1. Home
  2. 広報活動
  3. クローズアップ科学道
  4. クローズアップ科学道 2021

研究最前線 2021年9月21日

植物の代謝を分子レベルで解明し、機能性植物をつくり出す

生物の体内では、さまざまな物質が合成や分解を繰り返す「代謝」が行われており、これによって生命活動が維持されています。実に精巧で緻密な代謝の仕組みを分子レベルで明らかにすることを目指す、平井優美チームリーダー(TL)に話を聞きました。

平井 優美の写真

平井 優美(ひらい まさみ)

環境資源科学研究センター
代謝システム研究チーム
チームリーダー
1965年千葉県生まれ。東京大学大学院農学系研究科博士課程修了。博士(農学)。千葉大学大学院薬学研究院研究員などを経て、2005年、理研植物科学研究センター代謝システム解析ユニット ユニットリーダー。2013年より現職。

代謝の経路はまるで地下鉄の路線図

「代謝」という言葉は日常でもよく使われるが、科学的には、動植物はじめ全ての生体が生きていくために、外界から体内に取り入れた物質を、生命活動に必要な化合物に変換したり、分解してエネルギーを取り出したりする一連の反応を意味する。代謝の反応経路を示した「代謝マップ」は、複雑なネットワーク構造をしており、まるで大都市の地下鉄路線図のようだ(図1)。

「代謝は非常に精緻なメカニズムによって制御されています。生命の精緻さや複雑さへの強い興味が私を研究の道へ導きました。まずは植物においてその仕組みを分子レベルで理解したい」。そう話す平井TLは、全代謝物(メタボローム)を網羅的に調べるメタボローム解析などの技術を駆使して、植物の代謝にかかわる分子のメカニズムを解明している。

代謝マップの一例(大腸菌)の図

図1 代謝マップの一例(大腸菌)

拡大した環状の経路は、微生物と植物に存在するグリオキシル酸回路(酢酸や脂肪酸を炭素源として利用するための代謝経路)。
スイスの製薬会社ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社「Metabolic pathway」より。

二次代謝産物の再利用経路を発見!

代謝には、生命維持に必要不可欠な「一次代謝」と、それ以外の「二次代謝」がある。植物の二次代謝産物には、害虫からの防御や環境適応などに役立つものが多く、自ら動くことのできない植物の生存戦略の要といえる。

平井TLは、これまでの通説を覆す新たな経路を発見した。「二次代謝産物は、代謝経路のデッドエンド、つまり代謝の行き止まりといわれていました。しかし、私たちはアブラナ科の植物がつくるグルコシノレートという二次代謝産物が、さらに分解されて一次代謝に再利用される経路を発見し、2021年5月に発表しました。終着駅と思われていた二次代謝産物ですが、始発駅の方に戻る経路が存在していたのです」。

実はこの発見、私たちの健康にも関わりがある。グルコシノレートは、植物にとっては害虫に対する防御の役割を果たすが、人体にとっては発がん抑制などの健康促進効果を持つ。今回明らかになったグルコシノレートの分解経路を、逆にブロックできれば、グルコシノレートの量を増やした機能性野菜が開発できるかもしれない。

代謝を自在にデザインする

しかし、ことはそれほど簡単ではない。「代謝マップは固定された経路のように見えますが、実際は細胞内に何千種もの代謝物や酵素が混ざり合って存在し、必要なときに必要な経路だけが働きます。複雑に絡み合った経路から、なぜ必要な経路だけを誘導できるのかを解明しないと、思い通りに代謝を制御することはできません」。

今、平井TLが注目していることの一つが「液-液相分離」という現象だ。これは水と油のように液体が混ざり合わずに2相以上に分離することをいう。細胞内では、代謝に関わる物質が「液-液相分離」によって区画化されていて、それが代謝の制御に関わっている可能性がある。

「まだ知られていない代謝のメカニズムを明らかにし、代謝を自在にデザインできるような応用につなげたい」と平井TLは意欲を見せる。

(取材・構成:秦千里/撮影:相澤正。/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

関連リンク

Top