2016年6月17日
複数の「単一分子」を同時に観る光学顕微鏡システム
理研No. 08169
発明者
市村 垂生(先端バイオイメージング研究チーム)
背景
20数年前に発明された単一分子イメージング技術は、タンパク質1個の動作や機能の解明に大きく貢献しました。近年、生物学の興味は1つ上の階層にシフトしています。すなわち、タンパク質複合体といった分子機械の中での複数のタンパク質の動作を同時観察する必要が増しています。これが可能になると、複数のタンパク質が互いに阻害し合うことなく協同的に動作し、システムを効率的に動かす仕組みを解明することにつながります。
概要
本発明では、多数分子の動態をナノメートル分解能で高速イメージングする方法を提案します。複数のタンパク質を異なる色の蛍光プローブで標識し、イメージング分光により検出します。複数分子が近接していても、分光器のカメラ検出器上では蛍光スポットが分離されて観察されます。これにより、ナノメートル空間にある複数分子の同時にビデオレート以上の速さで高速にイメージングすることができます。
図1:手法の概要(A)光学システム図
蛍光像を2光路に分岐し、一方を90度像回転して両方を分光器スリットに結像し、カメラ検出器で同時に観察する。(B)原理検証実験。ナノメートル空間で近接する3つの蛍光プローブ(量子ドット)の分離検出。通常の蛍光像では分離できず1つの蛍光スポットになるが、分光によって分離し、xy座標を推定し再構成した。
図2:並進モータータンパク(ミオシンV)の2つのヘッドの動きの1次元同時計測
2足歩行のようなヘッドの動きを観察できている。(A)2つの蛍光プローブの波長の時空間像 (B)2つのヘッドの軌跡
図3:複数の並進モータータンパク(ミオシンVI)の2次元同時計測
2つの像より、xy座標を推定し再構成した。
利点
- ナノメートル空間に近接する複数の単一分子の同時イメージングが可能
- 数ナノメートルの精度の単一分子追跡をビデオレートで実現
- 通常の蛍光顕微鏡に分光器を導入するだけで実装可能
応用
- 複数のモータータンパク質の同時計測
- タンパク質複合体内のタンパク質動態の観察
- 細胞表面の膜タンパクのクラスタリングの実時間計測
文献情報
- 1.特許第6206871号
- 2.Taishi Kakizuka, Keigo Ikezaki, Junichi Kaneshiro, Hideaki Fujita, Tomonobu M. Watanabe, and Taro Ichimura "Simultaneous nano-tracking of multiple motor proteins via spectral discrimination of quantum dots " Biomedical Optics Express, Vol. 7, No. 7, pp. 2475-2493 (2016).
doi:10.1364/BOE.7.002475
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