア研究システムの統合による基幹研究所の設立や、企業との連携センター(3センター)の立ち上げ、国際的な認知度の高い利根川進マサチューセッツ工科大学教授(1987年ノーベル生理学・医学賞受賞)の脳科学総合研究センター長への招聘など、その後の研究所運営に反映しています。
第7回RACについて
今回の第7回RAC会議は、2009年4月22日~24日の3日間、東京都内で開催されました。今回は、第6回RAC会議に引き続き、ザック・W・ホール氏(米国 カリフォルニア大学サンフランシスコ校 名誉副総長)を議長とし、ノーベル賞受賞者も含む多様な分野をカバーする国内外の世界的科学者が委員として参加しました(委員名簿:別紙1)。
第7回のRACでは、以下のことを主要議題としました。
- 1.第6回RAC会議の提言(「日本の科学を世界の最高峰に導くために」)に対する理研の対応を評価すること。
- 2.理研の第2期計画の柱である「科学技術に飛躍的進歩をもたらす理研」、「社会に貢献し、信頼される理研」、「世界的ブランド力のある理研」を実現するための運営方策について、理研の経営陣に提言を行うこと。
- 3.各センターなどの理研内外における連携活動について評価するとともに、連携活動を推進するための方法について、理研の経営陣に提言を行うこと。
RAC提言
新たな提言の趣旨は、以下のとおりです。
提言1:個人の科学的創造力の強化
- 資金援助、指導助言、所内交流により若手、中堅の研究者を育成・支援する。
- 自由発想に基づくボトムアップ研究への支援を維持・強化する。
- 国内外の大学院、医大・医学部との密接な関係を通して、理研で研究する大学院生の量・質を向上する。
- 理研の女性研究者と女性の研究室リーダーの数を増やす。目標として、今後4年間、新規採用PIの25%を女性とする。
- 臨床研究者の研究機会を拡充するために、臨床フェローシッププログラムを創設する。
提言2:優れた研究成果の達成を促すために理研がとるべきイニシアチブ
- RIビームファクトリーの運転サポートを増強する。
- 環境科学分野、生命理工学/定量生物学分野で新しい研究プログラムの創設を検討する。
- 生命情報基盤研究部門と新しいバイオインフォマティクスへのサポートを拡充する。
- 著名な科学者をアドバイザーやセンター長クラスとして迎え、研究プライオリティの意思決定のため、独自性のある科学情報入手機能をより一層強める。
- 政府に対し、持続可能性を保証するための十分かつ将来予測の可能な資金供給の必要性を明確に示す。
- 大規模施設を支援するため、公平かつ透明性のある運転経費を利用者に課金できるシステムを含むビジネスプランを設立する。
- 事務系職員の強制的な人事異動の廃止、キャリアや業務スキルを磨くためのプログラムの導入、和英バイリンガルな事務環境を重視することによって、理研の事務システムの有効性と効率性を向上させる。
- 理研の事務の慣習と手順を評価し、理研上層部に提言するため、研究部門のACと同じように、事務のACを設置する。
- ヒトを研究対象にする研究に関する理研の基準を確立する。
提言3:理研内での連携
- 適切と考えられる場合には理研内の複数センターで兼務できる研究者を任命し、学際領域における人的交流と研究協力を促進することを検討する。
- 研究所をまたがる1つ以上の学際研究プログラムを設立することを検討する。
- 既存の理事長ファンドワークショップを基にして、学際的な議論を進めるために全理研的なワークショップを構築する。
提言4:理研と社会
- 研究者としての経歴のさまざまなレベルで大学との人事交流を促進し、大学との関係を強める。
- 知的財産戦略の強化を継続し、研究利益の社会への還元を促進し、新しい収入源を可能とする。
- 科学技術の分野で新たに発生する開発課題をモニターするため、科学政策担当部署を設置する。
- 一般市民との相互の信頼、理解を強めるため、積極的な交流と対話を行う。
- 意見調査や一般市民とのコミュニケーション活動を通して、理研に対する良いイメージを発信する。
提言5:理研と国際的科学界
- ヒトの遺伝子データの公開に関する理研の方針を検証して、国際標準のコンプライアンスを充たすものであることを確認する。
- 引き続き、国際的に傑出した人材を研究職、事務職に雇用する。
- 研究、事務、両部門において英語を話す風土の醸成を継続する。
- 研究活動の国際的な中核であり続け、アジアおよび全世界において理研への認識を高める。
今後の対応
理研は、今回報告された数々の提言を真摯に受け止め、迅速に対応策を検討し、年度内にはRACに対して報告する予定です。
また、その検討結果は、理研の第2期中期計画の三本柱「科学技術に飛躍的進歩をもたらす理研」、「社会に貢献し、信頼される理研」、「世界的ブランド力のある理研」の実現に向けて、今後の組織運営に適切に反映させていきます。
お問い合わせ先
独立行政法人理化学研究所 経営企画部 評価推進課
課長 串田 幸彦(くしだ ゆきひこ)
Tel: 048-467-4460 / Fax: 048-462-4600
報道担当
独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
別紙1
第7回理化学研究所アドバイザリー・カウンシル委員名簿
- Dr. Zach W. Hall <Chair 議長>
-
Emeritus Vice Chancellor, University California, San Francisco, USA
(Founding President, California Institute for Regenerative Medicine)
米国 カリフォルニア大学サンフランシスコ校 名誉副総長
(米国 カリフォルニア再生医科学研究所 前所長) - Dr. Yuan Tseh Lee (李 遠哲) <Vice Chair 副議長>
-
President Emeritus and Distinguished Research Fellow, Academia Sinica, Taiwan
(1986 Nobel Laureate)
台湾 中央研究院 名誉総裁 (1986年ノーベル賞受賞) - Dr. Hiroo Imura (井村 裕夫) <Vice Chair 副議長>
-
Chairman, Foundation for Biomedical Research and Innovation, Japan
Principal Fellow (Chair), Center for Research Development Strategy, JST, Japan
(Professor Emeritus, Kyoto University)
財団法人先端医療振興財団 理事長 (京都大学元総長)
独立行政法人科学技術振興機構 顧問 - Dr. Howard Alper
-
Distinguished University Professor, University of Ottawa, Canada
