今年2025年は、量子力学理論の誕生から100周年を迎える節目の年であり、ユネスコはこれを記念して「国際量子科学技術年」と定めています。この意義深い年に、「電気回路におけるマクロなトンネル効果とエネルギー量子化の発見」により、John Clarke氏、Michel H. Devoret氏、John M. Martinis氏の3名がノーベル物理学賞を受賞されたことを、心より喜ばしく思います。
今回の受賞対象となった研究成果は、量子の世界ならではの効果を巨視的なスケールで実証することに初めて成功したものです。また、現在急速に進展している超伝導量子コンピュータの研究開発の源流であり、基盤となるものです。
理化学研究所では、2021年4月に量子コンピュータ研究センター(RQC)を設立し、2023年3月には国産超伝導量子コンピュータ初号機「叡(えい)」を公開、クラウドサービスの提供を開始しました。現在、RQCでは超伝導方式に限らず、さまざまなアプローチによって量子コンピュータの基礎研究及び実機開発と性能向上に取り組み、計算可能領域の拡張を図るとともに、国内外の大学・研究機関・企業との連携を通じて、先駆的なイノベーションの創出を目指しています。
量子コンピュータの探求は、最先端科学の粋を集めるものであり、さまざまな分野における技術開発の要となるものです。大規模な量子ビット集積システムを信頼性高く制御する量子コンピュータの実現には、依然として多くの技術的課題が残されていますが、さらなる挑戦的な実験や理論研究の推進に向けて、大いに勇気づけられるところです。