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2010年6月8日

独立行政法人 理化学研究所

RIビームファクトリーで45種の新放射性同位元素を初めて発見

-次世代RIビーム生成施設を用いた不安定原子核研究の新領域拡大へ第一歩-

ポイント

  • 世界の年間新同位元素発見数(平均約40種)以上となる45種を4日間で達成
  • ウランビーム強度を50倍、RIビーム生成装置の収集・同定の工夫・向上などで実現
  • パラジウム-128などを利用した魔法数82の研究や元素合成過程研究への第一歩

要旨

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、世界に冠絶する能力を持ったRIビームファクトリー(RIBF)※1で、マンガン(元素番号25)からバリウム(元素番号56)に至る、45種もの中性子過剰な新放射性同位元素(RI)※2をわずか4日間の実験で生成、発見することに世界で初めて成功しました。発見した新同位元素数は、世界の年間新同位元素発見数の平均値(約40種)以上に相当する膨大な量で、元素の合成や中性子過剰原子核をめぐる長年の謎を解明する新たな糸口を見つけたことになります。これは、理研仁科加速器研究センター(延與秀人センター長)実験装置運転・維持管理室(久保敏幸室長)が率いる国際共同研究※3による成果です。

新RIは、ウラン-238(元素番号92、質量数238)を超伝導リングサイクロトロン(SRC)で光速の70%(核子当り3.45億電子ボルト)まで加速後、標的のベリリウムや鉛の原子核に衝突させて引き起こされる飛行核分裂反応※4を利用して生成しました。さらに、生成したRIを超伝導RIビーム分離生成装置(BigRIPS)で収集・分析し、中性子過剰な新RIを同定しました。研究グループは2007年に新RIを2つ発見していますが、ウランビームの強度(毎秒あたりの個数)を当時の約50倍まで向上させ、世界最高水準を達成したことから、再び新RIの発見に挑みました。BigRIPSでは、分離や収集の設定を工夫し、新RIの探索範囲を拡大して効率よく探索を行うとともに、同定能力や分析法の向上により低バックグランドで希少な事象の測定を可能にしました。これら加速器系での高度化とBigRIPSでのさまざまな工夫と向上の結果、約4日間の測定時間で多くの新RIを効率よく生成・発見することができました。

今回発見した新RIの中でも、特にパラジウム-128(元素番号46、質量数128)は、中性子数が82の魔法数※5を持ったRIで、魔法数の喪失現象が期待されるとともに、宇宙における鉄からウランに至る元素合成過程の研究でも注目されている原子核です。今後のビーム強度の増強とこれらの研究に必要な実験装置を整備、拡充していくことにより、「新たな原子核モデルの構築」や「元素の起源の解明」といった原子核物理の根源的な研究が着実に展開していくことが期待されます。

本研究成果は、日本国の科学雑誌『Journal of the Physical Society of Japan』(Vol.79 No.7)に掲載予定です。

背景

原子核は陽子と中性子で構成され、その性質は陽子数と中性子数で決まります。地球上には、金、鉄など天然に存在する安定な原子核が約300個存在しますが、理論的には10,000個の原子核が存在するといわれ、そのほとんどが放射線同位元素(RI)と呼ばれる不安定な原子核です。安定な原子核より中性子の数が少ない原子核を陽子過剰核、中性子の多い原子核を中性子過剰核と呼び、原子核を陽子数と中性子数で分類した核図表(図1)中で、陽子過剰核は安定核の左側に、中性子過剰核は右側に位置します。

