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2011年4月28日

独立行政法人理化学研究所
マックスプランク協会

理化学研究所と独・マックスプランク協会が連携研究センター設置、協定を締結

-システムズケミカルバイオロジーの世界的拠点を目指す-

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)とドイツ・マックスプランク協会(ペーター・グルス:Peter Gruss会長)は、化学を出発点にして生命現象の解明を目指すシステムズケミカルバイオロジー領域での連携強化のため、2011年4月27日、連携研究センターに関する協定を締結しました。

連携研究センターは、基幹研究所ケミカルバイオロジー研究領域(長田裕之領域長)が保有する理研天然化合物バンク「NPDepo (Natural Products Depository)」と、ドイツのドルトムントにあるマックスプランク分子生理学研究所 (ヘルベルト・ワルトマン:Herbert Waldmann所長)が保有する合成化合物バンク「BIOS (Biology Oriented Synthesis)ライブラリー」を融合し、天然と合成を合わせた世界有数の化合物バンクの連携を展開していきます。 また、基幹研究所システム糖鎖生物学研究グループ(谷口直之グループディレクター)と、ドイツのポツダムにあるマックスプランクコロイド表面研究所(ペーター・ジーバーガー:Peter Seeberger所長)を中心とした糖鎖合成・疾患糖鎖の研究でも連携を強化します。

両機関が、相互に補完的な最先端の技術・経験を持ち寄って緊密な連携を行うことを通じ、研究分野の垣根を越え、総合的に生命現象を解明することを目指します。また、若手研究者、大学院生などの人材交流を促進することで、次世代を担う研究者の育成にも注力していきます。

2011年は日独交流150周年、ならびにマックスプランク協会100周年という記念すべき年です。今後は、両国・両機関のさらなる文化・学術交流の深化にも貢献していきます。

経緯

1984年6月、理研とマックスプランク協会は包括的な協力協定を締結し、四半世紀を超える長期にわたり、物理・化学・生物をはじめとするさまざまな研究分野で交流を続けてきました。

協力協定締結から25周年を迎える2009年1月21~23日、物理科学・物質科学・生命科学の3分野において連携研究の促進を図るため、理研とマックスプランク協会は合同カンファレンス(於:マックスプランク協会本部)を開催しました(図1)。理研基幹研究所の長田裕之ケミカルバイオロジー研究領域長は、微生物産物を中心にした理研天然化合物バンク「NPDepo (Natural Products Depository)」を保有しています。一方、ケミカルバイオロジー研究を牽引する世界的にも著名なマックスプランク分子生理学研究所のヘルベルト・ワルトマン(Herbert Waldmann)所長は、生理活性を有する合成化合物を中心とした合成化合物バンク「BIOS (Biology Oriented Synthesis)ライブラリー」を保有しています。このカンファレンスでは、双方が連携することで、天然と合成を合わせた世界的にも貴重な化合物バンクを誕生させることができるだろうという結論に至りました。

2010年1月19日、理研の野依良治理事長、ならびに理研基幹研究所の玉尾皓平所長は、マックスプランク協会のペーター・グルス(Peter・Gruss)会長を訪問し、25周年を迎えた両機関の連携協力を、今後さらに発展させていくことを確認しました。また、化学を出発点として複雑な生命システムを解明することを目指す、システムズケミカルバイオロジー研究領域での研究協力に関する覚書を締結し(図2)、連携研究センター設置を視野に入れて、研究者・大学院生の相互交流を含めた連携研究を開始しました。この覚書締結を受け、2010年2月には、理研―マックスプランク連携研究チームを発足させました。

その後、連携研究センター設置に関する議論を継続する中で、糖鎖の自動合成に強みがあるマックスプランクコロイド表面研究所のペーター・ジーバーガー(Peter Seeberger)所長と、糖鎖疾患に関して先駆的な業績を上げている理研基幹研究所糖鎖生物学研究グループの谷口直之グループディレクターが連携することで、世界が注目する糖鎖研究でも飛躍的な発展が可能になることが明らかになりました。さらに、これら化合物バンクと糖鎖研究の連携協力は、独立して行うよりも相互に協力・情報共有するほうが相乗効果を期待できることから、この2組の協力を包含する形で連携研究センターの枠組みを構築することにしました。