Chair, Government of Canada Science, Technology and Innovation Council, Canada
カナダ オタワ大学 特別教授
カナダ 科学技術イノベーション評議会議長 - Dr. Teruhiko Beppu (別府 輝彦)
-
Professor, Advanced Research Institute for the Sciences and Humanities, Nihon University, Japan
(Professor Emeritus, University of Tokyo and former Chairman, Japan Bioindustry Association)
日本大学 教授 (東京大学名誉教授、日本バイオインダストリー協会前会長)
- Dr. Colin Blakemore
-
Professor of Neuroscience, University of Oxford, UK
(former Chief Executive, UK Medical Research Council)
英国 オックスフォード大学 教授
(英国 医学研究評議会(MRC)前議長) - Dr. Rita R. Colwell
-
Distinguished University Professor, University of Maryland at College Park, USA
(11th Director, National Science Foundation)
米国 メリーランド大学 特別教授
(米国 国立科学財団(NSF)前理事長) - Dr. Mitiko Go (郷 通子)
-
Executive Director, Research Organization of Information and Systems, Japan
(Former President, Ochanomizu University)
大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 理事
(お茶の水女子大学 前学長) - Dr. Toshiaki Ikoma (生駒 俊明)
-
Executive Vice President, Canon Inc., Japan (Professor Emeritus, University of Tokyo)
キヤノン株式会社 取締役副社長・最高技術責任者 (東京大学名誉教授) - Dr. Biao Jiang (姜 標)
-
Director, Shanghai Institute of Organic Chemistry, Chinese Academy of Sciences, China
中国科学院 上海有機化学研究所 所長 - Dr. Paul Kienle
-
Professor Emeritus, Department of Physics, Munich University of Technology, Germany
(former Director, GSI Darmstadt)
ドイツ ミュンヘン工科大学 名誉教授 (ドイツ GSI元所長) - Dr. Karin Markides
-
President, Chalmers University of Technology, Sweden
スウェーデン チャルマース工科大学 学長 - Dr. Rainer E. Metternich <RAC会議欠席>
-
Vice President, Basic Research, and site head, West Point, Merck & Co., Inc., USA
米国 メルク研究所 副社長・基礎研究所長 - Dr. Hans L. R. Wigzell
-
Senior Strategic Advisor/Professor, MTC, Karolinska Institutet, Sweden
(former President, Karolinska Institutet)
スウェーデン カロリンスカ医科大学 特別教授 (同大学元学長) - Dr. Allan Bradley
-
Director, Wellcome Trust Sannger Institute, UK
英国 ウェルカムトラスト サンガー研究所 所長 - Dr. Max D. Cooper
-
Professor, Department of Pathology and Laboratory Medicine Emory University, USA
米国 エモリー大学 教授 - Dr. Hidetoshi Fukuyama (福山 秀敏)
-
Professor, Tokyo University of Science, Japan (Professor Emeritus, University of Tokyo)
東京理科大学 教授 (東京大学名誉教授) - Dr. Sydney Gales
-
Director, Grand Acceleraeur National D’lons Lourds, France
フランス 国立重イオン加速器研究所 所長 - Dr. Sten Grillner
-
Professor and Director Nobel Institute for Neurophysiology, Karolinska Institutet, Sweden
スウェーデン カロリンスカ医科大学 教授 - Dr. Wilhelm Gruissem
-
Professor, ETH Zurich, Institute of Plant Sciences, Switzerland
スイス連邦工科大学 教授 - Dr. Jean-Louis Guenét
-
Director, Unite de Genetique des Mammiferes, Institut Pasteur, France
フランス パスツール研究所 哺乳類遺伝学部門 部門長 - Dr. Jerome Hastings
-
Professor, Photon Science, SLAC National Accelerator Laboratory, USA
米国 SLAC国立加速器研究所 教授 - Dr. Bengt Långström
-
Professor, Uppsala University, Sweden
スウェーデン ウプサラ大学 教授 - Dr. Mark Lathrop
-
Director General, Center National de Genogypage, France
フランス 国立遺伝子センター センター長 - Dr. Austin Smith
-
MRC Professor and Director, Wellcome Trust Centre for Stem Cell Research University of Cambridge, UK
英国 ケンブリッジ大学 医学研究評議会(MRC) 教授、ウェルカムトラスト 幹細胞研究センター センター長