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研究最前線 2022年4月22日

史上最強!理研の加速器がギネス世界記録™に登録

2022年4月11日、理研の加速器「超伝導リングサイクロトロン(SRC)」がギネス世界記録に登録されました。記録名は、「ビームエネルギー最大値のサイクロトロン(Highest beam energy cyclotron)」。開発プロジェクト開始以来、長年にわたり開発、運用管理に携わってきた仁科加速器科学研究センター(埼玉県和光市)加速器基盤研究部の奥野広樹副部長に話を聞きました。

ビームエネルギーデータの確認をしている写真

量子科学技術研究開発機構と高エネルギー加速器研究機構から専門家を迎え、2022年3月28日に行われたビームエネルギーデータ82,400MeVを申請し、認定された。

結果を出した理研の果敢な挑戦

今回の登録は、SRC(図1)が2006年のファーストビーム発振以来、史上最強の重イオンビームを安定的に供給させ続けたことが認められた結果だ。

奥野副部長はこう語る。「実は以前からギネス世界記録への申請を検討していたのですが、見合わせていました。今回踏み切った理由は、15年もの長きにわたり“史上最強”を維持し続けられたこと、そしてそれこそが常識を覆す新たな発見と多くの研究成果を生んだことを、多くの人々に知ってほしいと思ったからです。SRCは日本の高い技術力の結集であり、このような世界一の加速器が理研にあることは日本の誇りです」

実際、開発段階では、SRCは「幻のサイクロトロン」と呼ばれていた。欧米各国が開発に挑戦したものの、技術的な難しさから断念していく中、果敢にも挑戦したのが理研だった。

「SRCの開発プロジェクトが決まったとき、加速器基盤研究部の矢野安重部長(当時)から、『SRCの開発1本でいけば世界一の栄誉が待っている』と説得され、決断しました。加速器を利用する立場から開発する立場に転向したのです」

超伝導磁石をリング状に並べた「超伝導リングサイクロトロン(SRC)」の図

図1 超伝導磁石をリング状に並べた「超伝導リングサイクロトロン(SRC)」

SRC全体は、東京タワー2個分相当という総重量8300トンの鉄の塊(紫色のシールド)で覆われている。ビーム強度だけでなく、重さも大きさも世界トップクラスである。天然に存在する92種類の元素が生成された過程を実験により確認するため、建設された。
実験期間中は、24時間体制で安定運転をモニタリングするなど、研究者・技術者・オペレーターなど多くの人の手で輝かしい業績を支えている。誰一人欠けても実験を遂行できないスタッフたちの団結力は大家族のようだ。

元素の起源の解明から産業分野への応用まで

そもそもサイクロトロンとは、どのような装置なのだろうか。サイクロトロンは、イオンを加速させるための円形加速器で、1932年に米国の物理学者が考案した。日本でも理研の仁科芳雄博士が中心となり、1937年に世界で2番目の開発に成功した。しかし、元素誕生の謎を解明するには、全種類の元素のイオンを光速の70%まで加速できる、より強力なサイクロトロンが求められた。「特に炭素よりも重い元素の重イオンで強力なビームを発生させる必要があり、そのためには『超伝導リングサイクロトロン』を完成させなければなりませんでした。発生する強力な電磁力の制御に手をこまねき欧米各国が断念する中、我々は装置全体を総重量8,300トンの鉄の塊で覆うという斬新な発想で成功したのです」。以来、理研の独壇場となったSRCを使うために、世界中から原子核物理学の研究者が訪れるようになった。

現在、重イオンビームのさらなる高強度化に向けたプロジェクトが進行中だ。「元素の起源の解明だけでなく医療や農業、環境など産業分野への応用も期待されています。今後もSRCを通して科学技術の発展に貢献していきます」

(取材・構成:山田久美/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

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