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私の科学道 2021年10月24日

微生物の分類から多様性の進化史を見つめて

伊藤 隆特別嘱託研究員の写真

伊藤 隆(いとう たかし)

バイオリソース研究センター
微生物材料開発室
特別嘱託研究員
1959年東京都生まれ。東京農工大学大学院農学研究科環境保護学専攻修士課程修了。博士(農学)。科研製薬株式会社の中央研究所研究員を経て1992年理研入所、バイオリソースセンター先任研究員を経て、2020年より現職。

理研発祥の地で微生物の分類

東京都の大田区育ち。「近所の原っぱでチョウやバッタ、はたまたトカゲまで、捕まえては家で飼いました。生き物が好きで、親がそろえてくれた保育社の学習図鑑をぼろぼろになるまで見ていましたね。さまざまな種類の動物や昆虫の特徴がイラストで分かりやすく描かれていて、眺めているだけで楽しかったのです。図鑑で初めて知った昆虫を実際に見つけたときには感動しました」

図鑑をめくる伊藤特別嘱託研究員の写真

図鑑を眺めていると今でも少年のような笑顔になる。

やがて東京農工大学農学部環境保護学科へ。「廃水浄化に使われる活性汚泥中に生息する、微生物種の分類学的研究に取り組みました。私が研究室に入った1980年代前半は、細胞の構成成分の違いで微生物を分類する化学分類の黎明期。分類の指標となる成分で新しい化学構造のものを偶然発見したりしているうちに研究が面白くなり、修士課程へ進んだのです」

1985年、理研にルーツを持つ科研製薬株式会社の中央研究所研究員に。「理研発祥の地である駒込に科研製薬の本社があり、理研のシンボルだった1号館で、創薬につながる微生物の探索とその分類・同定に携わりました。そのころ、"全ての生物学は分類学に通じる"、という中央研究所所長の言葉に励まされながら、分類学者はその生物についてもっと幅広く知るべきだと思い、多くの本を読むことを心掛けるようになりました」

多様性に魅せられて

1992年、理研の微生物系統保存施設(現 微生物材料開発室)へ。そこでは1981年以来、有用な微生物株の収集・保存・提供などのリソース事業を行ってきたが、新たにアーキアを加えることになった。アーキアとは、1977年にバクテリアとは異なる原核生物の系統として位置付けられた生物群で、1980年ごろからその研究が盛んになっていた。「それまでアーキアを研究してきたことはありませんでしたが、何となく面白そうだなと思っていたところ、機会を得てアーキア担当者として着任することができました。それ以後、アーキアや関連する細菌菌株のリソース事業を行う傍ら、新しいアーキアリソースの開発にも取り組みました」。1999年、アーキアの系統分類学的研究によって学位取得。

微生物の魅力は?「多様性です。微生物で培養されている種は1%、残り99%の種はまだ培養もされておらず未知のものだとされています。生命はいかに誕生し、そしてさまざまな生物に分岐し、多様化してきたのかに興味を持ち、それに関連した分野の本を見つけては読んできました」

地球に誕生した生命は、全ての生物の共通祖先を経て、やがてバクテリア、アーキア、そして真核生物に分かれていった。真核生物はその祖先細胞にバクテリアが共生してミトコンドリアとなり、誕生したといわれている。「長らく祖先細胞の起源は不明でしたが、最近はアーキアが祖先であったという説が有力視されています。真核生物はやがて単細胞から多細胞へ、また有性生殖などの能力を獲得し、いくつかの系統は動物や植物へと進化していきました。生命の起源から真核生物の誕生やその後の進化にエネルギーの視点から切り込んだ『生命、エネルギー、進化』(ニック・レーン)には感銘を受けました。アーキアを提唱したカール・ウーズを軸に進化史とその探究に関わった研究者を描いた『生命の〈系統樹〉はからみあう』(デイヴィッド・クォメン)は、自分が関わってきた微生物系統分類学の発展を見直すものとなりました」。

本の写真

自他ともに認める読書家、興味の範囲も広く「お薦めの本」は2、3冊には絞り込めない。

関心は人や社会にも広がる。「中高生のころ、国語で習った故事成語から中国史に興味を持ち、宮城谷昌光さんの古代中国を舞台にした作品などを愛読してきました。近年は、中国史以外の本にも手を延ばし、『銃・病原菌・鉄』(ジャレド・ダイアモンド)や、塩野七生さんの『ローマ人の物語』が興味深かったですね。生物と人の歴史を無理につなげて考えることはしませんが、人の歴史でも文化や文明の多様性とその成り立ちに興味があります」

学生のころから一貫して微生物の分類に携わってきたことを「有り難いことですね」と振り返る。「分類の立場から、これからも生物の多様性とその進化史に注目し続けていきます」

(取材・執筆:立山 晃/フォトンクリエイト、撮影:STUDIO CAC)

『RIKEN NEWS』2020年11月号「私の『科学道100冊』」より転載

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