2011年3月1日には、連携研究センターに関する協定内容が双方で大筋合意に至り、本格的に連携研究をスタートさせました。理研ケミカルバイオロジー研究領域内にこの連携研究センターを設置し、長田領域長が連携研究センターのセンター長とバイオプローブ応用チームのチームリーダーを兼務、谷口グループディレクターが疾患糖鎖プローブチームのチームリーダーを兼務することで、連携研究を推進していきます。また、2011年4月27日に、連携研究センターに関する協定を正式に締結しました。協定の期間は、2011年3月1日から6年間です。

連携研究センターの活動と今後の期待

連携研究センターでは、研究試料の相互交換に加え、若手研究者や大学院生の相互交流を促進していきます。さらに、それぞれが保有する化合物ライブラリー、糖鎖自動合成技術などを共有することにより、システムズケミカルバイオロジー研究に必要となる技術のプラットフォームを構築し、化学を出発点とする生命現象の解明を目指します。また、合同シンポジウムを日独で毎年交互開催することで、より深い議論を可能にし、緊密に連携研究を展開していきます。この連携研究センターを、2組の連携に閉じず有機的に展開していくことで、将来、日独を発信源とする新しい科学技術の創成を目指します。

連携研究センター設置コメント

グルス会長:理研―マックスプランク連携研究センターの設置は、両機関の25年間にも及ぶ強固な連携関係を、さらに高い新しいレベルへと導くものと考えています。また、深い信頼関係に結ばれ、研究面でも卓越した日本の理化学研究所と共に歩めることを嬉しく思います。システムズバイオロジー研究での連携において、双方が長所を持ち寄ることで両機関に成功と繁栄がもたらされることを期待しています。(原文英語。)

野依理事長:この度、世界的にも著名であるマックスプランク協会と、連携研究センターという枠組みで協定締結に至り大変光栄に思います。また、日独交流150周年となる記念すべきこの年に、両国・両機関が手を携え、新たな一歩を共に踏み出せることはこの上ない喜びです。未曾有の震災に見舞われた現在、復興に向けて社会全体が力を合わせることはもちろんですが、科学技術の進展が阻害されることは避けなければなりません。本連携が、科学技術の進展・国際協力の促進・次世代の研究者育成に貢献できることを期待しております。

玉尾基幹研所長:基幹研究所は、ケミカルバイオロジー研究領域を設置し、当該研究分野で世界を牽引してきました。しかし、生命現象の解明のためには、更なる躍進が求められており、連携、特に国際連携は欠かせない要素になっております。理研-マックスプランク連携研究センターでは、研究者の交流、情報交換を通した研究活動を展開します。基幹研究所の分野を越え、組織を越え、国を越えた活動の機軸と位置付けており、それらの相乗効果によってシステムズケミカルバイオロジー研究領域のさらなる発展に寄与し、ライフイノベーションの実現につながることを大いに期待しています。

ワルトマン博士:理研―マックスプランク連携研究センターは、マックスプランク協会と理研との新しい形の連携です。それぞれが独自に持つ最先端の専門知識や経験を持ち寄り融合することで、システムズケミカルバイオロジー領域に新たな発見を創出するとともに、1つの研究機関だけでは決して得られない価値を双方の研究者にもたらすことでしょう。私たちのグループは、ケモインフォマティックスという手法を用いた天然化合物の構造解析、天然化合物をモチーフとする合成化合物のライブラリー構築、このライブラリーを利用した生化学的な分析や表現型解析、標的分子の同定といった研究に力を注いでいます。マックスプランクと理研の異なる専門性とアプローチを組み合わせ、世界トップクラスのケミカルバイオロジー研究を目指します。(原文英語、和訳編集済み。)

