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2014年2月20日

理化学研究所

超新星「カシオペア座A」は非対称に爆発した

-高エネルギーX線宇宙望遠鏡でチタンの鮮明な天体写真を撮影-

ポイント

  • 高エネルギーX線の集光撮影で元素の量や位置を直接観測可能に
  • 超新星爆発で飛び散った放射性チタンの非対称な空間分布を発見
  • 重力崩壊型の超新星爆発のメカニズムを理解するうえで貴重な観測結果

要旨

理化学研究所(理研、野依良治理事長)は、米国カリフォルニア工科大学などと共同で、「カシオペア座A[1]」が超新星爆発した時に生成された元素のうち、チタンの放射性同位体「チタン-44[2]」が放出した高エネルギーのX線を捉え、鮮明な天体写真の撮影に初めて成功しました。これにより、超新星爆発が従来説の「球対称」や「軸対称」爆発ではなく、非対称な爆発だったことが分かりました。これは、米国カリフォルニア工科大学のブライアン・グレフェンステット博士、フィオナ・ハリソン教授と、理研仁科加速器研究センター(延與秀人センター長)玉川高エネルギー宇宙物理研究室の北口貴雄特別研究員らで構成される国際共同研究グループ[3]の成果です。

初期の宇宙に存在する元素は、ほぼ全て水素とヘリウムでした。それより重い元素は、恒星の内部や重い星の最期の爆発(超新星爆発)による超高温・超高圧の環境下で、元素同士が合体して生成され、超新星爆発により宇宙空間に飛び散ります。元素の中には崩壊して別の元素になり、固有のエネルギーのガンマ線や高エネルギーX線を放出するものがあります。これらのエネルギーを観測して、正確な空間分布を決めることができれば、元素の起源や超新星爆発のメカニズム解明に迫れます。しかし、高エネルギーX線を集光して高感度で観測することは技術的に困難でした。

国際共同研究グループは、アメリカ航空宇宙局(NASA)のNuSTAR衛星[4]に搭載した高エネルギーX線集光望遠鏡[5]を使って、重力崩壊型の超新星爆発の残骸であるカシオペア座Aを延べ2週間観測し、チタン-44が放出した高エネルギーのX線を鮮明に撮影することに初めて成功しました。その写真から、チタン-44は爆心から非対称的に分布していることが分かりました。これは、超新星爆発のメカニズムを理解する重要な手がかりになります。また、チタン-44の爆発時の総質量は、地球質量の40倍に達すると判明しました。この成果により、今後、超新星爆発と、それに伴う元素合成の理論モデルの構築が進むと期待できます。本研究成果は、英国の科学雑誌『Nature』(2月20日号)に掲載されます。

背景

初期の宇宙に存在する元素は、水素とヘリウムがほぼ全てを占めていました。鉄までの元素は恒星の内部で起きる核融合により生成され、鉄よりも重い元素は重い星の最期である爆発(超新星爆発)の時の超高温・超高圧の中で元素同士が合体して一気に生成され、その爆発により宇宙空間に散らばります。このように作られたさまざまな元素で、地球や人間の体は形成されています。

超新星がどのように爆発し、どういう元素がどれくらい吹き飛ばされているかは、宇宙物理学に残された大きな謎の1つです。従来、それらを調べるために、元素がその周辺にある自由な電子と反応することで放出される、「固有かつ低いエネルギーのX線」が観測されてきました。実際に爆発から数百年~千年ほど経った後の超新星の残骸から、鉄やケイ素、マグネシウムなどが放出する特徴的な低エネルギーX線を捉えることができ、元素が吹き飛んだ様子が撮影されてきました。しかし、元素からの低エネルギーX線の強さは、自由電子の熱的状態や密度に依存するため、X線を効率よく放射しない場合があります。そのため、低エネルギーX線を用いて見積もる元素の総量や空間分布は不正確でした。

