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研究最前線 2021年7月5日

虐待はなぜ起こる?親子関係を科学する

子どもの虐待事件が後を絶ちません。そもそもなぜ、親は虐待をしてしまうのでしょうか。私たちの全ての行動は、基本的に脳によって制御されていることから、脳科学のアプローチにより、虐待を防ぐ具体的なヒントを得られる可能性があります。4人の子どもの母親でもある黒田公美チームリーダー(TL)は、自身の子育ての経験を生かしながら、親子関係のしくみを科学で解き明かしています。その成果は、人文社会系の専門家からも高い関心が寄せられており、大きな反響を呼んでいます。

黒田 公美TLの写真

黒田 公美(くろだ くみ)

脳神経科学研究センター
親和性社会行動研究チーム
チームリーダー
1970年東京都生まれ。大阪大学医学部卒業後、同大大学院医学部附属病院精神神経科に入局。2002年大阪大学医学系研究科博士課程卒業、博士(理学・医学)。2002年カナダ・マギル大学に留学し、親子関係の研究を始める。2008年から理研で研究室を主宰、2018年より現職。

脳というブラックボックスを開く

黒田TLが親子関係を脳科学の視点で探ろうと思ったのは、精神科で研修医をしていた頃の経験がきっかけだった。

「心の問題を抱えている人の多くが、過去の親子関係に悩んでいることを知りました。子どもの頃の親子関係が精神発達や心の健康に影響することは、現象としてはよく知られていますが、精神や心をつかさどる脳の中で何が起こっているのかはまだ解明されていません。私は脳というブラックボックスを開けて、脳内で何が起きているかを一つ一つ明らかにしたいと思っています」

2013年、黒田TLらは抱っこして歩くと赤ちゃんが泣きやむしくみをヒトの乳児とマウスの実験で解明した。さらに、マウスの実験を通して、子育てに必須な脳部位や、子への攻撃に関わる脳部位も突き止めた。現在はこうした脳科学の知見やノウハウを生かして、現代人が抱える社会問題にも切り込んでいる。

哺乳動物の虐待要因から、ヒトの虐待要因を探る

「ヒト以外の哺乳動物でも、虐待に相当する行動がみられます。子育てに関わる脳のメカニズムは、哺乳動物の間である程度共通していると考えられるため、動物で分かった虐待要因を現代の人間社会に当てはめて調査することで、子ども虐待に至ってしまう背景要因が分かるのではないかと考えました」

そこで黒田TLは、児童虐待の有罪判決を受けて服役している養育者にアンケート調査を行った。その結果を、動物の虐待要因の分類と比較したところ、ヒトにも適用できることが分かった(図1)。

大きく三つに分類された虐待が起こる要因の図

図1 大きく三つに分類された虐待が起こる要因

調査の結果、動物だと一つあっても子育てができなくなるような要因が、ヒトでは複数重なっているケースが多くあった。

「遺伝子や過去の環境は変えられませんが、現在の脳や環境を変えることはできます。虐待を減らすためには、虐待した加害者をただ責めるのではなく、親や家庭が抱えている問題に焦点を当て、それに合わせた支援をすることが必要です」

黒田TLは、人文社会系の研究者らとともに、養育者支援による虐待低減を目指したシステムの構築や、政策提言に向けた活動も行っている。

「児童虐待に限らず、子どもや家庭への支援のための政策決定に関わっているのは法律や経済など、人文社会系の専門家が多いのが現状です。自然科学系研究者も、もっと現実社会に対し積極的にエビデンスというパスを出して、政策決定の現場に近い人にシュートを決めてもらう。そういう社会的な貢献を果たしていければと思っています」

また、黒田TLは、子育てに困っている家族を支援するためのプログラムにも携わり、コロナ禍ではそれをリモートにも拡充している。さらに、支援プログラム受講後の親の認知や行動の変化とそれらに相関する脳部位を明らかにする研究も並行して進めている。

「研究を社会に役立てたい」と、科学研究の枠を超えてパワフルに活躍する黒田TLの挑戦は続く。

わが子を抱っこする黒田TLの写真

図2 わが子を抱っこする黒田TL

母親が「座って抱っこ」から「抱っこして歩く」に行動を切り替えると、数秒以内で赤ちゃんの動きが少なくなり、泣き止み、また心拍間隔が増加し(心拍が遅くなる)、リラックスしていることが分かった。

(取材・構成:秦千里/撮影:古末拓也/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

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抱っこして歩くと赤ちゃんがリラックスする仕組みの一端を解明(14分08秒)

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