原子核物理学は、約100年前、RIの発見とともに始まりました。まず天然に存在する安定な原子核や半減期(寿命)の長い不安定核の研究が行われ、さまざまな理解が進みました。その後、加速器を用いて人工的にRIを生成することができるようになると、原子核物理学は加速器技術・RI分離技術の向上とともに段階的に発展し、現在では、半減期(寿命)が極端に短い不安定核の研究が実施できるようになってきました。理研は、1937年に仁科芳雄博士(1946年財団法人第4代所長に就任)が日本初、世界で2番目の加速器を建造して以来、世界最先端の加速器研究施設としての地位を保持しています。こうした既存の加速器施設では、1990年以来、不安定原子核に特有の「中性子ハロー※6」や「魔法数の喪失と新魔法数の出現」の研究などで実績を上げています。

魔法数を含む領域は、原子核の多様な性質を見ることができるため、原子核物理学者が注目している領域です。安定核領域で魔法数を持った原子核は、一般的に堅く丸い形状をしていますが、安定核領域から離れるにつれ球形からずれた形状を持ちます。中性子が非常に過剰である原子核でも、魔法数の近傍ではこれまで分かっていた通りに本当に丸い形状なのか、魔法数から離れると球形からどれほどずれた形をしているのか、そもそも魔法数が安定核領域と同じところにあるのか、といった謎が関心を集めています。また、この中性子過剰領域の原子核は、宇宙における鉄からウランまでの元素生成にかかわる原子核だと考えられ、未知の宇宙の創生に切り込むことができると期待されています。

理研仁科加速器研究センターでは、既存加速器施設での長年の実績を踏まえ、不安定核の研究を飛躍的に拡大すべくRIビームファクトリー(RIBF)計画を推進してきています。RIBF計画では、ウランを光速の70%まで加速する超伝導リングサイクロトロン(SRC)を中心とした加速器施設と、このウランビームの飛行核分裂反応によって作られるRIビームを高効率で収集し、高い分析能力で識別・同定する超伝導RIビーム分離生成装置BigRIPS(図2)を用いて、安定核領域から遠く離れた領域を含む広範な領域のRIビーム供給を目指しています。2007年には、ウランビームの強度が最終目標の10万分の1以下にもかかわらずパラジウム-125(元素番号46、質量数125)とパラジウム-126(元素番号46、質量数126)という新同位元素を2つ発見し、BigRIPSの高いRI生成能力を証明しました(2007年6月6日プレスリリース)。

研究グループは、新同位元素を高効率・高分解能・高感度で生成、同定すべく、BigRIPSの収集・分析法を向上させ、特にRIBF加速器系の高度化でウランビームの強度を2007年の約50倍に向上させることに成功し、新RIの発見に挑みました。

研究手法

RIビームは、安定な原子核の重イオン※7ビームを高いエネルギーまで加速し、それを生成標的(ターゲット)に照射して、「入射核破砕反応※8」または「ウラン―238の飛行核分裂反応」を利用することで発生させます(図3)。特にウラン―238の飛行核分裂反応は、質量数50から150に至る広い範囲で中性子過剰なRIを生成する能力がとても高いと考えられています。

研究グループは、超伝導リングサイクロトロン(SRC)を中心として、理研リングサイクロトロン(RRC)、固定周波型リングサイクロトロン(fRC)、中間段リングサイクロトロン(IRC)で構成する加速システムで加速したウランビームを生成標的に衝突させ、飛行核分裂反応によってRIを生成しました(図4)。2007年の2つの新RI発見と比べ、ウランビーム強度は約50倍に向上し、世界最高水準に達しています。このウランビーム強度の増強により、元素番号20から60に至る広範な範囲で中性子過剰な新RIの生成の可能性が高まりました。広範な元素番号の領域で効率よく探索を行うため、元素番号を30(亜鉛)、40(ジルコニウム)、50(スズ)を中心とする領域の新RIに狙いを定め、BigRIPSの設定を3つにわけて実験を行いました。それぞれの設定では標的の厚さや種類を最適化し、元素番号30、40の設定ではベリリウム、50の設定では鉛を用いました。

