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研究最前線 2021年10月11日

腸内細菌共存の秘密を解き明かす新手法

生態系に新たな生物が入ってきたり環境が急変すると、その生態系は変化し、別の形の安定に向かうことがあります。鈴木健大開発研究員は、慶應義塾大学、北海道大学との共同研究により、微生物生態系の安定状態や変動要因を解き明かす解析手法を新たに開発しました。研究モデルとなるバイオリソース(生物遺伝資源)として重要な腸内細菌について集団としての組成の安定性や、安定状態に至る道筋を俯瞰的に捉える手法として期待されています。

鈴木 健大開発研究員の写真

鈴木 健大(すずき けんた)

バイオリソース研究センター
統合情報開発室
開発研究員
1981年新潟県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻博士課程修了。博士(学術)。東京大学学術支援専門職員、国立環境研究所特別研究員などを経て、2018年より現職。

地形図を見るように腸内細菌集団の変化を捉える

ヒトの腸内に棲息する腸内細菌は約1,000種類、100兆個に及び、一つの生態系を形作っている。

腸内に新たな細菌が入ってくると、細菌集団としての構成が変わり、やがて安定状態に向かう。しかし同じ菌が入ってくる場合でも、外部から入る順番、食事、感染、加齢などの環境要因によっては、必ずしも同じ構成に安定していくとは限らない。

鈴木開発研究員らは、この腸内細菌の変動を、あたかも地形図を見るように大局的に捉えるため、「エネルギーランドスケープモデル」を用いて解析する手法を提唱した。近年、脳科学分野で脳の各部位の活動状態の解析に利用されてきたものだ。この手法を使うと安定状態がいくつあり得るのか、現在の状態が安定状態からどのくらい隔たりがあるかなどを一望できる。

この手法では、菌が「いる」と「いない」の情報だけを使う。例えば5種類の腸内細菌の一つの組み合わせを、【いる、いない、いる、いない、いない】のように表すと、最も小さい変化は、菌の有無が一つだけ変化した組み合わせで、例えば【いない、いない、いる、いない、いない】となる。一つの組み合わせを一つの点と見なし、菌の有無が一つだけ変化した他の組み合わせと線で結んでいくと、図1のように、変化の道筋を示すネットワークが出来上がる。菌の組み合わせの変化はこのネットワークをたどりながら進む。

エネルギーランドスケープ解析では、菌の組み合わせを示す「点」に「高さ」の情報を与える。高さとは点が現れる確率のことで、出現確率が高いほど安定な状態と言える。ランドスケープ(地形)として表す際は、出現確率が大きいほど低い場所、小さいほど高い場所を示すため、安定状態の点は窪地に位置する(図1、2)。

エネルギーランドスケープ解析における安定性の図

図1 エネルギーランドスケープ解析における安定性

下に行くほど安定性が高い。安定状態が複数の場合もある。色のグラデーションで互いに移りやすい組み合わせのグループを表現。

マウス腸内細菌集団の安定性を示す「地形」の図

図2 マウス腸内細菌集団の安定性を示す「地形」

腸内細菌集団の組成は、図のAやBなど低い地点で安定になる。しかし、加齢によってAとBを隔てる峰が低くなると、AからB、BからAに遷移しやすくなる。

健康な腸内細菌の組み合わせを復元できる可能性も

幼稚園児の頃は昆虫の研究者に憧れていたと語る鈴木開発研究員。大学時代にアサリの模様と数理モデルの関連性に気づいたことも、数学を使って生物の現象を解明する理論生物学をライフワークに選ぶきっかけの一つだった。

「この手法による解析で、腸内細菌の組み合わせと健康や病気との関連を知ることができます。さらに、健康時の組み合わせに戻せる変化の道筋も明らかになるかもしれません。今後さらに検証していきたいですね」と抱負を語る。

私たちの周りに存在する生態系をはじめ、生命現象のさまざまな状態遷移の理解に使えるだけでなく、広く他分野へ応用できる手法として期待される。

(取材・構成:中沢真也/撮影:相澤正。/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

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