超新星爆発時に生成された元素の中には不安定なものがあり、原子核が崩壊して固有のエネルギーを持つガンマ線を放出します。その代表が、チタン元素の放射性同位体の1つチタン-44(陽子数:22、中性子数22)です。チタン-44は、約60年の半減期でスカンジウム-44に崩壊し、続いて半減期4時間でカルシウム-44に崩壊します。その際に放出されるガンマ線や高いエネルギーのX線(図1)を観測することで、元素の量や位置を「直接」測ることができます。しかしチタン-44からの高エネルギーX線は、ケイ素や鉄が電子と反応することで放出されるX線と比べて、10倍以上もエネルギーが高く、このような高エネルギーのX線を集光して観測する望遠鏡はこれまでありませんでした。

研究手法と成果

国際共同研究グループは、高エネルギーX線を集光できる望遠鏡を開発し、2012年6月にアメリカ航空宇宙局(NASA)の小型科学衛星「NuSTAR( Nuclear Spectroscopic Telescope Array)」に搭載して打ち上げました。この望遠鏡の利用で高エネルギーX線による鮮明な天体写真を初めて撮ることができるようになりました。これまでの検出器に比べ100倍の感度で高エネルギーX線を観測することができます。

国際共同研究グループは、高エネルギーX線集光望遠鏡でチタン-44の高画質な天体写真を撮るために、代表的な超新星爆発の残骸「カシオペア座A」を、延べ2週間にわたって観測しました。撮影写真から宇宙放射線による雑音の除去や集光鏡のゆがみによる像の拡がりの修正などの画像処理を行い、チタン-44の鮮明な天体写真を得ることに初めて成功しました(図2)。この天体写真からチタン-44は爆心から非対称的に分布していることが分かり、超新星爆発が非対称的に起こったことが明らかになりました。この結果、これまで提唱されてきた超新星爆発モデルのうち「合成された元素が球対称にまき散る」というモデルや、「ある方向にのみ軸対称に吹き飛ぶ」モデルは適切ではないことが分かりました。また、鉄元素はチタンと同じ元素合成プロセスで生成されると考えられていますが、すでに見えていた鉄の空間分布と今回分かったチタン-44の空間分布が異なるという興味深い観測結果が得られました。チタン-44を多く検出した爆心地近くは、大量の鉄も同様に存在しているものの、自由電子の状態に影響して鉄から低エネルギーX線が出ていないからか、もしくは鉄とチタンを引き離す未知の機構が働き、爆心地には鉄があまり存在しないからと考えられます。

高エネルギーX線の強度から推定したチタン-44の爆発時の総質量は、約2.5×1026kgとなり、地球の全質量の約40倍に及ぶ大量のチタン-44が合成されたことを示しています。

今後の期待

超新星爆発と、それに伴う元素合成の時間的な変化の様子は、スーパーコンピュータを用いて物理方程式を解くことで、調べられてきました。その元素合成モデルをより精密にするためには、爆発時に生成される不安定核の質量や寿命といった、原子核の基礎的な情報を網羅したデータベースが必要です。また計算したモデルが正しいのかどうかを検証するためには、今回のような天体観測による元素の実情報が欠かせません。

理研玉川高エネルギー宇宙物理研究室は、2015年に打ち上げ予定の次期X線観測衛星「ASTRO-H」計画に参加しています。ASTRO-H衛星は、日米を中心に世界の研究者が協力して開発を進めている衛星で、元素と電子の反応により放出される低エネルギーX線を、従来の10倍以上の感度で検出できる装置を搭載する計画です。この新しいX線検出装置により、これまで宇宙では確認されていなかった元素が、超新星爆発から見つかるものと期待されています。

理研は、超新星爆発や元素の合成を高速にシミュレートできるスーパーコンピュータ「京」や、中性子過剰で不安定な元素を人工的に作り出すことができる重イオン加速器「RIビームファクトリー」を所有しています。こうした充実した研究インフラを効率よく使うことで、今後、物理学上の重大な問題である超新星爆発や元素合成過程についての理解が飛躍的に進むと期待できます。

