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研究最前線 2021年9月13日

液体ヘリウムの上に電子を浮かべてつくる量子コンピュータ!

2021年、理研に量子コンピュータ研究センターが発足するなど、量子コンピュータの開発は加速度的に進展しています。その情報単位である「量子ビット」の開発にユニークな視点から取り組んでいるのが川上恵里加 理研白眉研究チームリーダー(白眉TL)です。量子コンピュータの性能を飛躍的に高める新たな量子ビットの開発が期待されています。

川上 恵里加の写真

川上 恵里加(かわかみ えりか)

量子コンピュータ研究センター
浮揚電子量子情報理研白眉研究チーム
理研白眉研究チームリーダー
慶應義塾大学大学院で修士(工学)を取得後、2016年オランダ・デルフト工科大学にてPh.D.を取得、同年沖縄科学技術大学院大学博士研究員。2017年から科学技術振興機構さきがけ研究員兼務、2020年より現職。

電子が真空中にあったらいいのに!

量子コンピュータは、0と1を重ね合わせた特殊な状態(量子状態)をつくり、それを量子ビットという情報単位にして計算を行う。現在、企業や大学などで利用が始まっている量子コンピュータは、超伝導物質でできた電極を組み合わせて量子状態をつくる超伝導量子ビットを用いたものだ。他にも、半導体やイオンを利用するものなど、さまざまな方法で量子ビットの開発が試みられている。

川上白眉TLが研究を進めているのは、液体ヘリウムの表面から10ナノメートル(nm、1nmは10億分の1m)ほど上の真空中に電子を浮かべ、量子ビットとして活用する新しい方法だ。電子は小さいため、集積しやすい。さらに電気的性質と磁気的性質を併せ持つ特徴を利用して、演算に有利な量子ビットをつくることができる。

当初は、半導体などの固体中で電子を用いた量子ビットをつくる研究をしていた。しかし固体中では、取り除くことができない不純物や結晶の欠陥などにより、量子ビットとして用いるのに不都合な相互作用が生じてしまう。このような問題がほとんどない真空中に量子ビットを置くことが理想的だが、それでは量子ビットの状態を検出しづらいという問題がある。試行錯誤の末に行きついたのが、真空中で液体ヘリウム上に電子を浮かべて、量子ビットとする方法だった。

この方法のボトルネックは電子の量子状態の検出にあるが、川上白眉TLは博士研究員時代に、これを電気的に検出する方法の開発に成功した。現在、この方法の感度を高め、1個の電子の量子状態を検出するための研究を進めている。

液体ヘリウム上に電子を浮かべるためのサンプルホルダーの図

図1 液体ヘリウム上に電子を浮かべるためのサンプルホルダー

直径10cmほどのサンプルホルダーを冷凍機に入れて極低温に冷やす。左上の小さな七つの穴がある場所に、液体ヘリウムを流しこむためのラインをつなぐ。金色に光る八つの穴から量子ビットへ信号を送ったり、量子ビットからの信号を受け取ったりする。

期待される量子コンピュータの高性能化

大学院で修士号を取得した後、量子コンピュータ研究のためにオランダのデルフト工科大学の門を叩いた。「デルフトで、初めて、固体中の1個の電子の検出シグナルを測定できた瞬間が忘れられない」とほほ笑む。いつか自分の研究室を持ちたいと理研白眉制度に応募し、採用された。この制度は、並外れた能力を持つ若手研究者に、研究室主宰者として独立して研究を推進する機会を提供するものだ。

「採用された直後は、プレッシャーに感じたり、不安に思ったりしたこともありました。でも今は自分の研究をしっかり進めていくことに集中しています」。レベルの高い研究者に囲まれて、日々、刺激を受けているという。

「高性能な量子コンピュータができたら、それを使って高温超伝導のしくみなど、未解決の物理現象を解明したいですね」と、その先の抱負も語ってくれた。

(取材・構成:荒舩良孝/撮影:相澤正。/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

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