2025年7月28日
理化学研究所
AI for Science開発用スーパーコンピュータのシステムが決定
-スーパーコンピュータ「富岳」との連携による世界トップレベルのAI for Science開発用の計算環境の構築へ-
理化学研究所(理研)最先端研究プラットフォーム連携(TRIP)事業[1]本部 科学研究基盤モデル開発プログラム(AGIS)[2]計算基盤開拓プロジェクトにおいて、科学研究用に最適化したAI for Science[3]開発用スーパーコンピュータのシステムが決定しました。
今回決定したシステムは、8EFLOPS(エクサフロップス)[4]以上のAI性能などの当初計画を十分に達成するものであり、このシステムとスーパーコンピュータ「富岳」[5](以下、「富岳」)や量子コンピュータなどを連携させることで、複雑な科学研究に対応できる世界有数の科学研究基盤モデルの開発・活用が可能な計算環境が整い、日本の科学研究の革新に貢献することが期待されます。なお本システムは、理研計算科学研究センターが整備を担当し、2026年度冒頭から本格運用を開始する予定です。
日本の科学技術・イノベーションが世界をリードし、社会や産業を発展させるためには、これまでのスーパーコンピュータで追求してきたシミュレーション性能だけではなく、シミュレーションとAIの両者において世界最高水準の性能を達成し、さらにシミュレーションとAIとが密に連携して処理を行いつつ、科学上の仮説生成や実証を含む科学(Science)を自動化・高度化する「AI for Science」のための新たな計算基盤の実現が欠かせません。
AI for Science開発用スーパーコンピュータを含む世界有数のAI・シミュレーション・量子の計算環境が構築されることにより、AGISプログラムにおける科学研究基盤モデルの開発が加速し、科学研究の革新(科学研究サイクルの飛躍的加速および科学研究の探索空間の拡大)につながるとともに、理研全体の研究活動、ひいては日本のAI for Scienceの発展に寄与することが期待されます。また、2024年4月に締結したMOU注)に基づく、米国エネルギー省(DOE)のAI for Scienceプロジェクトの中心機関であるアルゴンヌ国立研究所との協力の発展・加速も期待されます。
- 注)2024年4月11日プレスリリース「理研とアルゴンヌ国立研究所がAI for Scienceに関する覚書を締結」
「AI for Science開発用スーパーコンピュータ」のシステム概要
今回導入する「AI for Science開発用スーパーコンピュータ」は、NVIDIA社製Grace Blackwellスーパーチップで構成された計算ノード400台(GPU 1,600基)以上から構成され、同じくNVIDIA社製InfiniBand XDRを用いてノード間を最大3.2テラビット毎秒(Tbpsは1千兆ビット/秒)の速度で接続します。AI for Science開発用スーパーコンピュータは、倍精度浮動小数点演算(FP64)において64.16PFLOPS(ペタ(1千兆)フロップス)以上、8ビット浮動小数点数演算(FP8)において15.539EFLOPS以上の性能を有します。
「富岳」と性能比較した場合、FP64演算性能においては、8分の1倍ほど(「富岳」は約537PFLOPS)にとどまりますが、学習・推論において重要な演算性能の指標となるFP8演算性能は「富岳」の約7.23倍(「富岳」で代替可能な半精度浮動小数点演算性能は約2.15EFLOPS)です。FP64演算を得意とする「富岳」と協調することで、「富岳」単体では難しいAIとScienceを融合する高度な科学研究基盤モデルの開発・活用に大きく貢献することが期待されます。
なお、本システムは理研計算科学研究センターのAI for Science 開発用スーパーコンピュータの要求仕様に基づき、富士通株式会社がシステム全体の設計・構築を行い、理研計算科学研究センターが運用を行います。特に、本システムの計算ノードにはNVIDIA社製の最新の統合型 CPU-GPU である「GB200スーパーチップ」が搭載されたSuper Micro社製の温水冷却サーバが採用され、科学技術用AIに必要な高性能と高いエネルギー効率を同時に達成します。
今後の予定
2025年度中に本システムの構築を進め、「富岳」と本システムを連携させた世界トップレベルのAI for Science開発用の計算環境について、2026年度冒頭の本格運用開始を目指します。
補足説明
- 1.最先端研究プラットフォーム連携(TRIP)事業
理研の各学術領域における卓越した研究者が持つ知識やアイデア、および理研の強みである最先端研究プラットフォーム群を有機的に連携させ、「つなぐ科学」を推進するプロジェクト。幅広い分野の研究者が、既存の研究分野を超えた「新しい知恵」を生み出し、学理の再構築・再体系化を促すとともに、地球規模課題の解決策を提案し、国際社会に貢献することを目指す。TRIPはTransformative Research Innovation Platform of RIKEN platformsの略。
TRIP事業本部ウェブサイト - 2.科学研究基盤モデル開発プログラム(AGIS)
理研内の特定科学分野の研究能力を最大限活用するとともに、これらに関係する分野に強みを有する研究機関とも連携し、大規模言語モデルなどの汎用的な基盤モデルを活用しつつ、科学研究データを系統的に学習させ各分野における科学研究向け基盤モデルを開発していくプログラム。また、基盤モデルを活用し、実験自動化技術・シミュレーション技術と組み合わせることで、科学研究の自動化を推進している。開発した科学研究基盤モデルとその利用技術を産学に広く開放することで、多様な分野における科学研究の革新(科学研究サイクルの飛躍的加速、科学研究の探索空間の拡大)を目指す。AGISは、Advanced General Intelligence for Science Programの略。 - 3.AI for Science
AIとシミュレーション、多様なデータを組み合わせるなどして、科学技術にAIを活用し、研究プロセスを大きく加速させる取り組み。これにより、さまざまな分野で画期的な科学技術イノベーションをもたらすことが期待される。理研では、AI for Scienceを推進するため、AIを活用したさまざまなシミュレーションなどの研究に取り組むとともに、ライフサイエンスや物質・材料科学などの科学研究のための基盤モデルの開発・活用を行うAGISプログラムを2024年度に開始した。 - 4.EFLOPS(エクサフロップス)
フロップスはコンピュータの処理能力の単位で、1秒間に浮動小数点数演算を何回できるかという能力のこと。エクサは100京(10の18乗)。 - 5.スーパーコンピュータ「富岳」
スーパーコンピュータ「京」の後継機。2020年代に、社会的・科学的課題の解決で日本の成長に貢献し、世界をリードする成果を生み出すことを目的とし、電力性能、計算性能、ユーザーの利便性・使い勝手の良さ、画期的な成果創出、ビッグデータやAIの加速機能の総合力において世界最高レベルのスーパーコンピュータとして2021年3月に共用が開始された。現在「富岳」は日本が目指すSociety 5.0を実現するために不可欠なハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)インフラとして活用されている。
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理化学研究所 計算科学研究推進部 アウトリーチグループ
Email: r-ccs-koho@ml.riken.jp
理化学研究所 広報部 報道担当
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