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研究最前線 2022年6月6日

根の長さの調節に関わる物質を発見!!

nobiro6(ノビロー6)株」という、シロイヌナズナの変異株の名前には、金俊植研究員の「根よ、伸びてくれ!」という願いが込められています。植物には高温、乾燥、病害など、さまざまな環境ストレスに対処する仕組みがあります。金研究員は植物のストレス応答を研究する中で、根の伸長の制御に関わるタンパク質(因子)を見つけました。

金 俊植の写真

金 俊植(キム・ジュンシク)

環境資源科学研究センター
バイオ生産情報研究チーム
研究員

植物の生きる力「ストレス応答」

「野原を自分の足で探索し、マイペースに研究したかった」と語る金研究員。大学時代はフィールドに出て花や葉を観察していたが、現在は、遺伝子解析や得られた大量のデータと向き合うデスクワークの日々だ。「生き物の研究ということでは、動物に比べて植物に関する研究は全般的にまだまだと感じています。その中では日本の植物学研究は世界的に進んでいて、恵まれた環境で研究しています」という。

ストレス応答を研究する魅力は何か。「動物は動くことができるので、暑ければ日陰に入ればいいし、喉が渇いたら水辺に行けばいい。でも、植物はそれができないので辛抱強く対応して生き延び、成長します。この見事で複雑な仕組みを解き明かしたい」と金研究員は話す。

根で乾燥を感じると葉での蒸散が止まるなど、植物にも動物の神経系統に相当する情報ネットワークが存在する。しかし、個々の細胞が感じた情報をどのように植物体全体で共有するのか、その仕組みは謎が多い。

根の長さが違う変異株に注目

「植物のエネルギーの使い方にも興味をそそられる」と金研究員。植物は通常、光合成や根からの吸収などによって得られるエネルギーが制限される環境では、成長とストレス応答に使うエネルギー配分は、トレードオフの関係にある。つまりまずは生き残ることを優先し成長全般は抑えられるのだが、根など個々の組織のトレードオフがどのようになっているかはよく分かっていない。

小胞体(細胞内にある膜状の小器官)を介して起こるストレス応答について、モデル植物のシロイヌナズナでは、三つのタンパク質(因子)がストレス応答や成長の制御に関わることが知られているが、具体的にどの因子がどう制御しているかの全貌は分かっていない。

金研究員らはこれまでの研究で、特定の二つの因子を欠損させた変異株「bz1728株」では、根が伸びなくなることを発見していた。ところが今回、bz1728株の遺伝子にランダムな変異を起こしたところ、根の伸長が回復する新たな変異株を得ることができた。これが「nobiro6株」だ(図1)。

nobiro6株の写真

図1 nobiro6

野生株(左)、bz1728株(中)、nobiro6株(右)の比較。bz1728株は根が伸びずに短いが、nobiro6株では根の長さが回復していることが分かる。

二つの変異株の違いを比べると、ストレス応答に関わる補助的なタンパク質「TAF12b」が根の伸長を制御していることが分かった。この制御機構をさらに解明すれば、根だけでなく葉や茎など、植物の形態の積極的な制御の可能性が開ける。

「社会や環境の変化により、農業の形態は大きく変わりつつあります。栽培環境や種類に合わせて植物の形を変えることができれば、食料生産は非常に効率的になります。例えば、根菜のニンジンの根が伸びたら収量がアップするので嬉しいですよね」と金研究員。この発見がもたらす将来に期待が集まっている。

(取材・構成:池田亜希子/撮影:相澤正。/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

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