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2016年11月2日

理化学研究所

材料組織の画像解析クラウドシステムを開発

-3次元画像処理と画像管理システムの運用を開始-

要旨

理化学研究所(理研)光量子工学研究領域 画像情報処理研究チームの山下典理男特別研究員、森田正彦特別研究員、吉澤信上級研究員、横田秀夫チームリーダーらの研究チームは、材料組織の画像解析に対して計算負荷の大きな画像処理やデータ管理ができるクラウドシステム[1]「MICC(Material Image Communication Cloud)」を開発し、試験運用を2016年10月下旬から開始しました。

工業材料のミクロな組織構造と特性は密接な関連があります。そのため、新規材料や高機能材料を開発する上で、組織構造の解析は非常に重要です。現在、世界的に材料の組織構造の定量解析を新規材料開発につなげる試みが進められています。日本では総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「革新的構造材料」において、マテリアルズインテグレーション(SIP-MI)として①材料組織の形状計測、②材料組織と強度等の特性との関係、③シミュレーションによる材料設計を目指した研究が進められています。これらの研究では、材料の特性に関わる組織の3次元形状を明らかにする手法の開発が重要とされています。材料組織の特徴を抽出するには、組織の3次元画像に対する画像処理手法や、手法の適切な組み合わせを見出すための知識と経験を蓄積する仕組みが必要です。

研究チームは、これまでに画像データを処理・解析する画像処理システム「VCAT(Volume-Computer Aided Testing)[2]」および、VCATとクラウドを利用した画像データの新基盤システム「ICP(Image Communication Platform)[3]」を開発しました。今回、ICPを基盤に、SIP-MIに参加する複数の研究機関による材料組織の解析に特化した3次元画像解析・管理システム「MICC」を開発、試験運用を開始しました。MICCは、多拠点からユーザーが安定して解析環境を利用できるように商用システム上に構築しました。MICCは画像処理機能に加え、研究室や研究者ごとのアクセス管理機能、すべての画像処理の履歴を記録する機能を持ち、さらに一般的なパソコンで利用できます。MICCは、複数の画像処理手法の試行錯誤から、共通する適切な方法を見出すことが期待できます。

MICCは鉄鋼を対象として解析モジュールを搭載していますが、金属、セラミック材料、高分子など、さまざまな材料を解析できます。MICCは効率的かつ高度な画像解析環境を提供できるため、新規材料開発の高速化・高度化に寄与し、材料開発分野の競争力強化に貢献すると期待できます。

本成果は、SIP「革新的構造材料」マテリアルズインテグレーション シンポジウム2016で発表されます(11月2日)。

本研究は、内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「革新的構造材料(岸輝雄プログラムディレクター)」(管理法人:JST)で実施されている研究課題「マテリアルズインテグレーションシステムの開発(小関敏彦東京大学教授)」内の「特性空間分析システムの開発(井上純哉東京大学准教授)」の一環として行われました。

※研究チーム

理化学研究所 光量子工学研究領域
エクストリームフォトニクス研究グループ 画像情報処理研究チーム
チームリーダー 横田 秀夫 (よこた ひでお)
特別研究員 山下 典理男 (やました のりお)
特別研究員 森田 正彦 (もりた まさひこ)
上級研究員 吉澤 信 (よしざわ しん)

東京大学 先端科学技術センター
准教授 井上 純哉 (いのうえ じゅんや)

東京大学 工学系研究科
教授 小関 敏彦 (こせき としひこ)

背景

工業材料のミクロな組織構造と特性は密接な関連があるため、新規材料や高機能材料を開発する上で、組織構造の解析は非常に重要です。

現在、材料組織の解析は、主に2次元の断面組織画像が利用されていますが、2次元解析では複雑な3次元形態を議論することは困難であり、3次元の組織画像を解析する必要性が高まってきています。しかし、3次元画像処理を行う環境を入手することは高いコストや専門的な知識を必要とするため必ずしも容易でありません。また、材料組織の3次元画像に対して、複雑な材料の特性を抽出するには、さまざまな画像処理手法の組み合わせが考えられ、各ユーザーが有効なものを見出すことは簡単にはできず、長年の組織観察による知識と経験を備えた専門家でなければ解析が難しいことがありました。そのため、知識や経験に頼らずに試行錯誤の中から適切な画像処理手法を組み合わせ見出すシステムが必要とされています。

材料開発分野ではここ数年、世界的に材料の組織構造の定量解析を新規材料開発に繋げる試みが精力的に進められています。日本では総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「革新的構造材料」において、マテリアルズインテグレーション(SIP-MI)として①材料組織の形状計測、②材料組織と強度等の特性との関係、③シミュレーションによる材料設計を目指した研究が進められています。

研究チームは今回、SIP-MIに参加する複数の機関や研究者による材料組織の解析に特化した3次元画像解析・管理システムの構築を目指しました。

研究手法と成果

研究チームは、画像データを処理・解析する画像処理システム「VCAT(Volume-Computer Aided Testing)」を開発しました。VCATは、画像処理技術を用いたノイズ除去、領域抽出、形状特徴抽出、可視化をGUI (Graphical User Interface)による直観的で容易な操作で行うことが可能です。また、2013年にはVCATと画像管理システムを組み込んだクラウドによる画像データの新基盤システム「ICP(Image Communication Platform)」を開発しました。

今回、研究チームはICPを基盤に、商用クラウド上に鉄鋼を対象とした画像解析・管理システム「MICC(Material Image Communication Cloud)」を開発し、その試験運用を2016年10月下旬から開始しました(図1)。