次に、生成したRIをBigRIPS第1ステージへ通過させ、中性子過剰なRIだけを選別、分離しました(図5)。第1ステージの収集能力を上げるためには、可能な限り効率よく、新RIとそうでないRIを選別する必要がありますが、今回は2007年の実験データを基に、ウランの飛行核分裂反応で作られるRIの運動量分布を詳細に調べ、効率良い選別ができるよう磁場やエネルギー減衰板の厚さを最適化し、3倍の収集能力を実現しました。

さらに、分離した中性子過剰なRIをBigRIPS第2ステージに通過させ(図5)、新RIを同定するための粒子識別を行いました(図6)。粒子識別は、生成したRIの飛行時間、エネルギー損失量とともに、検出器に到達した位置情報から磁気剛性※9も測定して実施しました。今回、BigRIPSのイオン光学を詳細に研究し、磁気剛性や飛行時間の決定精度(分解能)を向上させました。また、複数ある検出器が示すシグナルの相関から不要なバックグランド事象をできる限り除去し、希少事象の測定を実現するとともに、統計解析に基づいて新RI発見の有意性を証明しました。

こうしたBigRIPSの収集・分析法の向上努力により、新RIを高効率・高分解能・高感度で生成、同定することが可能となり、今回、たったの約4日間という測定時間で新同位元素45種を発見する成果につながりました。

研究成果

測定したデータ(図6)を基に、元素番号Zごとに同位元素のスペクトルを作り新RIの有無を調べました。典型的な例として、モリブデン(元素番号42)の場合を(図7)に示します。新RIのモリブデン‐115(質量数115)、モリブデン‐116(質量数116)、モリブデン‐117(質量数117)のピークがはっきりと見え、新RIの発見を断定することができます。ピークがはっきり見えるのは、新RIのピーク近辺で、電荷が1つ小さく、質量数が3つ小さいRIのピークをきれいに分離することに成功したためです。これはBigRIPSの高い粒子識別能力と精密解析の結果です。

こうした解析の結果、45種の新RIを発見しました(表1)。今回新たに発見した新RIは、マンガン(元素番号25)からバリウム(元素番号56)と広い元素番号の範囲に存在します(図1赤色)。これらの新RIは、すべて中性子の数が安定核より15~22も過剰で、安定核領域からきわめて遠い位置に存在し、生成した個数は1個から、多いものでは約1,000個となっています。

発見したRIのうち、ニッケル79は、中性子数51で魔法数50の1つ上、パラジウム128は中性子数82の魔法数を持つなど、中性子数が魔法数50と82の間にあるものが多数あります。これらの原子核の性質を調べることによって、この領域で中性子過剰の効果が魔法数にどのような影響を与えるのかを系統的に研究することができます。さらに、そもそもこの領域で魔法数が存在するかどうかの研究も行うことができます。

また、これらのRIは、宇宙における鉄からウランまでの元素合成過程(図1青線)に関与する原子核だと考えられています。特に、セレン‐95、臭素‐98、クリプトン‐101、ルビジウム‐103、ストロンチウム‐106、ストロンチウム‐107、イットリウム‐109、パラジウム‐128、テルル‐143は、この元素合成過程上に位置する重要な原子核です。今後、設計上可能なウランビームのさらなる強度向上により、新RIを大量に生成して、それらの半減期や質量を測定することで、宇宙における元素合成過程の理解へ挑戦することが可能となります。

今後の期待

今回、多種類の未知のRIの生成に成功したことは、従来の世界水準と比べて、RIビームファクトリー(RIBF)の加速器技術とRI分離・生成技術が飛躍的に向上したことを意味しています。現時点でもビーム強度は世界最高水準のものですが、今後の加速器系の着実な高度化によって、RIBFでは現在の1,000倍以上の強度のビームを得ることができ、世界に追随を許さない施設となります。このように世界に冠絶するRIBFからは、約4,000種類の不安定核の生成を実現することができるようになります(図8)。そのうち約1,000種類は、現在発見が待ち望まれている新RIです。研究グループは、引き続きこの人類未踏の不安定核生成へ挑戦していきます。