ジーバーガー博士:ドイツではノーベル化学賞を受賞したフィッシャー博士による六炭糖の構造解明、日本では天然化合物の抽出をはじめとした糖鎖科学というように、日独両国には糖鎖研究に関する輝かしい伝統があります。また、理研では小川智也博士(現:理研和光研究所長)のグループによる糖鎖合成、谷口直之博士の疾患糖鎖研究など世界的に卓越した成果が生まれています。しかし、糖鎖研究はまだ未解明な部分が多く、新たな解析ツールが求められています。理研―マックスプランク連携研究センターでは、科学、生物、医科学など分野を超えた専門家が相互に交流することで、革新的な進歩をもたらしたいと考えています。私たちのグループは、糖鎖の自動合成系を提供し、糖鎖の構造・機能解明に貢献したいと考えています。また、谷口グループと協力し、糖鎖免疫学やナノテクノロジーなどにも展開したいと思います。本連携では、人的交流を促進し、互いに切磋琢磨していきたいと考えています。(原文英語、和訳編集済み。)

長田連携研究センター長:私たちのチームは、天然化合物の単離、同定、解析、修飾に強みを持ち、これまでに理研天然化合物バンク(NPDepo)を設立してきました。また、タンパク質と小分子の相互作用を解析するため、2D-DIGEのプロテオミクス技術の導入を進めてきました。ヘルベルト・ワルトマン博士は合成化合物が専門であり、彼の研究チームの「BIOS (Biology Oriented Synthesis)ライブラリー」と連携することで、世界トップクラスの化合物バンクが誕生します。今後、連携研究を通じて、有用な生理活性を有する化合物を同定することも目指しますが、大学院生を含む若手研究者が大いに活躍できるような育成の場も提供していきたいと考えております。

谷口チームリーダー:私たちのチームは、融合的な研究を目指しケミカルバイオロジー領域として研究を続けています。糖鎖の自動化学合成を実用化させた唯一のグループであり、世界をリードする研究者であるペーター・ジーバーガー博士との連携研究では、お互いの研究能力を補完するだけでなく、疾患糖鎖プローブの開発を目指し、新たな研究領域を切り開いていきたいと思います。幸い私たちのグループには新進気鋭の若手研究者がそろっていますので、人材育成を通じて研究を大いに飛躍させたいと考えています。

各機関概要

(1)独立行政法人理化学研究所

独立行政法人理化学研究所は、科学技術(人文科学のみに係るものを除く)に関する試験及び研究などの業務を総合的に行うことにより、科学技術の水準の向上を図ることを目的とし、日本で唯一の自然科学の総合研究所として物理学、工学、化学、生物学、医科学などにおよぶ広い分野で研究を進めている。研究成果を社会に普及させるため、大学や企業との連携による共同研究、受託研究等を実施しているほか、知的財産権の産業界への技術移転を積極的に進めている。

(2)マックスプランク協会

世界トップレベルの基礎研究を推進するドイツの研究機関。80の研究所・研究設備をドイツ国内に有し、4つの研究所と1つの研究施設をドイツ国外に有する。4,889名の研究者、7,051名の若手研究者・訪問研究者を含め、総勢20,435名からなる(2009年1月1日現在)。マックスプランク協会は1948年の設立であるが、その前身であるカイザー・ヴィルヘルム協会は1911年に設立されており、今年は設立100周年を迎えた。100年の歴史の中で、32名のノーベル賞受賞者を輩出している。

お問い合わせ先

独立行政法人理化学研究所 基幹研究所 理研―マックスプランク連携研究センター バイオプローブ応用チーム
長田 裕之(おさだ ひろゆき)
Tel: 048-467-9541 / Fax: 048-462-4669

疾患糖鎖プローブチーム
谷口 直之(たにぐち なおゆき)
Tel: 048-467-8094 / Fax: 048-467-8104

連携研究部門
前田 倫広(まえだ のりひろ)
Tel: 048-467-9449 / Fax: 048-465-8048

報道担当

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

合同カンファレンス会場の様子

図1 合同カンファレンス(2009年1月21~23日)

覚書調印式での写真

図2 連携研究センター設置に向けた研究協力に関する覚書調印式(2010年1月19日)
左:野依良治理事長、中:ペーター・グルス会長、右:玉尾皓平所長

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