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2022年4月22日

理化学研究所

超伝導リングサイクロトロン、ギネス世界記録™に登録

理化学研究所(理研)仁科加速器科学研究センター(埼玉県和光市)の重イオン加速器施設「RIビームファクトリー」(RIBF)[1]にある超伝導リングサイクロトロン(SRC)[2]が2022年4月11日にギネス世界記録™[3]に登録されました。記録名は、「ビームエネルギー最大値のサイクロトロン(Highest beam energy cyclotron)」です。これは、開発、設計、製作、運転を通じてSRC及びRIBFに携わってきた全ての方々の成果です。1937年に仁科芳雄博士が日本で初めてのサイクロトロンを完成させて以来、脈々と築き上げられてきたサイクロトロンの技術の集大成がSRCであると言えます。今年はサイクロトロンが発明されてから90年の節目の年[4]でもあります。

超伝導リングサイクロトロンの写真 「ビームエネルギー最大値のサイクロトロン」として認められたSRC
公式認定証を手にする櫻井博儀センター長と奥野広樹副部長の写真 公式認定証を手にする櫻井博儀センター長(右)と奥野広樹副部長(左)

SRCを最終段加速器として据えるRIBF計画は、1995年から始まり、2006年12月28日にSRCからファーストビームが得られ注1)、2007年3月に世界最高エネルギーに達しました。その後、さまざまな装置や運転技術の改良がなされ、ウランなどの特に重い元素イオンのビーム強度を1,000倍以上増やし、2020年に当初の目標である毎秒6x1011個を超えることに成功しました。また、こうした大強度の重イオンビームを用いて、「150種を超える新同位体の発見」注2)、「r過程[5]の解明につながる不安定核データ収集」注3)、「魔法数の異常[6]の発見」注4)等、数多くの研究成果が世に出されました。SRCは、その技術的困難さから実現不可能と考えられてきたため「幻のサイクロトロン」と呼ばれてきましたが、それが理研に実在していること、そしてこれは理研の技術者・研究者によるたゆまぬ研究開発と革新的な設計を基に日本の技術力を結集した成果であることを広く知っていただきたいという想いから、ギネス世界記録™に申請し、この度登録が認められました。

記録申請にあたってはSRCから取り出されたビームを精密に測る実験を、超伝導RIビーム分離生成装置(BigRIPS)[7]の運転・維持管理・高度化等を行うチームの協力を得て、本申請に対して中立的な立場の専門家2名の立会いのもとで実施しました。最終的に得られた値は82,400MeVです。記録の要件として、1回のみの達成では不十分で、サイクロトロンとして完全に機能していることという要件がありました。SRCが15年近く世界最大強度のビームを実験に安定供給してきたことを証明するため、査読付き論文及びその論文リストを申請に添付しました。

SRCが世界一の可能性がある点は、他にも重さや大きさ注5)などが挙げられます。今回、「ビームエネルギー最大値のサイクロトロン」という記録名を採用した理由は、SRCのみならず、重イオン加速器施設全体の総合力を表す記録と判断したためです。今後もビーム強度の高度化や老朽化対策を行い、SRCの最高性能を活かして広く科学技術の進展に貢献していきます。

補足説明

  • 1.RIビームファクトリー(RIBF)
    理研が所有する重イオン加速器施設で、水素からウランに至る全ての元素の放射性同位元素(RI)をビームとして供給する。RIビーム発生施設と独創的な基幹実験設備群で構成される。RIビーム発生施設は2基の線形加速器、5基のサイクロトロンと超伝導RIビーム分離生成装置(BigRIPS)からなる。これまで生成不可能だったRIも生成することができ、世界最多となる約4,000個のRIを生成する。
  • 2.超伝導リングサイクロトロン(SRC)
    サイクロトロンの心臓部に当たる電磁石に超伝導を導入し、高い磁場を発生できる世界初のリングサイクロトロン。全体を純鉄のシールドで覆い、磁場の漏洩を防ぐ自己漏洩磁気遮断の機能を持っている。総重量は8,300トン。RIBFの最終段階加速器で、ここを通過すると光速の70%までビームを加速できる。また、サイクロトロンに必要な磁場を超伝導コイルで発生させることにより、従来の方法に比べ100分の1の電力で動かせるようになり、大幅な省エネも実現した。
  • 3.ギネス世界記録™
    ギネスワールドレコーズ(英国本社)による、世界一の功績を記録し、その功績を称える取り組み。60年以上の歴史を持ち、あらゆる世界記録を登録している。英国、米国、中国、日本、UAEのオフィスを拠点に、公式認定員とともに記録の認定が行われている。
  • 4.サイクロトロンが発明されてから90年目の節目の年
    粒子を渦巻き状に走らせて加速する円形加速器「サイクロトロン」を発明したのは、米国の物理学者のアーネスト・0・ローレンスであり、1932年に発明されている。
  • 5.r過程
    超新星爆発時に起きると考えられている元素合成過程のモデル。高速(rapid)に連続して中性子を捕獲しながら崩壊(β崩壊)するため、「r過程」と呼ばれる。鉄以上の重元素のほぼ半分は、このr過程で生成される。重元素を生成するもう一方のs(slow:低速)過程は、赤色巨星への進化段階でゆっくりした中性子捕獲によって元素合成が行われる。s過程に比べ、r過程は未解明な部分が多い。このr過程が起きる場所の候補として、中性子星同士の融合も提案されている。
  • 6.魔法数の異常
    原子核は原子と同様に殻構造を持ち、陽子または中性子がある決まった数のとき閉殻構造となり安定化する。この数を魔法数と呼び、2、8、20、28、50、82、126が古くから知られている。1949年にマリア・ゲッパート=メイヤーとヨハネス・ハンス・イェンゼンが、大きなスピン-軌道相互作用を導入することによって魔法数を説明し、1963年にノーベル賞を受賞した。その後、理研での研究において、中性子過剰な原子核により、メイヤー・イェンゼンの魔法数20、28が消失し、新たな魔法数16、34が出現することが報告されている。
  • 7.超伝導RIビーム分離生成装置(BigRIPS)
    SRCで加速された高エネルギーの重イオンビームを生成標的中の安定核に衝突させることで、破砕および分裂させ、そこで得られる高エネルギーの破砕片と分裂片核種(RIビーム)を大口径収集システムによって高効率で集めることの出来るビームラインである。主に大口径の超伝導四重極磁石と双極電磁石から成る。

発表者

理化学研究所 仁科加速器科学研究センター 加速器基盤研究部
副部長 奥野 広樹(おくの ひろき)

機関窓口

理化学研究所 広報室 報道担当
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