原論文情報

  • B. W. Grefenstette et al., "Asymmetries in core-collapse supernovae from maps of radioactive 44Ti in Cassiopeia A", Nature, 2014, doi: 10.1038/nature12997

発表者

理化学研究所
仁科加速器研究センター 高エネルギー宇宙物理研究室
特別研究員 北口 貴雄 (きたぐち たかお)

お問い合わせ先

仁科加速器研究推進室
Tel: 048-467-9451 / Fax: 048-461-5301

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

補足説明

  • 1.カシオペア座A
    カシオペア座にある超新星残骸で、地球から1万光年ほど離れている。太陽よりも約10倍以上も重い星が、その最期に重力崩壊を起こして、約350年前に爆発したと考えられている。爆発で吹き飛んだ物質は、視直径で5分角、距離に換算すると20光年ほどに拡がっている。
  • 2.チタン-44
    陽子も中性子も22個ずつからなるチタン元素の放射性同位体。原子核の半減期は約60年で、崩壊時にそれぞれ固有のエネルギーを持つ2本の高エネルギーX線を放出する。チタン-44は、超新星の爆発時に一気に合成されたと考えられている。
  • 3.国際共同研究グループ
    カリフォルニア工科大学(米国)、理化学研究所、カリフォルニア大学バークレー校(米国)、ノースカロライナ州立大学(米国)、ロスアラモス国立研究所(米国)、アメリカ航空宇宙局(米国)、テキサス大学アーリントン校(米国)、ダラム大学(英国)、マギル大学(カナダ)、トゥールーズ大学(フランス)、フランス国立科学研究センター、デンマーク国立宇宙センター、ローレンス・リバモア国立研究所(米国)、イタリア宇宙機関、コロンビア大学(米国)、SLAC国立加速器研究所(米国)、イタリア国立天体物理研究所、ジェット推進研究所(米国)。
  • 4.NuSTAR 衛星
    NASAの小型科学衛星で、国際共同研究グループが2012年6月13日にペガサスロケットを用いて打ち上げ、地表からの高さが約600kmの地球を周回する軌道に投入した。衛星には同等の高エネルギーX線集光望遠鏡を2台積んでいる。NuSTAR 衛星プロジェクトは、主にカリフォルニア工科大学で率いられ、米国のジェット推進研究所で管理されている。
  • 5.高エネルギーX線集光望遠鏡
    これまでの高エネルギーX線検出器は、集光鏡を用いないものだった。ブラッグ反射を利用した新規開発の集光鏡により、高エネルギーX線を曲げて集めることができる。また、焦点面で高エネルギーX線を効率よく捉えるために、テルル化カドミウム亜鉛結晶でできたピクセル型半導体検出器を新たに開発した。これらの技術により、初めて高エネルギーX線の撮影ができるようになった。
チタン-44の崩壊模式図の画像(提供 NASA/JPL-Caltech)

図1 チタン-44の崩壊模式図

超新星爆発により合成されたチタン-44は不安定で、半減期60年で崩壊してスカンジウム-44になる。スカンジウム-44も不安定核で、半減期4時間で直ちに崩壊して、カルシウム-44になる。カルシウム-44は安定核なので、これ以上は崩壊しない。この崩壊過程に伴って、陽電子や特徴的なエネルギーを持つガンマ線を放出する。NuSTAR衛星は、68および78キロ電子ボルトという高いエネルギーのX線を高感度で検出して、チタン-44の天体写真を撮影することに成功した。

超新星残骸「カシオペア座A」に存在する金属元素の空間分布の画像(提供 NASA/JPL-Caltech)

図2 超新星残骸「カシオペア座A」に存在する金属元素の空間分布

NuSTAR衛星に搭載した高エネルギーX線望遠鏡で撮影したチタン-44(青色)の空間分布と、2004年にChandra衛星の低エネルギーX線望遠鏡で撮影された鉄(赤色)と、ケイ素およびマグネシウム(緑色)の空間分布。下図は3つの元素分布に、低エネルギー連続X線(黄色)の空間分布を合成したもの。各図の外枠は、1辺24光年の長さに相当する。

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