また、RIBFの完成によって、主要テーマである「究極の原子核モデルの構築」だけでなく、そもそも元素はどのようにして生まれたのかという「元素の起源解明」を目指す根源的な研究も可能となります。今回の新RIの発見は、原子核物理学者が長年抱いてきたこれらの謎を解くための第一歩を踏み出すことに成功したといえます。また、RIBFで得られる成果は、物理学、天文学、化学といった基礎科学分野にとどまらず、応用分野にも貢献すると期待されています。RIBFは、生成するRIビームを多角的に解析し、精細な物理現象の解明という目的の達成を目指すとともに、新しいRI技術による新産業の創出に貢献していきます。

発表者

理化学研究所
仁科加速器研究センター 実験装置運転・維持管理室
室長 久保 敏幸(くぼ としゆき)
先任技師 稲辺 尚人(いなべ なおひと)
研究員 大西 哲哉(おおにし てつや)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

補足説明

  • 1.RIビームファクトリー(RIBF)
    水素からウランまでの全元素のRIを世界最大強度でビームとして発生させ、それを多角的に解析・利用することにより、基礎から応用にわたる幅広い研究と産業技術の飛躍的発展に貢献することを目的とする次世代加速器施設。施設はRIビームを生成するために必要な「加速器システム」(fRC、IRC、SRCなど)、RIビーム分離生成装置(BigRIPS)で構成される「RIビーム発生系施設」と発生系施設で生成したRIビームの多角的な解析・利用を行う「基幹実験設備」で構成される。RIビームは原子核の構成メカニズムの解明、元素の起源解明に有用であるとともに、RI利用による産業発展に寄与することも期待され、ドイツ、アメリカなど世界の主だった重イオン加速器施設でも計画が進められ、国際的にも熾烈な開発競争を展開している。
  • 2.放射性同位元素(RI)
    物質を構成する原子核には、構造が不安定なため時間とともに原子核が崩壊していくものがある。このような原子核を放射性同位元素と呼ぶ。放射性同位体、不安定同位体、不安定原子核、不安定核、ラジオアイソトープ(RI)と同義語。同じ元素であっても中性子の数が相違する原子同士を同位体と呼ぶが、同位体は安定なものと不安定なものに分類される。不安定なものは崩壊の際に放射線を放出するため、このように区別して呼んでいる。
  • 3.国際共同研究
    本研究は、理研内外の国内研究者に加え、米国のミシガン州立大学、アルゴンヌ国立研究所など参加研究者60名による共同研究である。
  • 4.飛行核分裂反応
    ウラン238などの重い原子核が、同程度の質量を持つ2つの核に分かれることを核分裂という。ウラン238は天然に安定に存在する原子核で寿命は約44億年ある。ウラン238ビームを標的にぶつけ、エネルギーを励起させると、ウラン238の核分裂が飛行中に起こり、飛行核分裂と呼ばれる。核分裂で生成された原子核は一般に中性子過剰な原子核となる。
  • 5.魔法数
    原子核は、陽子数と中性子数がある決められた数を満たすと特に安定核となる。この数を「魔法数(マジックナンバー)」と呼び、今までに「2」「8」「20」「28」「50」「82」「126」が知られている。2002年、理研を中心とする研究グループは、陽子に比べて中性子の多い不安定核で新しい魔法数「16」を発見した。これまで安定核の魔法数は調べ尽くされており、不安定核も同じ魔法数を持つと考えられてきたが、その定説を覆す成果であり、新しい魔法数の発見は、原子核に新しい規則性があることを示している。
  • 6.中性子ハロー
    これまでの原子核物理の常識では、通常の安定な原子核では、陽子と中性子が均一に混ざり合って存在し、陽子の占める体積と中性子の占める体積はほぼ等しいといわれていた。しかし、RIビームを用いた昨今の実験で、中性子の過剰な軽い元素(8Heや11Li)の不安定原子核構造を詳しく見てみると、核子の分布は通常のコアの部分と、遠方まで広がる過剰な中性子の部分に分かれていることが分かった。この過剰な中性子が異常に大きな半径を持ってコアとなる原子核の周りに薄く広がっている状態を「中性子ハロー」、“皮”となって取り囲んでいる状態を「中性子スキン」という。
  • 7.重イオン
    原子が電子を失う、または得ることにより電荷を持ったものをイオンといい、このうち、リチウムより重い元素のイオンを重イオンという。イオン源により原子から電子をはぎ取ると原子核の陽子数に比べて電子の数が少なくなり、全体としてプラスの電荷を持つ。これによって、加速器で電気的に加速することが可能となる。
  • 8.入射核破砕反応
    加速した原子核が標的原子核にあたったとき複数の破砕片に崩壊するような反応。破砕片には不安定原子核である中性子過剰核や陽子過剰核など天然に存在しない極めて短寿命な核種(いわゆるエキゾチック原子核)が含まれる。
  • 9.磁気剛性
    電荷を持った粒子の磁場中での曲がりにくさを表す量であり、運動量に比例し電荷に反比例する。磁気剛性の大きな粒子は磁石の外側を、小さなものは内側を通る。
核図表の画像

