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研究最前線 2021年10月26日

データの「共有」で生命科学研究のレベルをジャンプアップ!

超解像度の顕微鏡や特殊な光学技術、電子線を用いた観測など、近年、生命科学分野では、さまざまな画像取得技術(イメージング技術)が急速に進歩しています。しかし、そうした最先端の技術を使える研究者は少ないため、得られた画像データを公開し多くの研究者で共有しようという動きが世界中で広がっています。そのパイオニアとして世界をけん引する大浪修一チームリーダー(TL)に、画像データを公開する意義について話を聞きました。

大浪 修一の写真

大浪 修一(おおなみ しゅういち)

生命機能科学研究センター
発生動態研究チーム
チームリーダー
1968年東京都出身。総合研究大学院大学生命科学研究科遺伝学専攻(国立遺伝学研究所)修了。博士(理学)。慶應義塾大学助教授、理研基幹研究所チームリーダーなどを経て、2018年より現職。

個人の研究から世界規模のデータベースへ発展

学生時代から、生物の発生のしくみを数学的に理解することに興味があった大浪TLは、顕微鏡画像から細胞の形や動きを自動的に検出したり、画像データを数値化したりするソフトウエアを独自に開発してきた。

「世界でも初めてのアプローチだったので、学会などで発表するうちに、『この画像も解析してほしい』といったリクエストを大量に受けるようになりました。そこで、画像や画像処理したデータを一カ所に集め、誰でもアクセスできるようにすれば便利だと考え始めました」

アイデアに賛同する英国の研究者と共同研究をスタートさせたのが2010年。そして、2013年9月に生命科学の画像データを共有する統合データベース「SSBD(Systems Science of Biological Dynamics)database」を開設した。2021年5月には、大浪TLの主導により世界11カ国の研究者が、画像のデータ形式の標準化と共有のルールづくりに向けて国際的な提言を行った(図1)。

画像データ形式の標準化のイメージ図

図1 画像データ形式の標準化のイメージ

現在は画像取得機器メーカーや画像解析ツール開発者それぞれが独自のデータ形式を用いることが多いため、データが十分に活用されていない状況である。データ形式を標準化することで、データ提供者はツール開発者が開発したあらゆるツールの利用が可能になり、ツール開発者はデータ提供者が取得したあらゆるデータを対象としたツールの開発が可能となる。これにより、データ解析およびツール開発が加速的に進展する。

データをオープンにすることの意味とは?

当初は、研究成果が横取りされることを恐れ、画像データを公開、共有したがらない人がほとんどだった。しかし最近は、積極的にデータを公開する人が増えている。

「画像データを公開すると、他の研究者から共同研究の誘いが増えます。今、生命科学の分野でトップレベルの成果を出すには、物理や数学、情報科学といった異分野との連携が不可欠です。データを公開した方が、チャンスが広がるという認識が経験を通して浸透してきたのでしょう」

すでにタンパク質の立体構造やDNAの塩基配列など国際的な情報共有の仕組みが整えられている分野もあり、いまやデータの公開が当たり前の時代を迎えつつある。しかし、「単に共有するだけではつまらない」と大浪TL。「タンパク質やDNAなど異なる種類のデータと画像データを組み合わせることで、画像を見るだけで将来のタンパク質の発現の様子や細胞の運命など、これまで見えなかった世界が見えてくるはずです。それが生命科学研究のレベルをジャンプアップさせると期待しています」。オープンサイエンスの潮流の中、開かれた知の相互作用がますます加速していきそうだ。

バイオイメージングの例の図

図2 バイオイメージングの例

渡邉朋信TL(生命機能科学研究センター 先端バイオイメージング研究チーム)と共同開発した最新型光シート顕微鏡で撮影したマウス胚。

(取材・構成:秦千里/撮影:大島拓也/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

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