2025年11月18日
理化学研究所
DTS
ScaleWorX
Giga Computing
量子HPC連携プラットフォーム向けのシステムが決定
-量子コンピューティングと高性能計算(HPC)の連携を加速-
理化学研究所(理研)計算科学研究センター 量子HPC連携プラットフォーム部門(部門長:佐藤 三久)は、量子コンピューティングと高性能計算(HPC)の連携を加速するため、「量子HPC連携プラットフォーム向けスーパーコンピュータ」のシステム構成を決定しました。
今回導入されるスーパーコンピュータは、神戸市の理研計算科学研究センターに設置され、日本を代表するスーパーコンピュータ「富岳」[1]をはじめとするスーパーコンピュータや量子コンピュータと、SQC Interface[2]を介して接続されます。これにより、スーパーコンピュータ上で量子計算を模擬し、アルゴリズム開発や性能評価を行うためのシミュレーション環境として活用するとともに、量子コンピュータとHPCを統合的に活用したアプリケーション開発が可能になります。
このスーパーコンピュータの新システムは、NVIDIA Grace Blackwellプラットフォーム「GB200 NVL4[3]」を搭載した計算ノード135台(Blackwell GPU計540基)で構成され、ノード間はNVIDIA Quantum-X800 InfiniBand ネットワーキング[4]により最大3.2テラビット毎秒(Tbps:T(テラ)は1兆)の高速通信が可能です。温水冷却サーバ[5]を採用することで、高性能と高エネルギー効率を両立しています。
演算性能は、倍精度浮動小数点演算(FP64)[6]で21ペタフロップス(PFLOPS:P(ペタ)は1千兆)以上、8ビット浮動小数点演算(FP8)[7]では5エクサフロップス(EFLOPS:E(エクサ)は100京)以上を誇り、世界有数の計算能力を提供します。
「富岳」との連携により、量子HPC連携プラットフォームの構築をさらに加速させるとともに、「富岳」単体では対応が難しい高度な計算ニーズにも柔軟に対応することが可能となります。
本システムは、理研計算科学研究センターの要求仕様に基づき、株式会社DTSを中心に構築されます。NVIDIA社がアクセラレーテッド コンピューティングおよびネットワーキングを備えたシステムを提供し、Giga Computing Technology社が計算ノードの設計・製造を担当、DataDirect Networks社が高速ファイルシステムを提供します。これらの構成要素を基に、株式会社ScaleWorXが全体のシステムインテグレーションを担います。
本スーパーコンピュータの導入は、経済産業省所管のNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が委託したプロジェクト「ポスト5G情報通信システム基盤強化開発事業/計算可能領域の開拓のための量子・スパコン連携プラットフォームの研究開発」注1)の一環として実施されます。
本プロジェクトでは、「富岳」をはじめとする複数のスーパーコンピュータと、IBM社製の超伝導型量子コンピュータIBM Quantum System Two[8]「ibm_kobe」やQuantinuum社製のイオントラップ型量子コンピュータ「黎明」[9]などを、高速ネットワークで密に連携させることで、従来のHPC単体では実現が困難だった新たな計算領域の開拓を目指します。
本システムは、2025年度中に構築を完了し、すでに導入済みの「ibm_kobe」および「黎明」、「富岳」との連携を通じて、世界トップレベルの量子HPC連携プラットフォームの運用を開始する予定です。
- 注1)2023年11月22日のお知らせ「量子コンピュータとスパコンを連携利用するためのプラットフォーム研究開発プロジェクトを始動」
代表者からのコメント
理研 計算科学研究センター 量子HPC連携プラットフォーム部門 部門長 佐藤 三久
導入されるNVIDIA GPUシステムにより、量子ソフトウエアの開発に重要な量子コンピュータのシミュレーション環境を充実化することができるだけでなく、「富岳」に加え量子HPCハイブリッドコンピューティングを支える計算資源の拡大と量子機械学習など量子コンピュータとGPUを組み合わせて行う、量子HPC連携による新しいアプリケーション分野の開拓が期待されます。
株式会社DTS 上席執行役員 谷 博
この度、DTS、グループ会社のデジタルテクノロジーを中心とした各分野のプロフェッショナルチームを選定いただいたことに、まずは感謝いたします。我々としてもこのような国家的なプロジェクトに参加できることをとても誇らしく感じています。DTSは、こうした世界最先端の機器から、ビジネス、社会インフラを担うITシステム、さらには生成AIを活用した次世代ITまで、さまざまなお客様のご要望に寄り添えるパートナーとしてご評価いただいています。今回のプロジェクトでも、各フェーズでの高い専門性を生かし、チーム一丸となって取り組む所存でございます。
株式会社ScaleWorX 代表取締役社長兼CEO 山田 昌彦
ScaleWorXは、急成長するHPC/AI市場において、世界最先端のテクノロジーを駆使したトータルソリューションを、タイムリーかつ柔軟に提供する「新時代のプラットフォームカンパニー」を目指しています。