図1 核図表

原子核は陽子と中性子で構成されるが、安定な原子核でのその比はおおよそ1:1である。この安定核(■)の存在するラインを安定線という。安定線を離れ、陽子数が多い原子核を陽子過剰核と呼び、中性子数が多い原子核を中性子過剰核と呼ぶ。
赤色:今回発見した新同位元素45種
青線:rプロセスと呼ぶ宇宙における鉄からウランまでの元素合成過程の道筋

超伝導RIビーム分離生成装置BigRIPS 第1ステージ(左)と第2ステージ(右)の図

図2 超伝導RIビーム分離生成装置BigRIPS
第1ステージ(左)と第2ステージ(右)

RI ビームの生成方法の図

図3 RI ビームの生成方法

高エネルギーの重イオン(入射ビーム)を標的中の原子核(標的核)と衝突させると、その一部が削り取られて種々のRIが生成する。その中から1種類のRIを電磁分離し、二次ビームとして利用する。この反応を用いて効率よくRIビームを生成するには、一次ビームは核子あたり100MeV(光速の約40%以上)のエネルギーを持つ必要がある。ウランの核分裂反応では、ウラン238が標的中の原子核の強い電場や核力によって質量数80と130近傍の原子核に効率よく分裂する現象を利用する。この反応を用いるには、ウランビームは核子あたり約345MeV(光速の約70%)のエネルギーが必要となる。

加速器群の構成の図

図4 加速器群の構成

ウランを核子あたり345MeVまで加速する場合は、理研リングサイクロトロン(RRC)と中間段リングサイクロトロン(IRC)の間に固定周波型リングサイクロトロン(fRC)を使用する。これによって80kWという史上最強の重イオンパワーを得ている。

超伝導RIビーム分離生成装置(BigRIPS)の図

図5 超伝導RIビーム分離生成装置(BigRIPS)

BigRIPSは常伝導偏向電磁石と大口径の超伝導四重極電磁石により構成され、第1ステージでは、RI生成標的で生成されたRIを収集・分離し、第2ステージではRIの識別を行うことができる。2段階ステージの構成とウランビームの飛行核分裂の効率的利用を強く意識した大口径仕様が大きな特長。

粒子識別のためのA/Q-Zの図の画像

図6 粒子識別のためのA/Q-Zの図

粒子識別は、RIの元素番号Z、質量数A、飛行中のRIの電荷Qの比A/Qを決定することで識別した。
下図の赤い線(既知限界)の右側が新RIの領域。
左:元素番号Z=30設定
中:元素番号Z=40設定
右:元素番号Z=50設定

