このたび、京都大学 理事・副学長の北川 進 博士が2025年ノーベル化学賞を受賞されましたことを、心よりお祝い申し上げます。
北川博士は、金属と有機分子を組み合わせて構築される「金属有機構造体(MOF: Metal–Organic Frameworks)」と呼ばれる新しい多孔性材料を創出されました。これらの材料は無数の微細な孔を持ち、外部からの圧力、温度、光などの刺激に応じて構造を柔軟に変化させることができます。この画期的な発見は、エネルギー、環境、さらには医療といった幅広い分野で、持続可能な社会の実現に大きく貢献するものとして世界的に高く評価されています。
北川博士は、理化学研究所(理研)の大型放射光施設「SPring-8(スプリング・エイト)」の稼働初期である2002年から積極的に施設を活用されました。開発した多孔性材料が実際に気体分子を取り込んでいることを、放射光を用いて世界で初めて実証されたことは特筆すべき成果です。北川博士はその後も、SPring-8のユーザーとして多数の先駆的な研究を推進されるとともに、放射光計測技術の高度化と応用拡大にも大きく貢献されました。
また、2007年から12年間にわたり、放射光科学研究センターのチームリーダーおよび客員主管研究員として、放射光を活用した新しい計測手法の開発と普及に尽力されました。北川博士の活動は、SPring-8を拠点とする多様な分野の研究を大きく前進させ、その成果は今もなお多くの研究者に刺激を与え続けています。
理研では現在、SPring-8の性能を従来の100倍以上に高めるアップグレード計画SPring-8-Ⅱプロジェクトを進めています。約1年間の運転停止期間を経て、2029年には次世代放射光施設として再稼働する予定です。これにより、より高精度かつ迅速な測定が可能となり、さらに多くの研究者や産業界の皆さまにご利用いただける共用基盤となることを目指しています。
改めまして、北川 進 博士のご受賞に心からお祝いを申し上げます。博士が切り拓かれた大型放射光施設を活用する研究の道をさらに発展させ、理研としても、地球規模の課題解決と我が国の科学技術のさらなる発展に一層貢献してまいります。