商用クラウドを利用したことで、ユーザーはネットワークを介して、安定して容易に画像処理・管理環境を利用できます(図2)。MICCはICP同様に、負荷の高い画像処理(図3)はクラウド上で実行し、結果画面のみをユーザーに転送するため、ユーザーは高度なハードウェアやソフトウェアを用意する必要がなく、一般的な端末で画像処理を実施できます。MICCの画像処理を担うVCAT5は、複数の画像処理モジュールを組み込んだ画像処理プラットフォームであり、様々な処理を組み合わせて使用することができます。またMICCでは、材料組織を対象としたテクスチャー[4]を扱う画像処理モジュールを組み込みました。新たな解析機能は順次追加する形で拡張することが可能です。また、研究室や研究者ごとに記録する画像へのアクセス権限を管理し、利用者間でのデータ共有の仕組みも備えています。これにより複数拠点間での連携を可能とし、共同研究を効率化できると考えられます。さらに画像処理履歴の管理機能を強化し、過去に行ったすべての処理の前後関係の履歴を記録する仕組みを備えました。行った作業の手順や分岐をツリー形式で参照でき、詳細を確認したり、別の画像データに適用したりできます。将来的に、これらの履歴を解析することにより、複数の試行錯誤の中から良い画像処理方法を見出すことが期待できます。鉄鋼組織画像に有効な画像処理手法や組み合わせを共有したり、新たな手法の開発に活かしたりすることで、多くのユーザーが熟練の専門家同様の解析を行なうことができる環境の実現を目指しています。

今後の期待

MICCは、有効な画像処理手法の追加し機能を拡張することが可能です。現在、一例として理研が独自開発した3次元形状解析法[5]のMICCへの適応・機能拡張を予定しており、材料解析への更なる特化と多機能化を目指しています。また、多数の処理履歴を蓄積し、複雑な鉄鋼組織に有効な処理の組み合わせを見出すことを目指します。これをユーザーに提供することで、多くのユーザーが効率的に高度な画像処理を実施可能となります。また、鉄鋼だけではなく、他の金属材料や工業材料分野においても画像処理を活用した材料開発を行なう基盤となり、新規材料開発の高速化・高度化に寄与し、材料開発分野の競争力強化に貢献すると期待できます。

原論文情報

  • 山下典理男、森田正彦、吉澤信、横田秀夫、井上純哉、糟谷正, "鉄鋼組織の全自動三次元観察システムと組織形状の特徴量抽出のための画像処理クラウド", SIP「革新的構造材料」マテリアルズインテグレーション シンポジウム2016予稿集

発表者

理化学研究所
光量子工学研究領域 エクストリームフォトニクス研究グループ 画像情報処理研究チーム
特別研究員 山下 典理男 (やました のりお)
特別研究員 森田 正彦 (もりた まさひこ)
上級研究員 吉澤 信 (よしざわ しん)
チームリーダー 横田 秀夫 (よこた ひでお)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

補足説明

  • 1.クラウドシステム
    ネットワークを介して、ユーザーにネットワーク上に点在するさまざまなソフトウェア・ハードウェア資源を、あたかもユーザー側の機能として仮想的に提供する仕組み。
  • 2.VCAT(Volume-Computer Aided Testing)
    現実に存在する解析対象を3次元画像(ボリューム)としてコンピュータ内に再現し、設計・シミュレーション、加工につながる形状モデルを作成することを目的に開発した理研独自の画像処理ソフトウェア。
  • 3.ICP (Image Communication Platform)
    高性能かつ簡便な画像処理を提供することを目的に、VCATをクラウド上に組み込んだ理研が開発した基盤システム。
    2013年12月5日プレスリリース「 クラウドを利用した画像データの新基盤システム「ICP」を開発
  • 4.テクスチャー
    材料表面の組織の違いなどによって、組織画像中に輝度値や色の違いとしてあらわれた模様やパターン。
  • 5.3次元形状解析法
    鉄鋼材料に対して、3次元形状の幾何特徴を統計的に解析する理研独自のシステム。実物の計測から画像処理にてコンピュータ内に形状を再構成し、幾何計算により材料組織の定量化を行う。国際会議IEEE ICIP'14にて成果発表し、論文賞(Top 10% Paper Award)を受賞。
    Norio Yamashita, Shin Yoshizawa, and Hideo Yokota , "Volume-Based Shape Analysis for Internal Microstructure of Steels", Proceedings of IEEE International Conference on Image Processing (ICIP'14), pp. 4887-4891, 2014. DOI: 10.1109/ICIP.2014.7025990
MICCの構成概要図

図1 MICCの構成概要

3次元画像処理や画像・画像処理履歴の管理をクラウド上で実現した材料組織画像用の画像処理・管理システム。ユーザーは一般的なパソコンとWebブラウザを用いてインターネットを介して、特殊な設備を必要とすることなく利用できる。

MICCの概観図

図2 MICCの概観

MICCの操作画面の例。画像処理システム、登録画像データの管理システム、ユーザーごとのアクセス管理を備えている。また、画像処理履歴を自動的に記録・管理し、後から履歴を参照したり、過去の画像処理手順を別の画像に適用できる。

鉄鋼組織画像からの領域抽出例の図

図3 鉄鋼組織画像からの領域抽出例

鉄鋼組織の3次元画像から、インタラクティブな操作により、3次元組織の領域抽出を行なった例。ユーザーは直観的な操作により作業を行なうことができ、抽出結果の3次元可視化も行なうことができる。

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