モリブデン(元素番号42)のA/Qスペクトルの図

図7 モリブデン(元素番号42)のA/Qスペクトル

○:荷電状態が42価(電子が全部剥がれたもの)
□:荷電状態が41価(電子が1つ付いているもの)
△:荷電状態が40価(電子が2つ付いているもの)
115、116、117は、発見した新RIのモリブデン‐115(質量数115)、モリブデン‐116(質量数116)、モリブデン‐117(質量数117)に対応する。新RIの近くには41価で質量数が3つ小さい同位元素(モリブデン117の場合モリブデン114の41価)が近接して現れるが、BigRIPSの高い粒子識別能力により、これらはきれいに分離している。

RIビームファクトリーで生成できるRIビームの図

図8 RIビームファクトリーで生成できるRIビーム

現在、人工的に生成された原子核を含め2,900種類もの原子核が知られている。しかし、理論的にはおよそ10,000種類の原子核の存在が予測されている。RIビームファクトリーでは水色の「安定核ビームから入射核破砕反応で生成」およびピンク色の「ウランビームから飛行核分裂反応で生成」を合わせ、1,000種類以上の人類がまだ見ぬ原子核を生成することが可能になる。また、現在のウラン合成仮説では、超新星爆発のときに上図の緑色の矢印上の原子核が瞬時に合成され、それらがベータ崩壊してウランまでの重元素ができたとされているが、それらはすべて未知の原子核である。RIビームファクトリーでは、これら原子核の生成を高効率で達成し、世界に先駆けて、この仮説の検証を実験的に可能になると注目される。

表1 発見した新同位元素とその個数(観測事象数)

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新同位元素(呼称) 元素番号 質量数 発見した個数
71Mn(マンガン71) 25 71 3
73Fe(鉄73) 26 73 4
74Fe(鉄74) 26 74 1
76Co(コバルト76) 27 76 5
79Ni(ニッケル79) 28 79 3
81Cu(銅81) 29 81 36
82Cu(銅82) 29 82 2
84Zn(亜鉛84) 30 84 22
85Zn(亜鉛85) 30 85 1
87Ga(ガリウム87) 31 87 10
90Ge(ゲルマニウム90) 32 90 3
95Se(セレン95) 34 95 15
98Br(臭素98) 35 98 11
101Kr(クリプトン101) 36 101 9
103Rb(ルビジウム103) 37 103 99
106Sr(ストロンチウム106) 38 106 22
107Sr(ストロンチウム107) 38 107 2
108Y(イットリウム108) 39 108 132
109Y(イットリウム109) 39 109 6
111Zr(ジルコニウム111) 40 111 26
112Zr(ジルコニウム112) 40 112 1
114Nb(ニオブ114) 41 114 15
115Nb(ニオブ115) 41 115 4
115Mo(モリブデン115) 42 115 933
116Mo(モリブデン116) 42 116 78
117Mo(モリブデン117) 42 117 6
119Tc(テクネシウム119) 43 119 27
120Tc(テクネシウム120) 43 120 3
121Ru(ルテニウム121) 44 121 143
122Ru(ルテニウム122) 44 122 15
123Ru(ルテニウム123) 44 123 3
124Ru(ルテニウム124) 44 124 1
123Rh(ロジウム123) 45 123 931
124Rh(ロジウム124) 45 124 94
125Rh(ロジウム125) 45 125 13
126Rh(ロジウム126) 45 126 1
127Pd(パラジウム127) 46 127 71
128Pd(パラジウム128) 46 128 13
133Cd(カドミウム133) 48 133 13
138Sn(錫138) 50 138 23
140Sb(アンチモン140) 51 140 124
143Te(テルル143) 52 143 8
145I(ヨウ素145) 53 145 57
148Xe(キセノン148) 54 148 1
152Ba(バリウム152) 56 152 17

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