今回ご採用いただいたシステムでは、NVIDIA社製の最新プラットフォーム、超高速ノード間ネットワーク、さらには温水冷却技術など、世界最高峰の技術を結集し、飛躍的な高性能・高効率を実現します。
「富岳」に象徴される計算科学研究で世界を牽引する理化学研究所計算科学研究センター様の下で、革新的な科学研究プラットフォームの開発に参画できることは、当社にとって大きな誇りであり、さらなる成長に向けた原動力になると確信しています。安定的なシステム稼働に向けて、全力を尽くします。
Giga Computing Technology ゼネラルマネージャー ダニエル・ホウ
Giga Computing Technologyが有する、ハイパフォーマンス・システムにおける設計から製造に渡る幅広い専門的知見、またNVIDIA社との緊密な連携がもたらす市場への迅速な製品投入を通して、日本での研究分野における世界レベルの継続的な進歩に貢献するものと信じております。次世代コンピューティングの特徴であるパフォーマンス・効率性・持続可能性を通じて、科学的発見を支援することこそが我々の真の目標なのです。
NVIDIA インダストリアル エンジニアリングおよび量子担当 ゼネラルマネージャー ティム・コスタ
量子プロセッサと古典プロセッサの統合は、コンピューティングの可能性の境界を再定義します。NVIDIA Grace Blackwellを搭載した理化学研究所のプラットフォームは、将来の実用的な量子アプリケーションに向けた重要な一歩となる量子‐GPUスーパーコンピューティング システムを実現しています。
補足説明
- 1.スーパーコンピュータ「富岳」
理化学研究所と富士通が共同開発した日本のスーパーコンピュータ。2020年に世界ランキングで1位を獲得。2020年代に、社会的・科学的課題の解決で日本の成長に貢献し、世界をリードする成果を生み出すことを目的とし、電力性能、計算性能、ユーザーの利便性・使い勝手の良さ、画期的な成果創出、ビッグデータやAIの加速機能の総合力において世界最高レベルのスーパーコンピュータとして2021年3月に共用が開始された。現在「富岳」は日本が目指すSociety 5.0を実現するために不可欠なHPCインフラとして活用されている。 - 2.SQC Interface
JHPC Quantumプロジェクトで開発した、量子コンピュータとHPCを直接接続し、データのやり取りやジョブ制御を可能にするAPI(Application Programming Interface)。 - 3.GB200 NVL
NVIDIA社の最新Grace Blackwellプラットフォームで、AIおよびHPC向けに設計されている。 - 4.NVIDIA Quantum-X800 InfiniBand ネットワーキング
NVIDIA社が提供する高速ネットワーク技術で、ポートあたり最大800ギガバイト毎秒(Gbps:G(ギガ)は10億倍)の通信速度を実現。HPCクラスタ内の低遅延通信を可能にする。 - 5.温水冷却サーバ
スーパーコンピュータを動かすためには、計算で発生する熱を冷却する仕組みが必要となり、通常、この冷却には「圧縮機(コンプレッサー)」を使った冷却装置が使われるが、圧縮機は大量の電力を消費するため、今回の仕組みでは、温水を使って冷却するという工夫をしている。具体的には、外気を利用する「フリークーリング」という技術を使い、冷却塔だけで水を冷やす。圧縮機を使わないため、冷却に必要なエネルギーを大幅に減らすことが可能。スーパーコンピュータ「富岳」では約10℃の冷却水を使用するが、この新しいスーパーコンピュータでは、神戸で真夏でも自然の力のみで冷却可能な温度である32℃の水を冷却水として使用。これにより、冷却塔だけで十分冷却できるため、同じ規模のスーパーコンピュータと比べて全体の電力を約20%削減できる。 - 6.倍精度浮動小数点演算(FP64)
64ビットの浮動小数点数を用いた演算方式で、科学技術計算など高精度が求められる用途に使用される。 - 7.8ビット浮動小数点演算(FP8)
AIや機械学習などで利用される低精度の演算方式。高速かつ省電力での処理が可能。 - 8.IBM Quantum System Two 「ibm_kobe」
IBMが開発する次世代の超伝導型量子コンピュータ。高いスケーラビリティ(拡張可能性)と安定性を特徴とする。このうち「ibm_kobe」は理研計算科学研究センターに設置され、直接「富岳」および本スーパーコンピュータと接続される。 - 9.イオントラップ型量子コンピュータ「黎明」
イオントラップ方式を採用した量子コンピュータ。高精度な量子ゲート操作が可能。
研究支援
本プロジェクトは、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業(JPNP20017)」の委託事業「計算可能領域の開拓のための量子・スパコン連携プラットフォームの研究開発(研究代表者:佐藤三久)」による助成を受けて行われています。
お問い合わせ・機関窓口
理化学研究所 計算科学研究推進部 アウトリーチグループ
Email: r-ccs-koho@ml.riken.jp
